●チーム担当のディレクターも涙

楽器を使わず声だけでハーモニーを奏でるアカペラの頂上決戦『ハモネプ! 青春アカペラ大学日本一決定戦! 熱き戦いに感動の嵐!』が、フジテレビ系できょう19日(21:00〜)に放送される。今回は、過去2回連続決勝進出ながら優勝を逃している国際基督教大学「エイトロー」や、番組をきっかけにメジャーデビューを果たした東京大学「リメリック」といったラストイヤーのチームをはじめ、全国の精鋭12組が出場し、収録ではハイレベルな戦いが繰り広げられた。

20年を超える歴史の中で歌唱やアレンジの技術が大きく進化する一方、現場では出場チームや出演者、そして番組スタッフたちの変わらぬ熱い思いがぶつかり、そのドキュメンタリーが番組として映し出されている。フジテレビの北口富紀子チーフプロデューサーに、舞台裏を聞いた――。

『ハモネプ』MCのネプチューン (C)フジテレビ


○■芸能人大会から“甲子園感”へ

2001年、ネプチューンのレギュラー番組『力の限りゴーゴゴー!!』の企画として産声をあげた『ハモネプ』。“アカペラブーム”が巻き起こっていた当時、リサーチしていたスタッフが、「レプリカ」というグループに所属していた奥村政佳(後のRAG FAIR・おっくん)のボイスパーカッションに衝撃を受け、すぐに番組化へ動きだした。

こうして全国規模の大会としてスタートし、02年の『力の限りゴーゴゴー!!』終了後も、07年に独立番組として復活。以降、年2〜3回のペースで開催してきたが、15年に一旦終了した。

そこから4年のブランクを経て、19年に再び立ち上げたのが、北口CP。そこにはどんな思いがあったのか。

「担当する前から見ていて、本当に素敵な番組で大好きだったというのと、当時アメリカで、ディズニーのアカペラグループ・ディカペラが大人気で来日するというときに、日本でもブームが来ていて多くのグループがあることを知って、これはもう一度『ハモネプ』を立ち上げなければいけないと思いました」(北口CP、以下同)

そこで考えたのは、「休止前は芸能人大会になっていた時期があったんですけど、もっと青春感を出そうと。また、アカペラの上手い子が、いろんな大学の子に声をかけてインカレサークルのようなチームもあったのですが、より“甲子園感”を出そうと考え、ここ3大会は大学の名前を背負って出てもらうという形にしています」と狙いを語る。

国際基督教大学「エイトロー」 (C)フジテレビ


○■圧倒的な実力者チームがまさかのミス

毎回様々なドラマが生まれるが、北口CPが特に印象に残るというのが、明治大学の「あまがさ」。

「学内では負け無しのチームで、リハーサルでも圧倒的だったんですが、3回出場して、1回目と2回目は優勝できなかったんです。特に2回目のときは、一番うまいと言われていたボーカルの子が、歌詞が飛んでしまい、わんわん泣き崩れてしまって。本番の流れもあるし、緊張感もあるし、それを見て本当にドラマがあって、まさにドキュメンタリーだなと思いました。最終的に彼らは3回目の出場でさらに難しい曲に挑戦し、卒業直前の最後の大会で見事優勝をしたんです。そこにもドラマがあって、さらに感動を生みましたね」と言うように、バラエティ番組でありながらスポーツ競技のような予想通りにいかない展開も魅力になっている。

その中でも出場チームが実力を発揮できるよう、リハーサルでは番組サイドで最大限のサポートを実施。マイクの持ち方や、パフォーマンス中にカメラが接近してくるのに慣れるため、番組スタッフだけでなく、プレイヤーの気持ちが分かるRAG FAIRの土屋礼央も参加して、緊張をほぐす作業が行われている。コロナ前は、収録前日にも十分なリハーサル時間が確保されていた。

