スポニチ

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 9人組アイドルグループ「Next☆Rico」の雛瀬ひいなが、活動の原点と未来への思いを語った。30日にリリースされた2ndシングル「TickTack」を携え、新体制で新たな一歩を踏み出すグループ。その歩みは決して順風満帆ではなかった。就職活動中に見つけたオーディション、コロナ禍で迎えたデビュー、思うようなスピードで進まなかった時間。それでも前を向き続けてきた理由をたどると、「まだ何もできてないから、これからが明るいよね」という言葉に行き着いた。(「推し面」取材班)

 就職活動とは、自分の未来を選ぶ時間であると同時に、自分自身を見つめ直す時間でもある。電卓検定や簿記の資格を生かし、事務職への就職を目指していた頃、何度も向き合ったのは「自分は何をしている時が一番楽しいのだろう」という問いだった。

 企業研究や履歴書作成を進める一方で、頭に浮かんできたのは9年間続けたチアダンスの記憶だった。仲間と踊りながら誰かを元気づける時間。その楽しさを思い出した時、もうひとつ大切な存在にも気付いたという。

 「アイドルから元気をもらっているなと思い出して」

 当時好きだったのは、現在は解散している「妄想キャリブレーション」。そして「Stand-Up!」レーベルのアイドルたちだった。ライブを見て元気をもらう側だった視線が、いつしか「自分もそんな存在になれたら」という思いへ変わっていく。そんなタイミングでSNSに流れてきたのが、Next☆Ricoの前身グループ「Stand-Up! Next!」のオーディション募集だった。進路に迷いながらスマートフォンを眺めていた時間が、その後の人生を大きく変えることになる。

 もし別の会社に就職していたらどうなっていたと思うか。そう尋ねると、少し笑いながら返ってきた言葉が印象的だった。

 「アイドルはしていなかったかもしれないですね。人生分からないです」

 大げさな運命論ではない。ただ、人生は思い通りに進まないから面白い。そんな感覚がにじむ口調だった。

 アイドルとしてのスタートも決して順調ではなかった。2020年2月、研修生グループ「Stand-Up! Next!」として初めてのデビューライブを控えていた。ゲネプロも終わり、あとは本番を迎えるだけだった。しかし新型コロナウイルスの感染拡大によって公演は中止になる。ステージへ立つ準備はできていたのに、その先にあるはずだった客席は消えてしまった。

 約5カ月後、ようやく迎えた初ライブも無観客だった。レッスン場の鏡越しに想像していた景色はまだ遠かった。それでもメンバーたちは歩みを止めなかった。配信を続け、リレー企画を行い、ライブ出演権を懸けたイベントにも挑戦した。そして初めて有観客ライブの日を迎える。歓声は禁止されていた時代だったが、客席から響いた拍手の音は今も忘れられないという。

 「本当にアイドルとしてのライブが始まったんだなと思いました」

 その拍手には、不思議な温かさがあった。無観客ライブを見ていたファンたちが、声を出せない代わりにどう楽しむかを考えて会場へ来てくれていた。手拍子や拍手に込められた思いが伝わってきたからこそ、ようやくアイドルとしての時間が動き出した実感があった。

 活動を続ける中では、周囲と比べてしまうこともあった。もっと早く大きな夢をかなえていくグループもいる。その姿を見ながら、自分たちは決して歩みの速いグループではないと感じることもあったという。

 「私たちはすごくゆっくりな方だなって思ってました」

 それでも歩みを止めなかったのは、夢がかなうたびに一緒に喜んでくれる人たちがいたからだった。ミニアルバムの発売、新メンバーの加入、新しいステージ。ひとつひとつの出来事に対して、ファンが自分たち以上に喜んでくれる。その光景を見るたびに、もっと先の景色を一緒に見たいという気持ちが芽生えていった。

 支えになったのはファンだけではない。長い時間をともに歩いてきたメンバーの存在も大きかった。まだやりたいことがある。まだ見たい景色がある。そう言い合える仲間がいたからこそ、続けてこられた。

 だからだろうか。「もう駄目かもしれない」と思ったことはあまりないという。少し考えた後に返ってきた言葉は、この6年間の歩みを象徴しているようだった。

 「まだ何もできてないから、これからが明るいよね」

 一般的には不安として語られそうな言葉だった。しかし声色は驚くほど軽かった。足りないものを数えるのではなく、まだできることが残っていると考える。失った可能性ではなく、これから広がる余白を見る。その視線の向け方が、活動を続けてきた原動力なのだろう。

 その空いた余白を、自分自身の力で塗りつぶそうとしているかのように今、新しい技術の習得に貪欲だ 。昨年は裁縫教室へ通い、生誕衣装を自ら制作した。現在は中国語教室に通っている。ゲーム配信が好きで、中国語で話している内容を理解したいと思ったのがきっかけだった。テキストはもう終盤まで進み、今では配信中の言葉も半分ほど理解できるようになったという。未来の話になると、その表情は少しだけ柔らかくなる。

 そして次に挑戦したいのが、アクロバットだ。

 「最終的にはバク転できたら一番かっこいいなと思って」

 そう話す姿に思わず笑みがこぼれる。だが口調は意外なほど真剣だった。中国語が一区切りついたら教室へ通い、いつかライブでも生かせる技術を身につけたいという。9人の中でひとりだけステージ上をくるりと回る未来を想像しながら、安全第一ですけどね、と笑った。

 まだ何もできていない。だから、これからが明るい。

 そう言い切れる強さは未来を信じる才能なのだと思う。新しいシングルを手に歩き出した今も、その視線は次の景色へ向かっている。