●他局の追随を許さない安定感と安心感

民放各局で夏の音楽特番が放送されている最中だが、反響の大きさは別次元。「完全に突き抜けた」と言っていいかもしれない。13日に生放送された『音楽の日2024』(TBS)は8時間終始、ネット上を賑わせ続けていた。

しかもその声がおおむね好評だった。アーティストのパフォーマンスはもちろん企画・構成、MCなどさまざまな点がよかったのだろうが、具体的にどこが他の音楽特番より優れていたのか。あらためてその内容を振り返りながら、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

『音楽の日2024』総合司会の安住紳一郎アナ(左)と中居正広

○冒頭の赤坂パレードから気合い十分

オープニングでMCの中居正広が「東日本大震災の年から『音楽の日』は始まりました」、安住紳一郎アナウンサーが「14年目を迎えました今年のテーマは『hope! 音楽のチカラ』です」などとコメントしていた。このコンビに『CDTV ライブ!ライブ!』の江藤愛アナウンサーを加えたトライアングルの進行は、他局音楽特番の追随を許さない安定感と安心感がある。

トップコーナーの「赤坂オープニングパレード」にいきなり驚かされた人も多かったのではないか。一番手の超特急からINI、JO1、新しい学校のリーダーズ、郷ひろみらが黄色い歓声をあびながら赤坂を歩き歌う演出は圧巻。手を伸ばせばふれられる距離感でファンたちを巻き込み、冒頭からお祭りムードは最高潮に達していた。

彼らのファンではなくても「何かすごいことをやっている」「アーティストもファンもエキサイトしているのがわかる」、そして「この特番でしか見られないものなのだろう」というニュアンスが伝わっただろう。当日まで雨の不安があったが、そんなリスクを承知でド派手な屋外ライブに挑むスタッフの気合いが伝わってくる。

次に、日本全国を中継で結ぶ「希望の地から歌う希望の歌」は音楽特番にありがちな企画だが、これも他とのレベル差を感じさせた。種子島からの先進レーダ衛星「だいち4号」搭載ロケット打ち上げと三浦大知のコラボを筆頭に、岩手のHIPPY、能登のFUNKY MONKEY BABY’S、日本武道館の爆風スランプ、東京タワーのスガ シカオ、神戸のLittle Glee Monster、熊本のWANIMA。

なかでも感動的だったのは、能登の人々がひまわりを掲げながら合唱した「あとひとつ」と、「奇跡の一本松」の前で地元中高生が肩を組んで歌った「君に捧げる応援歌」。どちらも、現在を生きるウソのない姿を映し出し、未来に進む様子を後押しするような温かさを感じさせる演出だった。これが15時台、17時台という視聴者が限定される時間帯だったことがもったいないと思ってしまう。

●成功を決定付けたダンスバトル

ゴールデンタイムに入る前の夕方は、2つのスタジオを使って16組がヒット曲を歌いつなぐ「hope songライブ」だったが、これはよくあるメドレー企画。ただ裏を返せば、「『音楽の日2024』は、King & Prince、なにわ男子、Mrs. GREEN APPLE、マカロニえんぴつ、ゆずらの人気者を18時台に配置できるほどのラインナップ」ということだろう。

恒例の大合唱企画はSUPER BEAVERの「小さな革命」。番組の募集によって全国から集まった242人が練習して挑んだ大合唱も過去最高レベルの熱気。キャスティング、楽曲のメッセージ性、現場の盛り上がりと一体感など非の打ちどころがない仕上がりで、242人の達成感あふれる表情に引きつけられた。

この企画に限らず『音楽の日』はアーティストとスタッフだけではなく一般人も一緒にエンタテインメントを作り上げるようなムードがある。それは「ここだけで見られるライブ」の臨場感にスポットを当てた企画・構成・演出を徹底しているからであり、それはいまだ民放各局にとって至上命令の視聴率獲得に向けた最善策なのかもしれない。

そして最大の目玉企画は「ダンスバトル」。ゴールデンタイムの20時台に約1時間を使って放送されたことがそれを物語っている。今回のテーマは「垣根は越えた!今度はバトルだ!」。昨年事務所の垣根を越えたコラボを初めて実現し、今年はあえて正面からぶつかり合うというコンセプトだが、「公開処刑」などとスキルの差を世間にさらされるリスクもあり、まさに前代未聞のコンセプトだった。

しかし始まってみると、各グループのパフォーマンスは「叩かれるグループや個人がいるのではないか」という不安を軽々と超えてきた。他アーティストの楽曲をオリジナルの振り付けで踊る「グループ対抗ダンスバトル」も、グループのトップを集めた「1on1ダンスバトル」も、総勢125人でシンクロダンスした「大フィナーレ」も、勝敗や優劣を超越した唯一無二のコンテンツ。

その技術、熱気、プライド……「いくら払えばこのライブが見られるのか」と思わされるレベルのステージだった。「ダンスだけで土曜20時台の1時間をやり切った」という事実も含め、「日本のダンス&ボーカルグループはこれくらいの技術とダンスのスタイル、そして熱量がある」という名刺代わりの映像になるのではないか。