放送ではMCの曲振りからすぐにパフォーマンスが始まるが、収録では結構な時間を取ってから歌い出している。アカペラにとって、歌い出しは最も緊張が高まる大事な瞬間であるため、現場のディレクターは「ゆっくりでいいよ、ゆっくりでいいよ」と言って決して急かさず、彼らに納得のタイミングを委ねているそうだ。北口CPは「そこは本当に大事にしているところです。私たちはいくらでも待ってもいいので」と、“出場者ファースト”の姿勢を貫いている。

東京大学「リメリック」 (C)フジテレビ


出場チームには担当ディレクターがそれぞれ付いているが、応募してきたときから向き合っているため、まるでチームの一員のような存在に。歌唱指導はできないが、『ハモネプ』の収録を何度も経験している立場から、学生たちと四六時中連絡を取り合って相談に乗ったり、アドバイスを送ったりしているそうで、本番2日前にスタッフ全員が参加する最終打ち合わせでは、「ディレクター同士がギスギスしてるんです(笑)」と張り合うほどだ。

それほど思い入れが強いため、「ある年は、1点差で負けてしまったチームのディレクターが泣いてしまって。その姿を見て私も泣いてしまいました(笑)。それだけ、本気で向き合っている彼らも素晴らしいと思います」と、熱いスタッフたちがこの大会を支えている。

●ネプチューンへの信頼とHIKAKINの役割

緊張をほぐすのに大きな役割を果たすのが、MCのネプチューン。メンバーの人となりやエピソードをイジってあげたりすることで、出場する学生たちはみな笑顔になってからパフォーマンスに臨んでいる。

『力の限りゴーゴゴー!!』のほかにも、原田泰造の「ネプ投げ」で一世風靡した『おネプ!』(テレビ朝日)、堀内健の『ホリケンふれあい旅 にんげんっていいな』(同)など、一般人と絡みは昔から抜群で、「私が担当している『ネプリーグ』でも、初めてテレビに出てくる方や、駆け出しのアイドルの方がゲストでいらっしゃるんですが、その方たちに対しての気遣いが素晴らしくて。だからこそ『ハモネプ』が成立してるんだと思います」と絶大な信頼を寄せる。

さらに、「芸人さんって、ネタの番組とか大きな特番を収録した後、興奮してすぐ寝れないと皆さんおっしゃるじゃないですか。『ハモネプ』に関しても、堀内さんなんて『今日はもう帰れないよー!』と興奮しちゃって(笑)、それくらい入り込んでいるんです」といい、北口CPが19年に復活を申し出たときも、3人とも大いに喜んでいたそうだ。

池田美優(左)とHIKAKIN (C)フジテレビ


そしてもう1人の大きな存在が、HIKAKINだ。かつて自身も出場者として参加していただけに思い入れが強く、19年に復活してから毎回ゲスト出演している。

「HIKAKINさんがいることの意味は、ただ出身者ということだけではないんです。彼に憧れてボイパを始めたという子がすごく多いので、HIKAKINさんの姿を見てすごく喜ぶ子もいるし、HIKAKINさんも今のボイパをすごく勉強してるので『YouTube見て知ってるよ』と声をかけてあげると、それはもううれしいですよね。HIKAKINさんは毎回、出場者に差し入れをしてくれるんです。自分のいる東京会場だけでなく、大阪会場の出場者にまで差し入れてくれるんですけど、みんな『もったいなくて食べられないから、持ち帰ります』って(笑)。本当に、高校野球の選手が大谷翔平さんに会うような感じもあるので、HIKAKINさんがそこにいる役割はすごく大きいです」

○■技術向上の背景にYouTube

20年を超える『ハモネプ』の歴史の中で、アカペラの技術は大きく進化しているという。堀内が、よくHIKAKINに「ちょっとやってみてよ!」とリクエストしても、「僕の時代から相当技術が上がっているので…」と謙そんするほどだが、その背景の1つにYouTubeの登場があるようだ。

