【鈴木 涼美】「パパ活」不倫に「罪悪感」も「被害者意識」も覚えないのはなぜなのか?…作家・鈴木涼美が解き明かす、現代日本の「不倫」

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現代の日本では、有名人の不倫が、時に政治・外交の諸問題や経済動向よりも深刻に報道されるという異常事態が続いている。その熱烈さとは裏腹に、日常会話のレベルでは、恋人が既婚者であることや、配偶者や子供がいても恋愛活動に忙しいことなどが、時に罪の意識とは無縁にカジュアルに語られる。

作家の鈴木涼美さんによれば、「不倫」は大きく2つに分けられるという。一方は、金銭の授受がなければ成立しない「貧困型」の不倫、もう片方が、金銭の授受がなくても成立する「エリート型」の不倫だという。

本記事は、注目の新刊『不倫論 この生きづらい世界で愛について考えるために』より一部抜粋・編集してお届けする。

金銭の授受があるのか、ないのか

現在の未婚女性の立場から見たとき、リアルな不倫を乱暴に2つに分けると、
一方が貧困故の不倫、もう片方が富裕故の不倫となる。前者の関係者が全員生
活に困窮しているというわけではなく、金銭の授受がなければ成立しない関係であるのを前者、なくても成立するのが後者と分けてもそれほど大きくは違わ
ない。

前者は、男の方が金持ちの道楽、女の方が生活のために結ばれるタイプの、 いつの時代も絶え間なく続いてきた階級差を前提とした不倫の系譜である。妾や愛人バンクなどがそうだし、既婚男性に対して営業をかけ、時に肌を重ねる
ホステスや風俗嬢もそちらに属すると考える。

クラブホステスの枕営業や、ソ
ープ嬢の接客が不倫にカウントされるか否かは状況によって微妙だが、現在で
こちらのクラスタの主流となっているのは「交際クラブ」や「パパ活」である。

専用アプリなどが普及する前、2010年代にパパ活の温床となった交際ク
ラブは男性会員に対し、一定の金額をもらって女性を紹介するシステムであっ
たが、ただのマッチングではなく、ほぼ全ての女性が「お食事とホテルでのお
付き合い」についてそれぞれ値段をつけている。

ホステスや風俗嬢ではなくあくまで素人女性と出会いたいという男性の需要と、ホステスや風俗の仕事をしないでお小遣い稼ぎをしたい、効率の良い副業が欲しいという女性の需要にアピールし、成功を収めた。

罪悪感のない「貧困型」

一時期社会問題のように話題になった愛人バンクとほぼ同じシステムだが、継続的ではなく週末だけ気軽に何度か、という意識の女性が比較的多いのは明確に値段をつけているからだろうか。

実際のところ、女性の側の登録はいわゆる夜職の女性の副業となっている場合が多いが、それでも若くまだ収入が安定しない学生やの週末ワークとしても注目されており、平均的な「お食事とホテル」の金額は5万円、とそれ
ほど高額なわけでもなかった。

男性としては、若い女の子と「付き合って」、
少しお小遣いをあげているという感覚で利用できる。
しかし、女性の側からすると、あくまで金額を設定して男性からの誘いを待つため、「自分の意志とは関係なく起こる」ということはまずあり得ない。こ
れが貧困不倫の特徴である。

男性側からすればある種の恋愛の一形態になり得
るが、女性にとっては仕事の一形態という側面が大きく、全く意志がないのに巻き込まれたり、知らぬ間に抜け出せなくなっていたりすることがない。背徳感があったところで、それは大部分が売春的なものに対する感情であって、不貞行為に対するものではなく、ゆえに罪悪感も、逆に被害者意識もほとんどな
い。

進化を遂げた「エリート型」

対して、後者である富裕故の不倫は、エリート型と名付け直してもよいが、極めて現代的な意味で進化を遂げている。徐々に女性の社会進出が盛んになっていった1970〜80年代に不倫は、キャリア志向が強い前衛的な女性の気をつけるべき落とし穴というイメージが強かった。

結婚を第一条件とせずに男性を選ぶ可能性があるのは、生活のための結婚をしなくとも生きていける可能
性が高いキャリアウーマンだったからだ。自由恋愛をする愛人という言葉が婚
姻外の恋人という意味に矮小化していった経緯もそのあたりに理由がある。

そこから女性の社会的地位や就業率は鈍い速度ながらも上昇。生活のための結婚を急ぐわけでもなく、自分の収入で生きていける女性は飛躍的に増えた。
逆に離婚率の上昇や会社員の安定収入神話が壊れたことなどによって、結婚に
対する「生活を安定させるための条件」というイメージは年々薄れている。
そういった状況で、仕事をする女性における不倫予備軍の割合は増加の一途を辿る。

それは「今は仕事が楽しいから、生活の邪魔にならない不倫くらいがちょうどいい」と考える比較的不倫意識が濃厚な層から、結婚してくれるかどうかを必要最低条件に入れずに恋愛をしていたらたまたま既婚男性とぶつかった、という層まで広がる。

別に養ってくれなくてもいいから充実したセックスライフを送りたい、自分の仕事が忙しい平日は会わずに金曜の夜から土曜日だけ会える彼氏が欲しい、など願望は人それぞれである。

自分の収入が安定していればいるほど、充実した仕事を持っていればいるほど、結婚したいという邪念がなければないほど、男性を見る目はいい言い方を
すれば純粋なものになり、相手が結婚に不向きであっても気にせず恋に落ちて
しまうことがある。

それは低収入であったり、社会的地位が安定しなかったり
する男性を選ぶことがあると同時に、既婚者を選んでしまうこともあるということだ。意識的にではなく、無意識的に。そもそも結婚してくれるかどうかに
重きを置いて男性を眼差す癖がなければ、相手の薬指などよく見ていないもの
だ。ここに、富裕不倫の特性がある。

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つづく記事「《「エリート女性」ほど不倫に陥りやすい》のは本当か…外資系企業勤務30代女性が、50代既婚男性と「恋人同士の関係」を続ける理由」では、「エリート型」不倫ついて詳しく紹介する。

《「エリート女性」ほど不倫に陥りやすい》のは本当か…外資系企業勤務30代女性が、50代既婚男性と「恋人同士の関係」を続ける理由