「部屋に入ってきた瞬間に『こいつ採用、こいつダメ』って瞬時にわかる」。テレビ番組内でのZOZO創業者の前澤友作氏の発言が現場の人事担当者らに話題を呼んでいる。ジャーナリストの溝上憲文さんは「面接時の評価と採用後のパフォーマンスには相関関係がなかったという分析もあり、非科学的で時代遅れと言わざるを得ない」という――。
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記者会見に臨む前沢友作さん=2022年1月7日午前、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■前澤氏「こいつ採用、こいつダメって。瞬時にわかる」

2025年入社の採用活動の前哨戦ともいうべき夏のインターンシップが始まっている。インターンシップに参加した学生情報の採用での使用が解禁されたことで、例年以上に採用直結型インターンシップが増えると見込まれている。

ただし、誰もが参加できるわけではない。特に大企業の場合は、採用面接と同様に事前の面接で合格した者だけが参加できる狭き門となっている。

その面接に関して、衣料品通販大手のZOZO創業者の前澤友作氏がテレビでおもしろいことを言っていた。

7月31日放送のフジテレビ「突然ですが占ってもいいですか?」番組内で、占い師が「先を読む力があり、この人は仕事ができる、できないを瞬時に見極められる」と告げた。

すると前澤氏は「会社の経営者時代が長いので、新卒の面接があるじゃないですか。一瞬で分かりますね。部屋入ってきた瞬間に“こいつ採用、こいつダメ”って。瞬時にわかっちゃう」と言った。

単にテレビ受けを狙ったのかもしれないが、この発言を聞いて、かつて昭和の時代の人事部長や役員の中に、これと同じような発言をする人たちがいたことを思いだした。

日本企業の新卒一括採用では仕事の経験がない学生のポテンシャルを見極めるのは難しいと昔から言われてきた。ポテンシャルとは、言うまでもなく入社後に活躍し、業績向上に貢献してくれる人材が持つ潜在能力のことである。

本来は面接の場でさまざまな角度から質問し、コミュニケーション力や論理的思考能力、対人スキル、リーダーシップ力などの指標を基に探っていく。

しかし面接の評価点が高く、“優秀”と思われる学生でも、実際に採用後に活躍してくれるかどうかわからない。

■面接時の評価と採用後パフォーマンス「相関関係なし」

『採用学』(新潮新書)の著書である服部泰宏・神戸大学大学院教授が、面接時の評価と採用後の優秀さ(パフォーマンス)について、10社以上の企業の人事データを分析したところ相関関係がなかったと、著書で述べている。

服部泰宏『採用学』(新潮新書)

それほど能力の見極めが難しいのに、ましてや学生が面接会場に入ってきた瞬間に善しあしがわかるものなのか。

いとも簡単に見極められると言ってのけた昭和の人事部長たちに「なぜわかるのか」と聞いたら、「長年の採用経験から得た直感だ」と異口同音に語っていた。

直感と言われれば、こちらも口を閉じるしかない。では直感で採用したその大企業が成長著しいかといえば、バブル崩壊後に業績低迷で大量のリストラを実施したり、同業他社と合併し、元の名前が消えてなくなったりした企業もある。個人の力で会社全体を動かせないだろうが、直観採用の人材が埋もれた可能性も高い。

今にして思えば「部屋に入った瞬間、優秀かどうかがわかる」というのは、都市伝説の類いであり、日本企業の採用の前近代性を物語るものでしかないだろう。

仮に、部屋に入った瞬間の学生を視覚的に判断する材料としては、顔や服装、動作ぐらいだろう。服装は皆同じリクルートスーツなので顔と動作であるが、まさか顔(ルックス)で判断する人事担当者はいないだろう。

残るのは動作であるが、一般的に対面での面接は、控え室で待機し、人事に案内されて、会場の部屋のドアをコンコンとノックして「失礼します」と言って入る。実はこの瞬間が極度に緊張する。

緊張ゆえに身震いし、目が点になったり、所作がぎこちなくなったりする人も少なくない。複数の面接官の前に座っても緊張が解けず、難しい質問を投げかけられてもまともに受け答えができない人もいる。

その結果、落とされる人もいるが、もしかしたら企業の中には、緊張に耐えられるのかというストレス耐性を見ているのかもしれない。

前澤氏を含む学生が部屋に入った瞬間に「採用かダメ」の判断をする手法も、同じようにストレス耐性で判断している可能性もある。

ただし、こうした採用戦術は今ではナンセンスと言ってもよい。学生の中には早期に就活を開始する人もいれば、皆より遅れて開始する人もいる。早期に開始した学生ほど面接の場数を踏み、就活経験が豊富なので面接での良い評価を得やすい傾向があるといわれる。

しかし就活に熱心で場慣れしているから、入社後に活躍するとは限らない。つまり、面接時の緊張度やストレス耐性で合否を判断するのは意味がないということだ。

■採用の現場の最新の面接術はどうなっているか

面接のあり方について自戒を込めて語るのは建設関連会社の採用課長だ。

「二次のオンライン面接では、コミュニケーション能力も抜群で論理的思考力もある。将来有望だと思ったので、最終の対面での役員面接に推した。ところが、本人は緊張しているのかガチガチになり、オンラインの面接の時とは違い、しどろもどろの受け答えしかできない。役員から鋭い質問を浴びせられても答えられず、結局、落とされてしまった。役員からお前らの目は節穴かと嫌みを言われたが、そうは思わない。面接のやり方も含めて学生の良さを引き出せずに緊張させてしまった会社のエラーだと思っている」

最近はそうした反省も含めて、いかに学生を緊張させないか、緊張していればそれを解きほぐすことで、その人の持つ個性や資質・能力を引き出して見極めようという姿勢が主流になっている。もちろん学生に緊張を強いる上から目線の圧迫面接などは論外だ。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

通信関連企業の人事担当役員は「面接では学生の個性をできるだけ確認するようにしているが、そのために最終の役員面接では緊張させないようにさまざまな工夫をしている。面接が始まる5分前に人事の人間が学生と語り合うアイスブレークの時間を設けている。その後、面接会場に案内するが、部屋のドアは必ず開けておく。そして私が立って迎え、入ってきた学生に「どうぞ」と、椅子に座るように勧め、少しでもリラックスできるように心がけている」と語る。

また、最終面接は希望する人は対面で行うが、オンラインでもOKにしている。

「むしろオンラインだから見えてくる学生のパーソナリティもある。会社の会議室で行う面接は学生にとってはアウェーだが、自宅でのオンライン面接はそれこそホームなので安心できる。例えば画面の背後に自分の趣味に関するものを飾っていたりすると「それは何?」と聞いて会話も弾む。ホームだから意識してセルフプロデュースする学生もいるが、それはそれで評価すべきと考えている」(人事担当役員)

昔と違い、内定を得ても辞退する学生も増えている。それでなくても少子化による採用難がますます深刻化している。企業が学生を選ぶ時代から、学生に選ばれるにはどうすればよいかを考えなければいけない時代にシフトしている。

面接のあり方も学生に寄り添った工夫が必要になる。部屋に入った瞬間に“こいつは採用、こいつはダメ”というような強気の姿勢はもはや時代遅れというしかない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)