「ビール瓶で頭を殴られた住民が死亡」「オーナーが殺された」だけじゃない⋯わずか4年で3人死亡【史上最悪の事故物件】の正体〉から続く

 住人同士の些細な口論が招いた、凄惨なビール瓶殴打事件。東京都足立区の小さなビルで起きた惨劇は、終わらない悪夢の序章に過ぎなかった。3年後の住人の謎の自殺、さらにその直後にはビルのオーナーまでもが何者かに惨殺され……。わずか4年で3人が命を落とした、「最悪の事故物件」とは。

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 大島てる氏の新刊『大島てるの怪談部屋 ヒトコワ事故物件』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)


写真はイメージ ©getty

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オーナーを殺害した犯人は⋯

 自殺の1年ほどあと、最初の傷害致死事件から4年あまりしか経っていない頃に、今度はオーナーが亡くなってしまったのです。何者かによる殺人でした。犯人は凶器を持ったまま逃げた可能性があるということで、当時は大きく報道されました。

 誰がオーナーを殺したのか。事件から間もなく、警察は60代のある男の行方を捜します。するとその男が、埼玉県の山奥にある沢の側溝の中で、死亡しているのが見つかりました。上半身裸の姿で横たわっており、死因は低体温症でした。

 警察は、男がオーナーを殺したのちに自殺を図ったと断定します。事件現場からは男の血痕が見つかっていましたし、事件当時、現場近くの防犯カメラに、この男と見られる人物が映っていました。どうやら男とオーナーの間には、金銭トラブルがあったようです。

 この男は、オーナーの元夫でした。平成13(2001)年頃からオーナー宅の上階に居住し、平成15(2003)年に2人は結婚。その約1年後に離婚し、男は引っ越しをしたようです。つまりこの事件は、2階に住んでいた元夫が、1階に住む元妻を殺したというものでした。

関係者4人が死亡した衝撃事件

 最初の事件から4年あまりの間に、住んでいた3人が死亡。埼玉県内で見つかった犯人まで含めるなら、関係者4人が死亡しています。

 これまで多くの事故物件を見てきましたが、別々の事件がここまで重なっているのは聞いたことがありません。事故物件としては最悪の物件と言っていいでしょう。

足立区は治安が悪いからそういうこともあるんじゃないか」と言う人もいますが、実際には足立区は安全な地域も多く、そもそも面積が広いため、そこまで事件は集中していません。

 大島てるでは、地図上に炎のマークで事故物件の情報を表示していますが、足立区に特別その炎が集中しているということもありません。

 事件・事故が重なったことは単なる偶然。現実は小説より奇なり、ということでしょう。

なぜ「事故物件サイト」を運営しているのか

 私が事故物件を集めたサイトを運営しているのは、新しく物件を買ったり借りたりする人が、過去に起きた事件・事故を正しく理解できるようにするためです。

 もちろん、過去の事件・事故をどれくらい気にするかは、人それぞれです。本書を読んでいる皆さんのなかにも「自分は事故物件でも気にしないよ、安くなるならありがたいね」という人もいるでしょう。

 しかし、考えてみてください。間取りや立地が似ていて賃料が同程度の物件が二つあるとします。不動産業者から「普通の物件と、先日事故が起きた物件があります」と言われたら、わざわざ事故が起きたほうを選ぶでしょうか。きっとほとんどの人は、事故が起きた物件に心理的な抵抗を感じて、普通の物件を選ぶはずです。

 また、事故物件であることが隠されて、賃料の値下げもされずに貸し出されていたとしたら、どうでしょうか。気づかずに事故物件に住み、あとから事実を知った場合、不快に思う人のほうが多いのではないでしょうか。

 殺人や自殺など自然死以外で人が亡くなった場合、宅建業者は宅建業法に基づき、契約前に告知する義務があります。また、令和3(2021)年に国土交通省が定めたガイドラインでは、賃貸物件の告知期間は「概ね3年間」とされています。

 しかし、3年より前に起きた殺人事件なら誰も気にしないのかと言えば、そんなことはないでしょう。それに、ガイドラインには法的拘束力がありません。罰則がない以上、宅建業者すなわち不動産業者が告知期間を守らない可能性が捨てきれません。そこで、契約する人が事前に正しい情報を得られるよう、大島てるで情報を引き続き公開しているというわけです。

58歳の息子が「81歳の母親」を殺害した

 さて、これから契約する物件であれば、事前に調べることで事故物件を回避することはできますが、すでに住んでいる物件で事件が起きることもあります。今回紹介するのは、そのなかでも特にインパクトのある事件です。

 平成22(2010)年2月中旬、東京都葛飾区のマンションの住人が、天井からポタポタと水が垂れていることに気づきました。住人の部屋は1階で、上の2階にも部屋があります。1階の住人は管理人に、「上の部屋から水漏れがある」と苦情を言いました。

 管理人は真上の部屋を確認しに行きます。

 すると驚いたことに、女性が玄関先で腹から血を流して倒れていました。しかも部屋の中には、初老の男もいます。男は女性の息子でした。58歳の息子が、81歳の母親を刃物で刺し殺したのです。

 凄惨な事件ですが、日本で検挙される殺人事件の約半数は、親族間で起きているというデータがあります。残念ながら、日本でこのような事件は珍しくありません。

 ただこの事件には、他の親族間殺人とは違う点もありました。息子は何を思ったのか、母親を殺したあとに水道の蛇口を全開にして、そのまま放置したのです。

 水は、徐々に部屋を満たしていきます。このマンションは鉄筋コンクリート造でしたが、わずかな隙間から水が伝わり、下の階へと溢れていきました。そう、下の部屋に垂れてきたのは、殺人事件の部屋から溢れ出た水だったのです。

 遺体は血を流して放置されていたわけですから、部屋を満たす水にも当然、血は混ざります。大量の水で薄められていますから、1階に伝わった時点では赤くはありません。ただ確実に、遺体が浸かり、血液が混じった液体が、1階の部屋にはしたたっていたのです。

殺人事件が起きた2階の部屋は「事故物件」だが⋯

 さて、殺人事件が起きた2階の部屋は、間違いなく事故物件と言えます。では水が漏れてきた下の部屋はどうなのでしょうか。

 先述したガイドラインによると、集合住宅における告知義務はあくまでも部屋単位。ある部屋で殺人事件が起きたとしても、その下の部屋に対して告知義務はないとされています。しかし、今回はどうでしょうか。殺人事件の被害者の血の混じった水が漏れた部屋も、事故物件とされるはずです。

 周辺の部屋が事故物件であることは調べられない。このような状況は、大きな問題だと考えています。

 大島てるで調べれば、事件が起きた部屋は見つけることができます。事故物件は嫌だと考えていれば、別の物件を探すことになるでしょう。しかし、もしもあなたが「事故物件の隣や真下の部屋もちょっと嫌だなあ」と考えていた場合、それを避けるのは少し難しいのです。

これもまた事故物件の怖さ

 たとえば、「205号室で事件があった」という情報を大島てるで見つけたとします。

「ならばその下の部屋は105号室だろう」と予想するかもしれませんが、集合住宅の各階の間取りは、階によって違うことがあります。

 1階はワンルームだけれども2階は2LDK、ということもあるでしょうし、1階はオーナーの部屋や郵便受箱があるから間取りが他と違うということも珍しくありません。205号室の真下は105号室なのかというと、そうとは限らないのです。

 事件・事故が起きた部屋だけでなく、周辺の部屋にも何らかの傷をもたらしているかもしれない。これも、事故物件の怖いところです。

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(大島 てる/Webオリジナル(外部転載))