韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は28日、X(旧ツイッター)に「予想外の結果に戸惑いを通り越して、あきれている」とつづった。

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 サッカーワールドカップ(W杯)北中米大会で、韓国代表が決勝トーナメント(32強)に進めなかった事態に対する怒りの投稿だ。李氏は「結局、人事がすべてであることが改めて証明された」とし、「能力よりも身内かどうかを重視し、無能な人物を指揮官に選べば、結果は火を見るより明らかだ」とし、洪明甫(ホン・ミョンボ)監督を猛烈にけなした。


李在明大統領 ©時事通信社

怒りをぶちまける韓国政府元高官

 確かに、韓国代表の戦いぶりは失望を招いた。

 12日(日本時間)のチェコ戦には2―1で勝利したが、19日(同)のメキシコ戦は0―1で敗戦。引き分けでも決勝トーナメント進出を決められた25日(同)の南アフリカ戦も0―1で敗れ、1勝2敗でグループステージ(1次リーグ)を終えた。25日、約束した昼食の場所に向かう途中、パブリックビューイングが開催されたソウル中心部・光化門の広場を通り過ぎた。韓国代表が得点できず、ボールを奪われるたびに、観衆から失望の声が上がった。昼食を共にした韓国政府元高官は、敗戦を知らせるスマホ画面を見せながら、「こんなのはサッカーじゃない」と怒りをぶちまけた。

 SNSは韓国代表や洪監督への罵詈雑言であふれた。韓国の聯合ニュースは「洪明甫監督『出入り禁止』、殺害予告まで…警察も警戒」と報じた。洪監督は29日、メキシコ西部グアダラハラ近郊のサポパンにある練習拠点で記者会見し「国民の皆様に心から申し訳ないという言葉をお伝えする。代表チーム監督の座を降りる」と述べた。

 ところで、李在明氏が語る「能力よりも身内かどうかを重視する」とはどういう意味なのか。

大学が持つサッカー界への影響力

 韓国大手紙幹部は「洪明甫氏は高麗大学出身。大韓サッカー協会の鄭夢奎(チョン・モンギュ)会長も高麗大学だ。洪氏の監督就任当時、鄭氏の強い意向が働いたという噂が根強く流れていた」と語る。

 高麗大学のサッカー部は強豪で有名で、過去に洪氏やサンフレッチェ広島などで活躍したミッドフィルダーの盧廷潤(ノ・ジョンユン)、複数のワールドカップ大会で活躍したストライカーの朴主永(パク・チュヨン)など名選手を輩出してきた。自然と大韓サッカー協会でも一時、高麗大出身者の発言力が強くなる傾向があったという。

 韓国では「学縁(ハギョン)」という言葉がある。卒業した高校や大学を重視し、同窓であれば、優先的に処遇する社会文化だ。

 しかし、洪明甫監督を巡っては「Kリーグの蔚山現代で連覇を果たしたものの、代表監督としての戦術の引き出しには疑問の声があった」「今回のW杯でも戦術が平凡で、相手に見抜かれた」「代表チームの大黒柱の孫興民(ソン・フンミン)を第3戦で先発から外した」などの批判も上がっている。

 ただ、Kリーガーを親族に持つソウル市民は「第1戦、第2戦での孫興民のパフォーマンスは明らかに落ちていた。結果論で洪を批判しているだけで、勝利すればこれほど非難を浴びることはなかった」と語る。

 前出の韓国大手紙幹部も「高麗大学の韓国サッカー界への影響力は、最近は強くはない」とも語る。主に、ユース出身者がプロ入りする日本と異なり、韓国では現在も「学院チュック(学校でのサッカーチーム)」からプロ入りする選手が相当数いる。日本と異なり、古くからサッカーが盛んだった時代の名残だが、逆に言えば、最近は「ユース・チュック」で育つ選手も多い。洪監督も「韓国サッカー界の至宝」と呼ばれ、監督就任時にその手腕を疑問視する声が目立って多かったわけではない。

 では、李氏はなぜ、「スポーツへの政治介入」とも受け取れる強硬な発言をしたのか。

 まず、極貧家庭に育ち、高校に通わず、特待生制度で比較的無名の韓国中央大学に入った李氏としては、「学縁」は忌むべき対象だと言える。

Xの投稿回数が明らかに増える李在明大統領

 また、韓国政府元高官らの証言によれば、李氏は大統領就任時の1年前に比べ、明らかにXに投稿する回数が増えている。証言した一人は「李氏は(与党の)共に民主党でも少数派。国民に直接訴えないと権力を維持できないと考えているようだ」と語る。

 8月には同党代表選が行われる。李氏が推す金民錫(キム・ミンソク)前首相と、強硬左派で党内主流派の鄭清来(チョン・チョンネ)前代表の争いになるとみられている。別の証言者は「次の代表は2028年総選挙での党公認権を持つ。鄭清来氏が当選すれば、党が李氏の言うことを聞かなくなり、レームダックが始まるだろう」と話す。

 今回の過激なX投稿は、不安と不満を募らせる李在明氏による「八つ当たり」だとも言える。韓国は伝統的に、スピードやロングパスを重視する組織サッカーを志向してきた。洪明甫氏は辞任会見の最後に「私は代表チームが再び国民の信頼と愛情を勝ち取るチームへと成長することを心から願っている」と語った。政治の介入をはねのけ、「太極戦士」が世界で再び活躍する日も必ず来るだろう。

(牧野 愛博)