排泄ケアの専門家が実母の介護で実感した、尊厳を傷つけられる苦しみ。解決策につなげるための「排便・排尿日誌」の書き方
高齢者の排泄ケアについて普及啓発を進めてきた第一人者、西村かおるさん。しかし実母の介護では思い通りにいかず、さまざまな壁に直面したといいます。試行錯誤の末にたどり着いた、負担を減らす介助のコツとは――(構成:古川美穂 撮影:藤澤靖子)
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<前編よりつづく>
排泄が変わると全身状態も改善する
私の母に限らず、排泄ケアを受ける側は皆さん、戸惑いや恥ずかしさ、負い目、尊厳を傷つけられる苦しみなどを、大なり小なり感じています。排泄介護はする側・される側それぞれに、受け入れるための時間がかかるもの。でも、困った状態はいつまでも続くわけではありません。
私の場合、状況が変化して介護が楽になったのは、母の病気がきっかけでした。蜂窩織炎(ほうかしきえん)という感染症にかかって右手が腫れ、おむつに入れる新聞を折れなくなってしまったのです。それを機に私が排泄ケアに積極的に介入したら、全身状態がどんどん改善していきました。
母は失禁性皮膚炎によるかゆみがひどく、そこに自分でアロエを塗っていたのです。でも適正な尿取りパッドに替えて正しく交換し、患部にはアロエの代わりに亜鉛華軟膏を塗ったら、一番つらかったかゆみがすぐに取れました。すると夜ぐっすり眠れるように。
睡眠が取れると体力がついて食事量が増え、体重も増加し、より元気になっていく。免疫も上がり、それまで頻繁にしていた咳が出なくなり、さらに夜よく眠れるようになるという好循環。
おむつを替えただけでオセロをひっくり返すみたいにパタパタと変化が起こりました。

<排便・排尿日誌の書き方>(図を拡大)
高齢になると、便が出ない、おなかが緩い、トイレが近い、かゆみがあるなど、悩みがたくさん出てきます。けれど年だからと諦めず、治せるものは治すのが鉄則。実際に介護を経験した専門家として、取り入れやすく、効果も表れやすい方法をお伝えしましょう。
排泄に関していうと、まず大切なのは現状を知ること。いつ、どんな便が出ているのか。排尿の間隔は、また尿の色や量はどうか。数日でもいいので記録を取ると、隠れていた問題点も見えやすくなります。
参考までに排便日誌、排尿日誌の一例を上に挙げました。本人から聞き取りできない部分は、家族や介護職の方など周囲が観察して記入してみてください。
たとえば排便回数が3日に一度であっても、バナナ状の便が出ていれば問題ありません。逆に毎日便通があってもコロコロ便が少量なら便秘です。
また便秘がちだからと下剤を飲ませて下痢をしたなら、それは行き過ぎ。下剤ではなく整腸剤にするなど、薬の処方を変えてもらうよう医師に相談しましょう。

<本人の姿勢保持と移動能力に応じて使える排泄介護用品>(図を拡大)
腸内環境を整えることも重要です。発酵食品や食物繊維などを積極的に取り入れるなど、家庭でできる改善方法はいろいろあります。尿臭や便臭を抑えたり、腸内環境を整えたりするサプリメントやゼリー、食物繊維が摂れる飲料など、便利な市販品もいろいろ出ているので、試してみてもいいかもしれません。
頻尿も原因によっては病院で治療することも可能。また、先に紹介した排尿日誌と水分摂取も含めた食事日誌を一緒につければ、水分摂取量が適切かどうかを確かめられます。
市販の紙おむつはパンツ式やテープ式、尿取りパッドなどさまざまなタイプがあり、サイズや吸収量も幅広く展開。尿量は人によって異なり、日中と夜間でも違うので、どのおむつや排泄介護品が適切かなど、わからないことは介護士や看護師、介護用品の専門家などに気軽に相談してください。各おむつメーカーのフリー相談ダイヤルもあります。
どんな困りごとでも解決策はあるものです。大事なのは決してひとりで抱え込まないこと。私自身、「私と母、どちらが先にダメになるかを競っているようだ」と感じるほど壮絶な時期もあったものです。
母の介護中は、本当に多くの方々に支えてもらいました。最終的には「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という介護保険のサービスを活用。地域の合同会社のスタッフが朝昼晩の毎日3回、短時間ずつやってきて、排泄や食事の介助を担っていただいたのです。
母が寝たきりになってからはヘルパーさんのサポートも受けながら、24時間態勢で体位交換し、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)ができないように努めました。

おかずは1種類ずつ小皿に盛り付けて。食べたものを把握しやすく、食べ終えた時の達成感を得やすいという(写真提供:西村さん)
「介護をやめる」という選択肢もある
自尊心が高く気丈で、最後まで私に「ありがとう」とは言ってくれなかった母。でも私がいない時に、「あなたの姿が見えないと、必死に目で探していた」とお見舞いに来た人から聞いた時は、不覚にも泣いてしまいました。
母が亡くなって2年半。やれることはすべてやり切ったと思えるので、悔いはありません。ただ、誰もが必ずしも「最後まで自分で介護するのが正解」とは思っていないのです。
人ひとりの人生のゴールまで伴走するのは、本当に大変なこと。ストレスや疲れが積み重なり、相手を殺したい、自分も死にたい、と追いつめられるぐらいなら、手を放したほうがずっといい。「介護をやめる」という選択肢があると、常に心に留めてほしいと思います。
そのためにも、そもそもなぜ「自分で介護をしたい」と思ったのかを、まずは見つめることが大切です。
私の場合は自分が専門家として携わってきたことが、家族介護でどこまで通用するか知りたかった。家で看取りたいというのも、母のためというより自分のためでした。
最終的には自分がどうしたいか。それは相手に問うことではなく、自分に問うことです。やりたいと思って始めたけれど、限界が来たと思ったらやめればいい。あるいは最初から割り切って施設に入居してもらい、頻繁に会いに行くのでもいいのです。
いいとこ取りで構いません。介護する相手のためではなく、する側の人のための選択をしてほしいと思います。あなたの人生はあなたのものなのですから。

