百貨店 の入り口はバッグからコスメへ 広がる「体験型フロア」競争

記事のポイント
百貨店が入り口にビューティーを配置し、投資を拡大する動きが加速しており、背景には体験型需要の高まりと競争環境の変化がある。
メイシーズとノードストロムは改装を通じて、無料サービスやリラクゼーション空間、フレグランス売り場の拡張など「高タッチ体験」を強化している。
米百貨店市場は変革期にあるが、補充需要が強いビューティー領域は依然として堅調で、売上回復を支える重要カテゴリーになっている。
百貨店が入り口にビューティーを配置し、投資を拡大する動きが加速しており、背景には体験型需要の高まりと競争環境の変化がある。
メイシーズとノードストロムは改装を通じて、無料サービスやリラクゼーション空間、フレグランス売り場の拡張など「高タッチ体験」を強化している。
米百貨店市場は変革期にあるが、補充需要が強いビューティー領域は依然として堅調で、売上回復を支える重要カテゴリーになっている。
それから3カ月後、南へおよそ20ブロック下った場所で、メイシーズ(Macy’s)でも同じような変化が起きている。
「ビューティーの未来は『いま』であり、それを旗艦店でしっかりと提供していく段階にあると考えている」と語るのは、メイシーズのビューティー担当VP兼DMMのニコレット・ボスコ氏だ。「(CEOのトニー・スプリング氏が掲げる)『Bold New Chapter』というビジョンからはじまり、何より顧客体験を高めるという方向性が明確になった」。
メイシーズは歴史あるヘラルドスクエア店で、正面入り口にあったハンドバッグ売り場を別の場所へ移し、改装したビューティーフロアを公開した。2段階からなる改装の前半は2025年のホリデー商戦に間に合うように完了し、ディオール(Dior)やシャネル(Chanel)といったデザイナーブランドの新しい店頭ディスプレイを導入したほか、高級スキンケアのオーガスティナス・バダー(Augustinus Bader)や、ニッチフレグランスの先駆者バイレード(Byredo)などの新ブランドも取り扱い始めた。
ボスコ氏によれば、2026年に改装が完了すると、店舗はビューティーのために約54000平方フィートのスペースを割くことになる。
百貨店が体験型へシフトする背景
こうした投資は、ラグジュアリーアパレルの売上が減速する一方で、ビューティーが販売を牽引する存在であること、そして競争が激化するなかで「体験型リテール」の重要性が増していることを示す。
セフォラ(Sephora)やアルタ(Ulta)のようなリテーラーは店舗展開を広げ、従来の百貨店カウンターを介さず、消費者が美容商品にたどり着ける手段を増やしてきた。さらに近年ではAmazonが、オンライン配送の利便性を備えた大型のビューティーセレクションを強化している。
「ビューティーというカテゴリーは非常に強い来店動機を生み出す。歴史的にみても、ビューティーは入り口付近に配置されてきた。なぜなら消費者の目を惹きつけ、そこから百貨店内のほかの売り場へと足を運ばせる役割があるからだ」と語るのは、JPモルガンの北米ビューティー投資銀行部門トップであるフェイフェイ・ザン氏。
「しかし専門店やオープンセル形式の競争力が高まったことで、プレステージビューティーの利便性は飛躍的に高まった。百貨店はそれに抵抗し続けてきたが、その結果としてセフォラやアルタなどが台頭する流れにつながった」。
「高タッチ」なサービスが差別化の鍵
こうした競争環境で存在感を示すには、ブランドの品揃え以上に、リアルなサービス体験を提供する必要がある。ノードストロムもメイシーズも、入り口付近の大きなスペースをビューティーに割くだけでなく、サービス面も強化している。ノードストロムのコロンバスサークル店では、マニキュアや眉メンテナンスなど、無料・有料合わせて250以上のビューティーサービスを提供している。
メイシーズでは、2026年にオープン予定の改装第2フェーズで、「リラクゼーションルーム」を導入し、顧客向けに無料のビューティーサービスを提供する計画だ。「これらのスパ空間に入ると、非常に落ち着いた環境になるよう設計している」とボスコ氏は説明する。