「今は出場者がみんな自分のチャンネルを持っていて、そこでパフォーマンスを披露しているんです。また、アカペラは自分の口だけでできるので、そのカッコいい演奏をYouTubeで披露すると、見ている人がすぐ真似できますよね。そこから、またアカペラをやってみようと思う人が増えていくということがあると思います」

ワルツにアレンジする横浜国立大学「夜にワルツ」


民謡にアレンジする神奈川大学「六角節」


(C)フジテレビ

さらに、大会を重ねるごとにアレンジの手法も進化。「YOASOBIさんの『怪物』を披露したチームがあったんですけど、それを見たYOASOBIさんの公式Twitterが『まさにアレンジが“怪物級”。』『とても光栄です。』というようなツイートをしてくれたんです」と、アーティストも舌を巻くレベルになっている。今回もワルツから民謡まで、驚きのアレンジが披露されているので注目だ。

●コロナ禍で2会場&クロマキー開催の発見

大阪会場進行のチョコレートプラネット (C)フジテレビ


北口CPが復活させて今回で5回目になるが、このうち4回がコロナ禍での開催。従来は東京のフジテレビのスタジオに出場者が一堂に会する形だったが、関西テレビに大阪会場を設けることで人数を分散させ、西側の出場チームの移動距離を短縮させる対策をとった。

今回は、東京会場にネプチューン、井上清華アナ、池田美優、兼近大樹(EXIT)、京本大我(SixTONES)、土屋礼央、HIKAKINがいる一方、大阪会場にも、チョコレートプラネット、Aぇ! groupの草間リチャード敬太&福本大晴、アカペラグループ・INSPiの吉田圭介というゲストの面々が参加し、それぞれの会場でパフォーマンスを見守っている。

さらに、セットを建てずにクロマキーのスタジオで収録し、背景をCGで合成。この技術は、制作スタッフが『ネプリーグ』のチームということで、そこで培われたノウハウが生きている。

ただ、やはり理想の開催は、ライバルとなる出場者全員、そして応援に来てくれる家族・友達・学校関係者、一般観覧客を前にして、華やかなセットの舞台上でパフォーマンスすることだろう。「2会場やクロマキーでもできるという発見はあったのですが、コロナが明けたら、やっぱりみんなが同じステージで喜んだり悔しがったりする大会をやりたいですね」と思いを馳せた。

クロマキーでの収録 (C)フジテレビ


○■視聴者参加番組としての使命

視聴者参加番組が減ってきたと言われる中で、一般出場者たちが本気で熱くなり、頂点を目指す『ハモネプ』の意義は大きい。

「皆さんYouTubeをやって自分たちのファンもいらっしゃるのですが、やっぱりテレビの影響力は大きくて、“ハモネプに出たい”という思いを持ってくれているのは、テレビ屋としてうれしいですね。コロナで大学の授業もリモートの中、『ハモネプ』への出場を認められなかった学校もあったそうなのですが、学生が頼み込んで、感染対策がきちんと行われていることも説明して、何とか出場できたというところもあるくらいなんです」というだけに、彼らの目標であるこの番組を続けていくことは使命とも言えるだろう。

また、「学生時代に『ハモネプ』を見てたスタッフが多くて、他部署のスタッフでも『ハモネプ大好きでした。収録当日見に行ってもいいですか?』と言ってくる人がいたり、なにわ男子の大橋(和也)さんは出場経験ありますし、ゲストに来てくれたゆりやんレトリィバァさんや3時のヒロインさん、ハナコの岡部(大)さんも『よく見てました』と言ってくれて、みんなどこかで『ハモネプ』と接点があるんですよね。だから、みんなが熱くなって番組作りができるのかなと思います」と実感。

その上で、今後の展望を聞くと、「大学生の下の年代のレベルも相当高くなってきているので、高校生大会とかもやっていきたいですね。そうすることで、『ハモネプ』の裾野を広げていきたいと思います」と、さらなる発展に意欲を示した。