歯肉炎

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監修医師:
山下 正勝(医師)

国立大学法人鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科勤務 / 某一般歯科7年勤務 / 国立大学法人山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

保有免許・資格
歯科医師
日本外科学会外科専門医
緩和ケア研修修了
JATEC(外傷初期診療ガイドライン)コース修了
NST医師・歯科医師教育セミナー修了
嚥下機能評価研修修了

歯肉炎の概要

歯肉炎とは、歯肉が炎症を起こした状態であり、軽度の歯周病です。炎症は歯肉に限定され、歯槽骨や歯根膜、セメント質には及んでいない軽度の状態です。主な症状として、歯茎の発赤や腫脹、出血が見られます。主に歯磨きやフロスの使用時、固い食べ物を噛んだ際に出血が起こりやすく、朝起きたときに口腔内がネバネバすることもあります。歯肉炎は痛みがほとんどないといわれているため、患者さんが気付かないことも少なくありません。治療をせずに放置し症状が悪化すると、歯周炎に進行し歯を失うリスクがあります。
歯肉炎は適切なケアと早期の治療で解消できる病気です。患者さんは、歯科医師の指導のもとで適切な口腔ケアを実践し、健康な歯肉を保つことが重要です。

歯肉炎の原因

歯肉炎は、歯垢(プラーク)が主な原因で発症します。歯垢は細菌、唾液、食べ物のかす、死んだ細胞からなる薄い膜状の物質で、歯の表面や歯と歯の間、歯と歯茎の境目など、歯磨きが行き届きにくい部分に蓄積します。この歯垢が原因で歯茎が炎症を起こし、赤く腫れます。歯磨きが不十分だと、歯と歯茎の間に歯垢が残りやすくなり、歯垢が72時間以上歯面に付着すると、硬化して歯石に変化し、歯磨きやデンタルフロスでは除去できなくなります。また、不完全な歯の詰め物や洗浄不十分な部分入れ歯、ブリッジ、歯列矯正装置などの器具の周囲に歯垢が蓄積しやすく、歯肉炎を引き起こすことがあります。

喫煙も歯肉炎の大きな要因であり、歯肉組織への血液や栄養の流れを減少させ、歯茎が感染症にかかりやすくなります。ホルモンの変化も歯肉炎に影響を与えます。妊娠中や閉経後の女性は、ホルモンの変化により歯肉炎が悪化しやすいです。
また、フェニトイン、シクロスポリン、カルシウム拮抗薬などの薬剤は、歯茎の組織の過剰増殖を引き起こし、歯垢がたまりやすくなります。
栄養障害も歯肉炎の要因となり、ビタミン欠乏症、特にビタミンCやナイアシンの不足は、歯茎の炎症を引き起こすことがあります。

さらに、白血病や糖尿病などの病気も歯肉炎の発症や悪化に寄与する可能性があります。これらの病気は免疫力を低下させ、歯肉の健康を損なうことがあります。

歯肉炎の前兆や初期症状について

歯肉炎の前兆や初期症状は、患者さんが注意深く観察することで早期に発見できます。初期の段階では、歯茎がしっかりと引き締まっている状態から、歯茎に赤いところが出てくる、歯を磨くと出血するなどの症状が現れます。歯茎のかゆみや歯が浮いたような感じも初期症状の一つです。中程度になると、歯茎が時々赤くはれて痛む、歯茎から血や膿みがでる、口臭が気になる、冷たい物を食べると歯がしみる(知覚過敏)などの症状がみられます。

さらに症状が進行すると、歯茎がブヨブヨして血や膿みが出る、歯がぐらぐらする、口臭がひどくなる、食べ物が噛みづらくなるなどの重症の症状が現れます。これらの症状は、歯周組織の上部の歯肉だけに炎症がとどまるため、早期発見と早期治療が重要です。軽度の場合は痛みがほとんどないといわれているため放置されがちですが、症状が強くなる前に歯科医院を受診することが推奨されます。
歯肉炎の初期症状を見逃さずに、歯科医院での定期的なチェックを受けることで、健康な口腔環境を維持しましょう。受診科は一般歯科となりますが、専門的な治療が必要な場合は歯周病専門医への相談も検討してください。

歯肉炎の検査・診断

歯肉炎の検査・診断は、歯科医師が患者さんの口腔内の状態を評価し、適切な治療方針を決定するために行われます。以下に、視診、プロービング検査、歯垢検査、エックス線検査の具体的な手順を示します。

