2021年5月のアイスショー「LUXE」で演技する村元哉中と高橋大輔カップル

 2021年9月、フロリダ。アイスダンス2年目、郄橋大輔(35歳)・村元哉中(28歳)組は、アメリカ国内の「レイバー・デイ・インビテーショナル」に出場した。来年2月の北京五輪出場に向け、幸先のいい優勝を飾っている。

 リズムダンス(RD)、フリーダンス(FD)の合計スコアは214.44点。昨年末の全日本選手権は151.86点だっただけに、瞠目(どうもく)すべき向上だろう。国際スケート連盟非公認大会ではあるが、世界選手権や五輪で表彰台に上がってもおかしくないほどのスコアだ。

 ふたりの進化は目覚ましい。RDの新プログラムではソーラン節を用いた和風ヒップホップで独自の世界観を作った。FDでは『ラ・バヤデール』の悲恋のなかにある夢の一瞬を洗練させ、曲の解釈では10点を与えるジャッジもいた。

 "かなだい"と呼ばれるふたりの行き着く先とはーー。

 2019年9月、横浜。ちょうど2年前の話だ。

「大きな目標がないと、自分は頑張れない」

 カップル結成を発表した時、郄橋はそう説明していた。

「大勢の人に注目してもらえるように、アイスダンスでオリンピックを目指していきたいです。北京五輪出場は簡単ではないですが、『行ける』と信じて。そのモチベーションが大事だと思っています」

 当時、郄橋はシングルスケーターとして復帰2年目。フィギュアスケートで日本男子初の五輪メダルや世界選手権優勝と、開拓者となってきた男のアイスダンス転向は大きなニュースだった。平昌五輪に出場していた村元と、新たな道を見つけた。

 もっとも、道のりは平たんではなかった。シングルとアイスダンスは、別のスポーツに近い。スケート靴からして違い、そもそも後者はふたりで調和するスポーツだ。

「(アイスダンスは)課題しかないです。シングルの癖も抜けきっていない」

 新競技に挑み始めたばかりの郄橋は、現実と真摯に対峙していた。

「今までひとりでやってきたので。自分の思いだけでなく、ふたりでやっていく、という気持ちの面でまず違う。人と気持ちをすり合わせるというか、そこから変えていく必要があると思います。お互いをよく知ることが、最初の段階で」

 2020年に入ってから、ふたりはフロリダを拠点にアイスダンスに打ち込んできた。コロナ禍で満足に練習ができず、デビュー戦のNHK杯ではプログラムをわずか2カ月で仕上げたが、逆風のデビュー戦としては上出来だった。日本選手権ではミスもあったが2位に入り、生来的な華やかさと期待感で人々を魅了した。

「(初めてアイスダンスをした郄橋が)楽しい、難しい、どっちに転ぶかだと思ったんですが......。『楽しい』っていう一言が聞けたのが、うれしかったですね。難しい、だけだったら、どうかなって思っていたので。大ちゃん(郄橋)の『楽しい』という言葉が、すごく印象に残っています」

 村元は、始まりの時をそう振り返っている。スケートの楽しさを伝えたいというふたりの呼吸が観客に伝わる。それが、"かなだい"の原点かもしれない。その軸がブレなければ、困難も乗り越えられる。実際、昨年はリフトやツイズル(多回転ターン)でミスも出たし、練習中に郄橋が転倒し、村元に乗りかかる事故もあったが、どうにか乗り越えた。そして実戦を経て、ふたりの絆は強くなった。

「ひとりだと、自分のことだけ考えられる。でも、アイスダンスは"合わせる"のが頭の隅にあって、より意識してしまう。『自分だけを考えて』と言われても、結局は『合わせよう』って無意識に。そこで自分の体の軸がずれ、一回ずれると狂ってしまい、それを戻す時間もなくて大変です。自分が回りやすいツイズルだけでなく、反対回り、足を換えて、とあるので」

 村元が丁寧に説明するように、一つひとつの部品を確かめる精緻さで、演技を高める必要があった。

「だんだん息は合ってきたと思います」

 そう語る村元は手ごたえを感じていた。

「(5月に公演した舞台)『LUXE』でも、大ちゃんに任せていました。リードをしてもらえているのを感じられて。アメリカに戻って練習を再開しても、大ちゃんのリードを感じています。アイスダンスは時間をかければかけるほど合ってくるので、時間との勝負ですね」

 ふたりは濃密なトレーニングで、劇的な成長を遂げた。村元をリードする郄橋からは気恥ずかしさや遠慮が消え、頼もしさと力強さがにじみ出るようになった。ツイズルの失敗を克服し、むしろ高得点をたたき出す武器にした。ことごとく技のレベルを上げ、昨年とは間合いも疾走感も別物だ。

 変化の象徴は、郄橋の体形だろう。シングル最後のシーズンは、食事制限で体脂肪率5%以下まで落としていた。しかし、アイスダンサーになってからは肉食に変化し、タフな筋力増強をこなし、精悍(せいかん)な体つきになった。日に焼けた肌で、長く伸ばした髪をひとつにまとめたスタイルで男っぽさも増した。

「(1年目は)動きが制限されていましたが、(2年目は)少しリードできるところも出てきて」

 郄橋は言う。

「昨シーズンよりは滑りやすくなっているかな、という自分のなかでの発見はあります。もともと、(村元)哉中ちゃんがアイスダンサーとして素敵なものを持っているのは知っていたので、それをどう生かすか、僕次第。自分のレベルをどれだけ上げられるか」

 "かなだい"は、チャレンジシリーズ、東日本選手権、NHK杯という大会出場が有力視される。12月の全日本選手権では、1枠を懸けて五輪出場を争う。戦いの幕はすでに上がった。予想を超える速度で躍進するふたりは、新時代の息吹そのものだ。