実質的な次の首相を決める自民党総裁選が9月27日に行われます。新NISAや企業へのガバナンス改革を迫った岸田政権の「資産運用立国実現プラン」を引き継いでくれる新しい自民党総裁は誰になるでしょう。政策と株は大きな関係がありますので要注目です。

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9月27日に実質的な次の首相が決まる自由民主党の総裁選挙が実施されます。今回は過去最多の9人(石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル相、小林鷹之前経済安全保障担当相、茂木敏充幹事長、林芳正官房長官、高市早苗経済安保相、加藤勝信元官房長官、上川陽子外相)が立候補したことから、一回目の投票で過半数を獲得する候補者は困難な情勢で、決選投票を見据えた選挙戦が繰り広げられているようです。

2021年の岸田政権は最初つまづいた?

政治と株価は密接な関係があります。2021年にスタートした岸田政権は、金融所得課税の税率引き上げを検討する考えを示しましたが、株式市場は、売り優勢の展開となり「No!」の拒否姿勢を示しました。

金融所得課税を少し説明しますと、金融所得課税とは、金融商品の利子、配当、譲渡益に対して課税される税です。金融所得課税の税率は原則約20%で、所得税の最高税率45%と比べて低いことから生じる問題を指摘したのです。

高額所得者は金融投資をより積極的に行う傾向がありますので、結果として金融所得収入の額が大きくなります。その税率が所得税よりも低い水準に抑えられていることから、年収1億円を超えると所得(勤労所得や金融所得など)と納税の比率である平均税率が低下する、という問題が生じています。これを「1億円の壁」と呼びます。この「1億円の壁」を是正しようと、金融所得課税の税率引き上げを検討したのですが、株式市場から総スカンを受けまして、岸田政権は事実上棚上げとしたのです。

「資産運用立国実現プラン」でついにバブル超え

一方、2022年から、個人の株式投資に対する姿勢を強化しました。少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充・恒久化や金融教育の充実などです。そして、法人にも「コーポレートガバナンス改革の実質化」を求め、2023年4月からアクション・プログラムを発動しました。こうした流れの最終形態が2023年12月の「資産運用立国実現プラン」です。こうした取組の結果、今年2月の34年ぶりとなる日経平均株価史上最高値の更新や、史上初の日経平均株価4万円台につながったと考えます。

岸田首相は「増税メガネ」と揶揄もされましたが、私は「バブルの呪縛」を打ち破った功労者と考えますし、ポジティブな評価をしている証券関係者は多いと思います。次の政権を担うであろう新しい自民党総裁にはぜひとも「資産運用立国実現プラン」を引き継いでもらい、加速させてほしいところです。

それでは、立候補者が唱えている政策から、株式市場に与える影響を推測してみましょう。

株式市場にポジティブな政策を掲げている人は?

市場の期待が最も高いのは、高市氏、小林氏だと考えます。

高市氏、小林氏はともに財政積極派の政策を掲げています。わかりやすい表現をしますとアベノミクスの積極財政を継承するスタンスです。中央銀行である日本銀行が段階的な利上げに動いている状況下、かつてのアベノミクスと同じような積極財政とはならないと推測しますが、市場全体の浮揚効果が期待できるのは、このお二人の政策かと思います。

財政政策以外の個別の政策では?

小泉氏や河野氏、石破氏の政策が面白いと考えます。

小泉氏は、エネルギー政策に関しては脱炭素政策に積極的で、経済成長のためにも環境への取組を促進すべきという姿勢を取っています。脱炭素の流れは世界の潮流でもありますので、小泉氏が脱炭素政策を積極的に進めていくのであれば、関連する企業への関心も高まるでしょう。また、小泉氏は、労働市場改革の本丸として解雇規制の緩和に取り組む方針を示しています。大企業がコスト削減や実質賃金の上昇などに寄与する可能性がありますので、大企業を中心とした底上げへの期待感はあります。

また、河野氏が唱えた「確定申告義務付け」に関して、私個人は大いに賛成です。日本の税制は知らないと損をするシステムになっていますので、年末調整を廃止して確定申告を行った方がメリットある国民は多いと思います。インフラなど仕組み作りは大変そうですが、ぜひ実現してほしい政策だと考えます。

あと、石破氏が掲げる、地方に雇用と所得を高めさせるような地方創生政策や、「防衛省」設立など国防強化策は今後真剣に議論する必要がある内容でしょう。株式市場でも、地方創生関連銘柄や防衛関連銘柄は、非常に関心が高まりやすいテーマですので要注目です。

逆にネガティブなイメージがあるのはどなた?

石破氏が金融所得課税の強化について「実行したい」と意欲を示していますので、今時点ではネガティブな見方がされそうです。2021年の岸田政権を思い出した市場関係者も多かったことでしょう。もちろん石破氏が掲げている政策のポイントはこの金融所得課税に限った話ではありませんので、今後の構想次第ではポジティブな見方に転じる可能性は十分あります。

報道各社による世論調査では、石破氏、小泉氏、高市氏がリードし、小林氏、河野氏などが続いているようです。総裁選まであと10日ほどですが、新しい日本の顔がどなたになるか注目です。

文:田代 昌之(金融文筆家)

新光証券(現みずほ証券)やシティバンクなどを経て金融情報会社に入社。アナリスト業務やコンプライアンス業務、グループの暗号資産交換業者や証券会社の取締役に従事し、2024年よりフリー。ラジオNIKKEIでパーソナリティを務めている。
(文:田代 昌之(金融文筆家))