何かと注目される“ヤメNHK”アナ。民放への移籍の決断は成功か失敗か。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「今春にMCに就任した3人のうち2人は善戦したが、1人は惨敗した」という。“ヤメNHK”アナの24年度第1四半期「番組決算報告」をお届けしよう――。
NHK放送センター(写真=Syced/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

春クールが終わった。今期は新たにMCに就任した元NHKアナウンサー3人が注目された。

今年初めにNHKを退職し、4月からフジ「LiveNewsイット!」(月〜金曜午後3時45分〜、以下イット!)のメインキャスターとなった青井実アナ(43歳)。

TBS「サンデーモーニング」(日曜午前8時〜、以下サンモニ)、の総合司会となった膳場貴子アナ(49歳)。

そして日テレで「with MUSIC」(土曜午後7時56分〜、以下MUSIC)の司会となった有働由美子アナだ(55歳)。

概要を先に言えば、青井アナの場合、個人視聴率(世帯内の4歳以上の家族全員の中で、だれがどのくらいテレビを視聴したかを示す割合)こそ改善につながらなかったもののコア層(13〜49歳までの個人視聴率)が少し上がった。膳場アナは高齢者に逃げられたが、Z世代を改善させた。善戦した2人に対して、有働アナは同局同枠の番組と比べ全世代で数字を失ってしまった。

“ヤメNHK”3人の3カ月を、24年度第1四半期「番組決算報告」として詳しくチェックしていこう。

■3人の明暗

3人の明暗ははっきり分かれた。

青井アナと膳場アナが起用された番組は、個人視聴率こそ前任のMC時代と横ばいだった。

ところが青井アナの「イット!」は、75歳以上で7%下落したものの、コア層を5%上昇させた。視聴者層を若返らせたという意味では健闘したと言えそうだ。

※スイッチメディア「TVAL」データから作成

膳場アナの「サンモニ」も視聴者層が大きく動いた。75歳以上が23%下落したのは痛いが、逆にZ世代は21%上昇した。プラスマイナスで個人視聴率はほぼ横ばいだった。MCが関口宏(80歳)から30歳以上若返ったことで、広告主のニーズが高い若年層を大幅に取り戻し、司会交代は成功だったと言えよう。

2人に比べ有働アナは大きく躓いた。

18年秋にメインキャスターに就任した「news zero」(日テレ系、平日11時以降)は順調だった。今春「MUSIC」の司会となったが、同局同枠の前番組「世界一受けたい授業」と比べると、Z世代15%減、コア層17%減、75歳以上60%減と、全世代で数字を大きく落とした。個人全体も3分の2に減ってしまった。

■“態度はXL”でも青井アナは及第点⁉

定時ニュースの視聴率は、視聴習慣が大きく左右する。

その中で、青井アナの「イット!」は個人全体が微増し、視聴者層が少し若返ったのはまずまずと言えよう。男女年層別の視聴率を詳しくみると、F1(女性20〜34歳)とF3(女性50〜64歳)で上昇した。評価する声も聞こえていた。

「なんか雰囲気が良い」
「意外にフジに馴染んでいる」

男性の視聴率も、T層(13〜19歳)や2層(35〜49歳)で1.2倍に膨らんだ。

NHK「ニュースウオッチ9」降板や退局に際しては、“体はLL、態度はXL”と揶揄されることもあったが、同世代を中心に評価する人も少なくない。

※スイッチメディア「TVAL」データから作成

3カ月の成績にも、少し光明が見える。

就任初週は注目度のせいで視聴率も高かった。ただし2週目以降の1カ月間は落ち着いてしまった。それでも5月中旬頃からほんの少しずつ上昇している。“良い雰囲気”や“馴染んだ感じ”がゆっくり視聴習慣を作り出しているようだ。

