「ボンカレー」のノウハウ継承を途絶えさせないために先手 大塚食品が独自開発のAIシステム活用開始 過去の失敗レシピも価値に

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 大塚食品は、人手不足などによりロングセラーブランド「ボンカレー」をはじめとする製品群の技術・ノウハウの継承が困難になる恐れに先手を打ち、独自開発のAIシステムの活用を開始した。

 一般的に、ロングセラー商品の中身開発は一度で終わることはなく、その時の原料事情や社会環境の変化を踏まえ、不定期的に見直しが求められる。

大塚食品琵琶湖研究所(滋賀県大津市)

 大塚食品琵琶湖研究所(滋賀県大津市)では、1983年の設立以来、試作経験を重ねることで蓄積された味づくりの技術・ノウハウが、熟練研究員から若手研究員へと受け継がれている。

 熟練から若手への継承にあたっては感覚的な要素や非言語の要素に頼るところも大きく、若手は時間をかけて技術を体得していく。ただし、昨今の人手不足や売り手市場の傾向を鑑みると、そのサイクルが揺らぎかねないという懸念が浮上。このことが開発の背景となる。

 円滑な継承を阻む事象としては、研究員の中で風味に対しての認識のズレや知覚のズレが生じうることや、紙の資料がハードファイル1000冊以上で保管され情報のピックアップが困難である点が挙げられる。

琵琶湖研究所分析室の石川泰平主任研究員

 このような課題を察知して開発を主導したのは大塚食品琵琶湖研究所の石川泰平さん。

 6月16日、同研究所で発表会に臨みAIシステムのメリットについて「研究員の視点では、いつ誰が何をしていたかというところと、その時にどのような判断材料があったのかを後からでも学ぶことができる。レシピノートの無数の束をあたってもどこがポイントなのか把握しにくいが、AIがデータを解釈して見せてくれる。先人の気づきや経験を現在において見える化し、残せておけるのが大きなメリット」と説明する。

 先人の試行錯誤を追体験できるという点で、最終製品レシピに至るまでの数々の失敗レシピがAIの学習データとして価値のあるものに転換する。

 「成功に至るまでに膨大な試作を重ねており、従来の研究開発の考え方では成功したものにしか価値を見出していなかったが、AIの学習データとしては物凄く重要になる。これまでたくさん積み重ねてきたデータが役立つことになる」と力を込める。

 AIをあくまでサポート役として活用していく。
 「熟練から若手にきちんと技術を継承していく体制に変わりはない。一方で研究を手助けするツールとして、予期していないことが起こったときにも対応できるようなスタンスで使っていくのがいい」と捉えている。

「おいしさLENS(レンズ)」イメージ

 独自開発のAIシステムの名称は「おいしさLENS(レンズ)」。大塚ホールディングスグループIT部との協業で開発された製品開発支援の予測AIとなる。

 LENSとはLogical(論理的)・Exploration(探索)・Navigation(導く)・Systemの略で、レンズを通して焦点を当てるように見えなかったものを鮮明に捉え新しいおいしさを探求していく。

 具体的な機能の一例には、特定の原材料が風味に与える影響を可視化する機能が挙げられる。
 例えば「ボンカレー」の場合、特定の原材料が、どの程度「ボンカレー」らしさに影響しているかの重要度を数値で把握可能となる。重要度がランキングで示されることで、原材料の調達状況が変化した時には、代替原料の優先順位が決めやすくなる。

 この機能は、おいしさ、安定供給の維持・創出に寄与しうる。

 「昨今、世界各地の情勢変化などが原材料の供給に影響を与える可能性がある状況において、我々としては代替原料を検討する際、おいしさを妥協したくないという研究員の思いは強い。こうした状況において、レシピの組み合わせやアイデアでカバーしていくことにつながっていく」と語る。

分析室の鈴木真美研究員

 「おいしさLENS」の予測は熟練研究員の感覚と一致するだけでなく、利用者も気づかなかった新しい試作案まで提示できることも確認された。

 AIが開発データを学習してレシピの散布図を生成し、散布図の中から最適なレシピを提示。これによりレシピアイデアが尽きた際や自らの発想を超えたものを見つけ出す際のサポート役を担う。

 消費者の嗜好性アンケートをデータとして組み込むと「試作品がどんな人にどのように好まれるか」までが予測可能になるという。

 オリジナルAI予測モデルの構築と同時に進めたのが、開発ノウハウとAI学習データを集めた開発プラットフォームの構築。
 約40年分、数十万ページにのぼる紙の資料をAI OCR技術で電子化して必要なときに即時に検索・参照できるようにした。

6月16日、発表会に臨んだ琵琶湖研究所分析室の石川泰平主任研究員(右)と分析室の鈴木真美研究員

 「おいしさLENS」には、複数のサンプルの差異が一目瞭然で把握でき、おいしさの違いに影響を与えている要因を突き止める「おいしさマップ」と称する機能もある。

 「ボンカレー」では、官能評価3項目とセンシング機器により食べ応えなどを数値化し「おいしさマップ」で要因を分析しおいしさの要因を探索した。

 琵琶湖研究所分析室でセンソリー(感覚)を担当する鈴木真美さんは、「おいしさマップ」を使い、冷蔵のじゃがいもと冷凍のじゃがいもそれぞれ使用した「ボンカレー」の差異について「冷蔵は冷凍の約3倍の歯ごたえがあり、約1.5倍崩れにくいことがデータで証明された。食べ応えの影響度を数値で示すこともできる。ランキング1位が『ひとくちめの歯ごたえ』、2位が『崩れにくさ』、3位が『深く押しつぶした硬さ』といった具合に、食べ応えに影響を与えていた要因を見える化できる」と説明する。

 「ボンカレー」では手作りカレーの味を志向して「ボンカレーゴールド」「ボンカレーネオ」においては冷蔵のじゃがいもを使用している。

 今後は、収集したデータと予測技術に味覚センサー、香りセンサー、テクスチャーアナライザー(食感測定機器)などによる測定値を組み合わせることで、さらなるおいしさの見える化を進めていく。
 「ボンカレー」から他のブランドへの展開も予定している。

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