ダイエットを始める人が陥りがちな罠がある。内科医で日本ケトン食療法学会理事長の萩原圭祐さんは「ご飯を抜く糖質制限は、一時的に体重を落とせても、体を『飢餓状態』に近づける。筋肉量が減り、かえってリバウンドしやすい体になってしまう恐れがある」という――。
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■「ご飯抜きの糖質制限ダイエット」の落とし穴

夏が近づき、薄着になる季節になりました。鏡の前で「こんなはずじゃなかった」と慌ててダイエットを始める方も多いのではないでしょうか。そのとき、多くの人が最初に行うのが「糖質制限」です。そして、よく行われているのが「ご飯を抜く」という方法です。

しかし、私は内科医として32年診療を続け、14年以上にわたりケトン食(低炭水化物・高脂肪の食事)を研究してきた立場から、安易な「ご飯抜きの糖質制限ダイエット」はあまりおすすめしていません。

大切なのは、一時的に体重を落とすことではなく、「太りにくく、痩せやすい体質」をつくることです。

私自身は、ケトン食の研究を始める前、糖質制限ダイエットを実践しました。

ご飯を一切食べずに生活したところ、1か月で3〜4kgほど、みるみる体重は落ちました。ただ、その間は空腹感が強く、非常にストレスが大きかっただけでなく、肌が乾燥して、唇も切れました。そして、糖質制限を緩めた瞬間に体重はあっという間に元通りになりました。いわゆるリバウンドです。

実は、この現象は珍しいことではありません。

糖質制限を行った多くの人たちから、よく聞く話は、「最初は痩せるが、その後リバウンドを繰り返し、だんだん痩せにくくなる」のです。それは、なぜでしょうか?

■痩せたのではなく「飢餓状態」と同じ

糖質制限ダイエットでは、定食のご飯だけを抜く方法がよく行われます。

確かに、ご飯お茶わん1杯は、糖質は約50gで、エネルギーは約250kcalになります。朝・昼・夕と抜けば、それだけで約750kcal減少します。30〜40代の成人男性の1日摂取カロリーの目安は約2500kcalですから、1日の摂取カロリーは1750kcalになります。

これは、ダイエットで推奨される摂取カロリーなので、「糖質制限だから痩せた」のではなく、単純に摂取カロリーが減った結果として体重が落ちているケースが少なくありません。

頭では、ダイエットをしていることになりますが、体にとって、ご飯が食べられない急激なカロリー制限は「飢餓状態」と同じになります。これが問題なのです。

人間の体には、生き延びるための優秀な防御システムがあります。飢餓・怪我に強いと言われます。自然界には、そもそも、コンビニもなければ、病院もありませんので、その環境に適応して我々の祖先は進化したのです。

■カロリー不足で筋肉が減るリスクも

そのため、飢餓においては、体は、一気に省エネモードへ切り替わります。腎臓は、貴重な糖をできるだけ再吸収し、尿中に無駄に排出されないようにします。糖質が摂取されないので、筋肉は分解されてアミノ酸が取り出され、それを材料に、肝臓で糖を作る「糖新生」が活発になります。そのため、糖質制限ダイエットでは、大切な筋肉が減ってしまうのです。

一時期、よく行われた16時間ダイエットでも、同様に筋肉量が減少することが報告されています。

筋肉は基礎代謝の大部分を担っています。筋肉量が落ちると、日常生活で消費するエネルギーが減ってしまいます。さらに、筋肉には、食事でとった糖を体の中に取り込む大切な役割があります。その状態で、糖質制限をゆるめて糖質を多くとると、エネルギーとして使いきれなかった糖は余ってしまいます。

余ったエネルギーは中性脂肪として肝臓にたまり、脂肪肝につながることがあります。脂肪肝になると、肝臓の働きにも影響が出ます。本来、インスリンは血液中の糖を体に取り込ませるためのホルモンですが、肝臓に脂肪がたまり炎症が起きると、このインスリンが効きにくくなります。これが「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態です。

■リバウンドは意志の弱さではなく体の仕組み

インスリンが効きにくくなると、糖をエネルギーとしてうまく使えず、さらに余った糖が脂肪として蓄積され、余計に脂肪肝が進んでしまいます。そのため、糖質制限をゆるめた途端に体重が戻りやすくなったり、以前より太りやすくなったりするのです。

写真=iStock.com/Dacharlie
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つまり、安易な糖質制限ダイエットを何度も繰り返すほど痩せにくくなるのは、意志が弱いからではありません。筋肉量の低下から、脂肪肝が引き起こされ、炎症によりインスリンの働きが低下するなど、体の仕組みが関係しているのです。

大切なのは、糖質を減らすことではなく、体がどのようにエネルギーを使い、脂肪をため込むのかという仕組みを理解することです。痩せるためには、体の仕組みに合った方法で、無理なく続けられる食事と生活習慣を整えていくことが重要です。

■そもそも「ご飯は太る」は本当なのか

外来でも患者さんから、「先生、ご飯は炭水化物のかたまりだから体に悪いですよね?」と聞かれることがあります。日本は、ある時期から、ご飯を悪者にすることが多いのですが、本当にそうなのでしょうか?

データを見ていくと、事実は異なることがわかります。

2022年に厚生労働省が発表した『日本人の栄養と健康の変遷』によれば、2019年の日本の肥満者(BMI※30以上)の割合は4.6%でした。これは、他の先進国と比較してどうでしょうか? アメリカ42.8%、イギリス28.0%、ドイツ16.3%(2017年)、フランス14.4%、イタリア11.0%と、明らかに低い水準なのです。

※肥満の指標として用いられる体重〔kg〕を身長〔m〕の二乗で割った値のこと

日本人は、高度経済成長期以降、食生活の欧米化とともに、ご飯を食べなくなってきました。もし本当に「ご飯を食べるから太る」のであれば、日本人は昔より痩せていくはずです。

ところが実際は逆でした。米の摂取量が減少する一方で、日本人男性のBMI25以上の軽度肥満の割合は2007年まで上昇し、その後も25%を超えた状態が続いています。

つまり、「ご飯を食べるから太る」のではありません。ご飯を食べていた日本人が圧倒的に痩せており、ご飯を食べなくなってから逆に太ってきているというのが事実なのです。

■悪いのはご飯ではなく、「食べ方」だった

2020年に発表された多目的コホート※の結果では、食物繊維摂取量が多い男女ともに、死亡リスクが低い傾向が示されています。

※特定の集団を一定期間追跡し、その集団の生活習慣や健康状態を観察する研究

昔の食卓では、ご飯に加えて、お味噌汁、豆腐や納豆、焼き魚、海藻、漬物などが並んでいました。一方、現代では、忙しい朝に、菓子パンや食パンだけで済ませている方も少なくありません。そこにジャムを塗り、砂糖入りのカフェオレやジュースを合わせる。これでは、糖質が過多になり、たんぱく質や食物繊維、ミネラルは不足しやすくなります。その結果、いわゆる腹持ちが悪くなり、午前中に甘いものが欲しくなったり、昼食に食べ過ぎたりします。

写真=iStock.com/kuppa_rock
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本来の和食は、ご飯に、納豆、卵、お味噌汁、魚、豆腐、海藻などが組み合わさり、血糖値の上がり方は緩やかになり、満腹感も持続しやすくなります。結局、ご飯が悪者なのではなく、その前提となる食事バランスが崩れてきたことこそが問題なのです。

では、失敗しないダイエットには何が必要なのでしょうか。

重要なのは、体が飢餓を感じないように適切なカロリーを確保することです。そして、筋肉量を維持するために十分なたんぱく質を摂取することも欠かせません。さらに、不足するエネルギーは脂質、特に中鎖脂肪酸(MCT)などを活用して補うことが大切です。中鎖脂肪酸はココナッツオイルなどに豊富に含まれています。

■リバウンドを防ぐカギは「ケトン代謝」

人には、日中の活動で主に利用される糖をエネルギー源とする代謝経路とは別に、脂肪から作られるケトン体を利用する「ケトン代謝」という仕組みが備わっています。本来、ケトン代謝は睡眠中や絶食時など、糖の供給が少ない時間帯に働き、体の修復やエネルギー供給を支えています。先ほど述べた中鎖脂肪酸(MCT)は、このケトン体を誘導するのに効果的です。

ここで誤解してはいけないのは、ケトン代謝は単に糖質を抜くだけでは十分に活性化しないということです。無理な糖質制限でカロリーまで不足すると、体は飢餓状態と判断し、筋肉を分解してしまいます。その結果、基礎代謝が低下し、かえってリバウンドしやすい体になってしまいます。

一方、適切なカロリーを確保しながら、たんぱく質と良質な脂質を十分に摂取し、糖質量を適切に調整すると、体は筋肉を維持したまま脂肪をエネルギーとして利用しやすい状態へ切り替わります。

私たちは14年以上にわたりケトン食の研究を続けてきましたが、この代謝経路を適切に活用することで、筋肉量を維持しながら脂肪量を減らし、リバウンドしにくいダイエットにつながることを確認しています。

無理にご飯だけを抜いて糖質制限で苦しむよりも、脂肪を効率よくエネルギーとして使える“痩せやすい体質”を目指すこと。それこそが、健康的で、リバウンドしにくいダイエットへの近道ではないでしょうか。

写真=iStock.com/1989_s
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/1989_s

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萩原 圭祐(はぎはら・けいすけ)
内科医・日本ケトン食療法学会理事長
大阪大学微生物病研究所招へい教授。医学博士。1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年大阪大学漢方医学寄附講座准教授を経て、2017年から大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)として2025年3月まで研究活動を行う。
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(内科医・日本ケトン食療法学会理事長 萩原 圭祐)