夕方の裏の民放3ニュースと比較してみよう。

65歳以上で大きく後れをとっているため個人視聴率は最下位だ。ところが、F1(女性20〜34歳)ではテレ朝「スーパーJチャンネル」やTBS「Nスタ」と互角、F2(女性35〜49歳)・M1(男性20〜34歳)ではテレ朝の上、さらにMT(男性13〜19歳)・M2(男性35〜49歳)ではテレ朝もTBSも抜き、トップを行く日テレ「news every.」に迫っている。

スポンサーの評価はさほど悪くないはずだ。

当初3カ月の「決算報告」として、及第点と言えよう。

■老若で膳場アナの評価は真逆

「サンモニ」も大きく若返った。明らかに関口宏から膳場アナに交代したことが影響している。

※スイッチメディア「TVAL」データから作成

75歳以上の視聴率は、10%弱から7%台半ばまで下がった。

ところがZ世代では、1.2倍に急伸した。1層(男女20〜34歳)の上昇が要因だ。

高齢者の膳場評は芳しくない。

関口時代は「なんかよくわかんないなぁ」などと、一見ボケたような反応に親しみを感じる人が多かった。ところが膳場アナはニュース項目への反応が乏しい。まるでNHKニュースのようで、人間味のなさが“退屈”“つまらない”と映り、最初の1カ月で脱落者が続出した。

「抑揚がなくつまらない原稿の読み方」
「表情のない鉄仮面」
「無難な進行は退屈」

しかし、若年層は評価が高かった。

「本当に知的で、とてもお綺麗な女性」
「49に全然見えない」

“自分事”と感じやすくなったこともあり、徐々に増えた若年視聴者がボリューム層となる高齢者の穴を埋めたようだ。やはりスポンサーの評価は悪くないはずで、当初3カ月の「決算報告」としてはまずまずだろう。

■有働アナは路線変更が裏目!?

まずまずの船出をした2人に対して、「MUSIC」の有働アナは苦戦中だ。前番組「世界一受けたい授業」と比べ、全世代で視聴率を大きく落とした。

※スイッチメディア「TVAL」データから作成

75歳以上の視聴率では、6%を超えていたが半減以下に落ちた。

頼みのZ世代もコア層も、8掛けに減った。結果として個人全体も3分の2に収縮してしまった。しかも75歳以上は、右肩下がりが続いた。Z世代も微減傾向だ。当初3カ月の「決算報告」としては、黄色信号点灯と言わざるを得ない。

では音楽番組として先行する他局の2番組と比較してみよう。

まもなく放送開始40年という長寿番組「ミュージックステーション」(金曜夜9時〜、以下Mステ)と、2020年春に始まり今クールから2時間に拡大した「CDTVライブ!ライブ!」(月曜夜6時半〜、TBS系)だ。

タモリ司会の「Mステ」にはC層(男女4〜12歳)を除く全世代で負けている。

また「CDTV」に対しては、個人全体や50歳以上で上回っているが、コア層やZ世代で後塵を拝した。C層やT層で敗れ、特にFT(女性13〜19歳)で1.6倍の差をつけられたのが大きい。

日テレの音楽番組は、G帯(ゴールデンタイム・夜7〜10時)では34年ぶりだ。狙いは「若者の獲得」だったはずだ。しかもヒット番組「世界一受けたい授業」を終了させてまで臨んだ大勝負だった。

ところが若年層で数字を落としてしまった。

55歳の有働アナは、出演者とも30〜40歳ほどのギャップがある。「紅白歌合戦」の司会を7回務めたとはいえ、かなり前の話だ。2018年10月以降は「news zero」のキャスターを担当したため、若者には報道というイメージが強いのかもしれない。

ヤメNHK3人の明暗。

青井アナと膳場アナは、同じ報道路線で無難なスタートを切った。ところが報道から音楽番組へと大きく舵を切った有働アナは、前番組や他局の同種番組と比べると苦戦を強いられている。

番組の成否はキャスター1人の責任ではないものの、番組の狙いと存在感が合っていないという問題はある。

キャスターのあり方を、3カ月の「決算報告」は炙り出していると言えそうだ。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)