萩本欽一(22)伝説のコント「机」はたった10人の客から始まった「幕前、お金要らないからって」【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ〜んぶ話しちゃう!」】
【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ〜んぶ話しちゃう!」】#22
【前回を読む】萩本欽一(21)「これが失敗したら堅気になる」キャバレーの司会をやっていた坂上二郎からの運命の誘い
作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。
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増田「熱海の温泉街へ流れて、そこで湯に漬かりながら東京でのさまざまな疲れをとっていた」
萩本「そうです」
増田「そこで『机』という一人コントを思いついたんですね」
萩本「そう。半年ぐらいで『机』を思いついたんです。『よし。このネタ持って浅草に戻ろう』と思って帰ったの」
※机のコント:机の前で演説をする講師役の坂上二郎とそれにちょっかいを出しまくって邪魔をする書生役の萩本欽一がツッコミとボケを繰り返すコント。のちに役を入れ替え、体当たりあり、跳び蹴りあり、2人が舞台上を所狭しと走り回ってやり合う姿が大爆笑を生んだ。最後は演説をする萩本欽一の机の脚を坂上二郎がのこぎりでどんどんと切っていき、駅弁売り状態となってしまう。
増田「それで浅草の3畳間に戻ったら、下から『欽ちゃん電話よ』って豆腐屋の奥さんに呼ばれて」
萩本「電話出たら二郎さん。『遊びに来ない?』って言うんで会ったんです」
増田「それで『コンビ組もうよ』って話に?」
萩本「いやいや。俺はコンビは組みたくない」
増田「仲が悪かったから」
萩本「はい、そうです」
増田「当時は二郎さんにあまりいい印象は持ってない」
萩本「うん。会ったら二郎さんが『欽ちゃん、これから何すんの?』って言うから、机のコントを思いついたんで、それをやりに帰ってきたのって言ったら、『机のどういう話?』って聞くの。説明したら『それ、おかしいじゃん。面白いじゃん』て言うのよ。『でも、自分で机の脚を切って自分でひっくり返るってウケないよそれ。誰かに切られたからひっくり返んじゃないの?』って言うの」
増田「たしかにそうですね」
萩本「うん。それはそうだねって思って、『じゃあ二郎さん、やってくれる?』って聞いたら『うん、いいよ』って。でも、コンビを組まないからね。だからコンビ名はなし」
増田「なるほど」
運命のボケとツッコミの入れ替え
萩本「支配人はね、僕が劇団やってた時も知ってるんで『机』の話をして、二郎さんを出してほしいって頼んだら『いいよ』って『じゃあ1月から出してやる』って。でも、半年先っていうのはきついじゃない。『ね、来週出して』って懇願したんだけど『もう半年決まってんだから、そんなものダメだよ』って言う。だから『だって10時に会場が開いて10時半に幕が開く。その30分は空いてるじゃない』って言ったの。『そこでいいからやらせて。お金要らないから』って食い下がったら『うるせえなおまえ、わかった、幕前ならやりゃいい』つってやったの」
増田「それでお客さんが入る幕の前にそのコントをやったと」
萩本「そうそう」
増田「15分ぐらいですか?」
萩本「20分くらいはやったと思いますね。開場するのが開演の30分前の10時なんで。10時半に幕が開いて本番が始まるわけ」
増田「幕前に萩本さんと二郎さんがコントやってる時間は何人ぐらいのお客さんが入ってたんですか?」
萩本「えーっと、だいたい10人。でもね、これも運だけど、いい人が出てくるんだよ。大道具さんが3日目にね、幕をパーッと開けてくれたの。舞台には何もないけど、舞台は舞台。ちょうどその頃、ツッコミとボケの役も替えた、二郎さんに替えた方がいいんじゃないって言われて」
増田「机のコントを2回やって、そのあとにブロンディでコーヒー飲みながら話して」
萩本「そう。で、替わったらバカウケ。これもね、やっぱり運」
増田「で、ウケるから、支配人の方から、じゃあ、中に入れようという話を?」
萩本「中に入れてくれたのが、大道具さんが幕をピューって開けてくれたから、普通に開演前に」
増田「それがバカウケした」
萩本「10人の人にね」(つづく =火・木曜公開)
▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。
▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