○若手偏重のキャスティングは当然か

最後は人気ボーカリストを集めた一夜限りの「hopeバンド」が登場。ただ、これは「日本に希望を与えた名曲の数々をカバーする」という定番企画だった。

歌われた楽曲は「ultra soul」「GIFT」「デイ・ドリーム・ビリーバー」「生まれ来る子供たちのために」「キセキ」「栄光の架橋」「TRAIN-TRAIN」「夜空ノムコウ」「時代」で、歌ったのは、SixTONES・ジェシー、マカロニえんぴつ・はっとり、DISH//・北村匠海、アイナ・ジ・エンド、DA PUMP・ISSA、Da-iCE・大野雄大・花村想太、Rockon Social Club・成田昭次・岡本健一、三浦大知、MISIA。

最後のMISIA以外は既出のアーティストであり、正直なところ「日本最高峰の歌い手か」と言えば賛否があるところだろう。しかし、「今、楽曲のアーティストであるB’z、Mr.Children、小田和正ら大物が出演したら視聴率をとれるのか」と言えば簡単ではないのが実際のところ。大物を出せばいいというわけではないところに音楽番組の難しさがある。

しかしそれでもTBSがターゲットに掲げる新ファミリーコア(男女4〜49歳)を引きつけるべく、出演アーティストの大半が若手に偏っていた感は否めない。全71組中ベテランと言えるのは、郷ひろみ、アリス、爆風スランプ、島津亜矢、Rockon Social Club、奥田民生、長渕剛、THE ALFEEが1曲ずつ歌った程度だった。

もちろんそのことに問題はなく、ビジネス上は当然かもしれないが、一方で音楽番組の多様性は失われている。だからこそ、例えばダンスバトル後の1時間はベテラン、できれば大物アーティストのコラボを見せてくれたら……と思ってしまった。

それ以外の“アラ”を探すとしたら、時折「世界レベルのSPダンスメドレー」「上半期の大ヒットソング!」などとテロップのあおりが行き過ぎていたこと。また、メイン企画の大合唱とダンスバトルに挟む19時台にSnow Manの「3曲スペシャルメドレー」を組み込むあからさまな特別扱いに違和感の声があがっていた。

ただ、いずれも『音楽の日2024』の高いエンタメ性が損なわれるほどのレベルではないだろう。

●ライブ演出にこだわるTBSの真骨頂

ここまで挙げてきたように、8時間の生放送中に何度もクライマックスが訪れ、そのたびにネット上には称賛や感動の声が書き込まれていた。

さらに印象的だったのは、クライマックスで中居正広が先輩の成田昭次と岡本健一に促されて「夜空ノムコウ」を歌ったシーン。最後まで生放送らしい臨場感やサプライズであふれ、出演アーティストがこん身のパフォーマンスを見せたことは間違いないだろう。

その一方で、スタッフサイドの奮闘も随所に感じられた。例えば、サポートミュージシャンからバックダンサー、チアリーマンズ、水着美女、よさこい、地元住民まで、アーティストの背後を彩る演出ひとつ取っても一切の妥協なし。音響、映像、照明、特殊効果なども含めて、音楽番組のライブ演出に長けたTBSの強みが表れていたし、エンドクレジットの長さと内容からも努力の跡が感じられた。

それは日ごろTBSが『CDTV ライブ!ライブ!』でライブ演出にこだわっていることが大きいのだろう。同番組は今春から放送時間を倍増させるなど、その勢いと影響力は増す一方。アーティストの意向を踏まえたライブを作り上げていくことで、彼らの信頼を勝ち取っている様子がうかがえる。

この点では同じゴールデンタイムでレギュラー放送されているテレビ朝日の『ミュージックステーション』と日本テレビの『with MUSIC』に明確な差をつけていると言っていいのではないか。

それはネットで見聞きできる音楽を超えるコンテンツとして、各アーティストのファンからの信頼も勝ち取っている。今回の『音楽の日2024』はそんなレギュラー番組の強みがここぞの音楽特番で爆発したように見えた。

○すでに「紅白超え」音楽特番トップに

これまで「生放送の音楽番組」と言えば『ミュージックステーション』のテレビ朝日、「アーティストコラボ」と言えば『FNS歌謡祭』のフジテレビというイメージが強く、そこにこのところ日本テレビが新番組『with MUSIC』のスタートに加えて音楽特番を連発する中、TBSが頭一つ抜けた感がある。

少なくとも『音楽の日』に関しては、生放送の醍醐味とこの特番に懸けるスタッフやアーティストの思い入れという点で、すでに日本の放送局が誇る最高の音楽コンテンツと言ってもいいかもしれない。

夏の音楽特番では『テレ東ミュージックフェス2024夏』(テレビ東京)、『2024 FNS歌謡祭 夏』(フジ)、『THE MUSIC DAY 2024』(日テレ)が放送され、19日にも『ミュージックステーション3時間半SP』(テレ朝)が予定されているが、各局の音楽番組担当者は今回の放送を見て、悔しく、うらやましく、そして悩み始めているのではないか。

逆にTBSは大みそかで『NHK紅白歌合戦』に対抗する音楽ライブ特番を仕掛けてもいいのではと感じさせた。例年23時台から『CDTV ライブ!ライブ!年越しスペシャル』を放送し、前日には『輝く!日本レコード大賞』もあるが、思い切った編成を仕掛けるなら勢いに乗る今が勝負の時に見える。

握手を交わす中居正広と安住紳一郎アナ

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら