(写真:ロイター/アフロ)

9月10日に静岡県側の3ルート(富士宮、須走、御殿場)が閉鎖され、「2024富士登山狂騒曲」が終わった。

今年は山梨県側の吉田ルートで1日の登山者数が4000人に制限されたうえ、通行料2000円の徴収も始まった。また弾丸登山として午後4時から翌日の午前3時までは5合目のゲートを閉鎖する規制を導入。この結果、弾丸登山を行う外国人らが激減するなど一定の効果があった。

一方で、山梨県側からの入山を回避して規制のない静岡県側に回り、弾丸登山を試みる外国人らの姿があった。規制導入効果はみられるものの、課題は残された。

速報データの結果は?

富士山の登山者数集計データは複数あるが、全ルートの数を把握できるのは環境省の調査だ。これは同省が2005年から4つの登山道(吉田ルート、須走ルート、御殿場ルート、富士宮ルート)の8合目付近に赤外線カウンターを設置し、登山者数の調査を実施しているものだ。

今年(2024年)の7月1日から9月10日までのデータ(速報値)がまとまった。

吉田ルートが11万4857人、須走ルートが1万9779人、御殿場ルート1万1750人、富士宮ルート5万3218人で、合計19万9604人となっている。ルートによってはデータ欠測日がかなりあるので、単純に前年との比較はできないが、同時期で昨年22万1322人よりも2万1718人減少した。前年比9.8%減である。

人気の吉田ルートの一日当たり登山者数の最多は9月7日(土)の2905人で、規制上限の4000人に達した日は1日もなかった。

一方、富士吉田市が発表した今シーズン(7月1日から9月10日)の登山者数(吉田ルート)は13万2904人で、前年の16万0449人に比べ17.2%も減少。世界文化遺産登録(平成25年)以降、コロナ期間を除くと、最も少ない登山者数となった。

山小屋関係者らによると、8月中旬までに吉田ルートを登った登山者のうち、弾丸登山者が多かった午後9時から11時台の登山者は前年同期比で9割以上減少した。例年だと山小屋前で寝てからご来光を見に向かう外国人の姿が目に付いたが、今年は激減したという。

2024年はピーク時の6割に

この結果をどう捉えたらいいのか。富士山登山者数のこれまでの推移を見てみると、2010年の32万0975人が最多で、コロナ前の2019年は23万5646人だった。コロナ禍中の2021年は7万8548人まで落ち込んだが、以降は16万0145人(2022年)、22万1322人(2023年)、19万9604人(2024年)となっている。

全体の登山者数を見るとピークだった2010年の32万人と比べ、2024年は約6割の水準にまで減少している。これだけだと、オーバーツーリズムはずいぶん解消されてきたという感じもしなくはない。

しかし、徹底した入山規制を行っている外国の山と比べると、印象はまったく異なってくる。たとえば台湾の最高峰・玉山(ぎょくさん・現地読みユイシャン=3952メートル)は、日帰り登山は1日60人、2つある山小屋の定員は140人で、入山者は合計200人程度に規制されている。

このうち排雲山荘の宿泊人数は116人で、外国人枠は24人。外国人枠の予約は4カ月前から35日前で、35日前には枠が確定する。これに漏れると、台湾人を含めた申込者全体で枠を争うことになる。

ひるがえって富士山は今シーズンの1日当たり最多数は9月7日の5977人だ。シーズン中は連日2000〜4000人は登っているから、玉山の10倍、20倍ということになる。9月7日の5977人(4ルート全体)は、玉山入山者の約30倍にあたる高水準だ。

1つのルートに登山者が2000人以上殺到すれば、混雑による渋滞、落石や転倒の危険性が高まる。コースの踏み外しによる登山道や生態系の毀損、さらにはバイオ式をはじめとする環境配慮型のトイレの処理能力の限界、ごみの散乱などさまざまな事象が出てくる可能性が常にある。

富士山の場合、今シーズンの規制は山梨県側だけだったので、事前登録だけで規制のない静岡県側に多くの外国人が流れたという情報もある。規制は山梨・静岡両県が一緒になって行わなければ意味がないし、1日4000人という入山規制はまだ緩いとの指摘もある。

山梨県、静岡県、両知事の今後の方針は?

こうした疑問に対し山梨県、静岡県両知事の対応が興味深い。

山梨県の長崎幸太郎知事は「本規制が多くの方々から、ご理解とご支持をいただいている」との認識を示したうえで、「静岡県との規制のハーモナイゼーションも大きな課題の1つであろうと認識しております」と課題を指摘した。

また、1日4000人の入山規制規模や2000円という料金設定については「上限人数、ゲートの閉鎖期間、通行料の設定の3点については見直しを議論していきたい」とさらなる規制強化の考えをにじませた。

一方、今年5月に就任したばかりの静岡県の鈴木康友知事は、10日会見で今後、山梨県と足並みをそろえ「条例による登山規制及び通行料の徴収を検討することとした」とし、今月下旬から現地調査を行うと語った。遅ればせながら、静岡県も規制強化に進むということだ。

この富士山のオーバーツーリズムをめぐる問題は、当然、国もアクションを起こすべきだ。

今年7月の観光立国推進閣僚会議で岸田文雄首相は、富士山のオーバーツーリズム対策について年内の指針とりまとめを指示。「地域のオーバーツーリズム対策において国有地など国の関与が支障にならないよう、政府を挙げて、積極的に協力してください」と言及した。


(撮影:今井康一)

次期首相はオーバーツーリズムにどう対処?

岸田首相はこの秋でトップの座から退くことが決まったが、次期首相がこのオーバーツーリズム問題をいかに解決していくのか、目が離せない。

「政府は2030年に6000万人というインバウンド誘致目標を掲げ、観光需要の拡大化を図っています。来年9月の世界陸上(東京)、2026年秋のアジア大会(愛知・名古屋など)といった国際的なスポーツイベントも控える中、6000万人誘致達成が優先され、オーバーツーリズム対策は後手に回る恐れも拭いきれません」(政界関係者)

富士山という日本を象徴する貴重な世界文化遺産をオーバーツーリズム被害からどう守っていくのか。政府のインバウンド6000万人誘致最優先の観光立国政策をきちんと検証し、常にチェックしていかなければならない。

(山田 稔 : ジャーナリスト)