専業のビューティーリテーラーもイベントやサービス強化に踏み込んでいる。アルタ・ビューティー(Ulta Beauty)は2025年、店舗で実施するイベント数を約7万件に拡大し、セクレド(Cécred)とのブランドパートナーシップを通じて、店内サロンの存在感も高めた。外でも同様の動きが見られ、8月にはオーストラリアの美容チェーンであるメッカ(Mecca)が、メルボルンに約4万平方フィートの旗艦店をオープン。スキンスタジオやヘアサロンを併設した。
「消費者が価値を置くのは体験だ。サービスを伴う体験に強い魅力を感じる」とザン氏。「デジタルが中心の世界では、商品発見や教育はSNSやインターネットで容易に行えるようになった。しかし美においては、リアルな体験の要素が依然として重要だ」。
ノードストロムとメイシーズの両社は、ビューティーのなかでももっとも勢いのあるカテゴリー、フレグランスにより多くのスペースを割いている。「メイシーズはフレグランスの目的地だ」とボスコ氏。「特定のフレグランスブランドで信頼を寄せてきたビューティー・フレグランスの顧客に対し、さらに幅広いビューティー体験を提供したい」。
改装されたヘラルドスクエア店では、クリード(Creed)やパルファム・ドゥ・マルリー(Parfums de Marly)といったラグジュアリーブランドがフレグランスポートフォリオに加わった。バレンティノ(Valentino)やプラダ(Prada)のフレグランスでは、ギフト包装や刻印サービスも提供されている。一方、ノードストロムのコロンバスサークル旗艦店では、トロイ・シヴァンのツー・ラング・ヨア(Tsu Lange Yor)やクレージュ(Courrèges)など新興ブランドを迎え入れた。
フレグランス×テックの新潮流
両社はフレグランス売り場にテクノロジーを取り入れている点でも共通する。メイシーズのパルファム・ドゥ・マルリーの売り場には、ブランドが語る世界観を没入体験として楽しめるVRヘッドセットが備わる。
ノードストロムには、プイグ(Puig)の「AirParfum」バーチャルディスプレイが導入されており、消費者はノードストロムの取扱商品から香りを検索・試すことができる。
「フレグランスカテゴリーの成長ペースは驚異的だ。ビューティー全体の平均を大きく上回っている」とザン氏。「香りは人が実際に感じ、触れて楽しむものだ。歴史的に見てもフレグランスは百貨店にとってもっとも強いドライバーのひとつだったが、カテゴリーの成長によってその存在感はさらに大きくなった」。
米国の百貨店は近年、事業規模の縮小が続いている。2024年、メイシーズは2026年までに150店舗を閉鎖する計画を発表した。また、5月にはノードストロム家がシアトル発祥の同社を約62.5億ドル(約9兆3750億円)で非公開化する買収を完了した。
しかし、店舗数を減らしつつも高収益店舗へ投資する戦略によって、メイシーズには回復の兆しが出ている。2025年第2四半期の決算(9月公表)では、メイシーズ・インク(Macy’s Inc.)が展開する125店舗の「Reimagine」モダナイズド店舗で、既存店売上高が1.1%増となった。同社はブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)やブルーマーキュリー(Bluemercury)なども運営している。
米国百貨店業界は依然として不安定だ。サックス・グローバル(Saks Global/サックス・フィフス・アベニューの運営会社)は、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)買収から1年を迎えるにあたり、経営陣の入れ替わりが続いている。
だが、そんな環境下でもビューティーは依然として強い賭けどころだ。「全体として、ビューティーというカテゴリーは歴史的に非常に高いレジリエンス(回復力)を示してきた。理由は、カテゴリー全体が補充需要型だからだ」とザン氏。「洗顔し、保湿し、メイクをし、香りをまとう--こうした行動は景気が弱い局面でも止まることはほとんどない」。
[原文:Inside department stores’ big beauty shakeup]
Emily Jensen(翻訳・編集:杉本結美)