まず、歯科医師が歯肉の状態を目視で確認する、視診が行われます。歯肉の赤み、腫れ、出血の有無をチェックし、歯肉炎の進行度合いを判断します。

プロービング検査は、歯と歯肉との間にある隙間(歯周ポケット)の深さを測定する方法です。プローブという針状の器具を使い、歯周ポケットの深さを1歯につき6ヵ所測定します。歯周ポケットの深さが3mm以内であれば正常もしくは歯肉炎、4~5mmで初期~中等度歯周炎、6~9mmで中等度~重度歯周炎、10mm以上で重度歯周炎と診断されます。軽い圧力で行われるため、患者さんにほとんど痛みを与えません。

歯垢の検査は、歯垢の付き具合を調べる検査です。歯垢がどれ程付着しているかを確認し、その結果に基づいて適切な治療法を提案します。歯垢の除去が不十分だと、歯肉炎が悪化するため、定期的な検査と清掃が重要です。 ​

エックス線検査では、歯槽骨の高さを調べ、骨の喪失量を評価します。エックス線撮影の際の放射線被曝量は低く、日常生活で自然界から浴びる放射線量の数十分の一程度です。エックス線検査によって歯槽骨の溶けた範囲や程度が正確にわかり、治療計画の立案に役立ちます。

こうした検査を行うことで、歯肉炎の炎症の進行度合いが調べられます。歯肉炎は早期発見と適切な治療が重要ですので、歯茎の状態に異常を感じた場合は早めに受診しましょう。

歯肉炎の治療

歯肉炎の治療は、まず正しい口腔ケアから始まります。歯垢が歯肉炎の主な原因のため、歯垢をしっかり取り除くことが重要です。歯科医師や歯科衛生士から適切な歯磨き方法やデンタルフロス、歯間ブラシの使用方法を学び、日常的に実践することで、炎症の進行を防ぐことができます。
セルフケアが基本ですが、すでに歯石が形成されている場合は、専門的なクリーニングが必要です。歯科医院では、スケーリングと呼ばれる専用の器具を使って歯石を除去します。また、歯の表面の汚れを取り除くPMTC(プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング)も行われ、歯垢や歯石を徹底的に除去します。
このように、歯周病の進行が軽度の場合は、歯垢と歯石の除去、歯根のの滑択化、噛み合わせの調整などの歯周基本治療で改善を目指します。

しかし、症状が進行している場合は、歯周外科治療が必要になることもあります。この治療では、歯周ポケットの深さを減少させる手術や、特殊な材料を使って部分的に失われた骨を再生させる再生療法が行われます。

治療後も、再発を防ぐために定期的なメインテナンスが必要です。歯科医院での定期検診を受けることで、口腔内の状態をチェックし、必要に応じて再度クリーニングや治療を行います。これにより、歯肉炎の再発を防ぎ、健康な口腔環境を維持できます。患者さん自身が日々の口腔ケアを徹底することが、歯肉炎治療の成功と予防に不可欠です。

歯肉炎になりやすい人・予防の方法

歯肉炎になりやすい人と予防の方法について説明します。
歯肉炎になりやすい人の特徴は、口腔内のケアが不十分な人、不規則な生活習慣やストレスが多い人、喫煙者、糖尿病などの慢性疾患を持っている人、妊娠中の女性などが挙げられます。これらの要因を持つ人は、免疫力を低下させたり、唾液の分泌量を減少させたりして、口腔内の細菌が増殖しやすい環境になっている場合が多いといわれています。

歯肉炎の予防方法としては、まずは歯磨きを丁寧に行い、口腔ケアをしっかりと行うことが重要です。歯と歯茎の境目を意識して磨き、歯間ブラシやデンタルフロスも併用するとよいでしょう。また、唾液には口腔内の細菌を洗い流す自浄作用があるため、ガムを噛んだり、噛み応えのある食品を意識的に摂ることで唾液の分泌を促進しましょう。
さらに、定期的な歯科検診を受けることで、早期発見・早期治療が可能になります。プロのクリーニングによって、普段の歯磨きでは落としきれない歯垢や歯石を取り除くことができます。
その他には、生活習慣の改善のために、バランスのよい食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけましょう。ストレスを溜めないようにし、喫煙は控えることが重要です。

これらの予防方法を実践することで、歯肉炎のリスクを減らすことができます。なかでも口腔ケアと定期的な歯科検診は重要ですので、日常生活に取り入れるよう心がけましょう。定期的に歯科医院を訪れ、歯茎の状態をチェックしてもらうことが、健康な口腔環境を維持するための第一歩となります。


参考文献

MSDマニュアル 家庭版「歯肉炎」