甲子園優勝校の監督が説く 選手を変える指導術

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 2017年夏、第99回全国高等学校野球選手権大会で埼玉県勢初の優勝を果たした花咲徳栄高校。決勝戦は接戦も予想されたが、蓋を開けると圧倒的な打撃力で勝利を掴んだ。監督の岩井隆氏は、数々のプロ選手を育てた前任の稲垣人司氏のもとで長年コーチを務めた後、稲垣氏の急逝を受け2001年から監督に就任。直後は結果が出ず悩むこともあったが、野球部部長で校長だった佐藤照子氏の言葉をきっかけに、従来のスパルタ式を見直して生徒の自立を促す指導法に変え、甲子園の常連校に。「チーム、仲間のためにできること」をグランドだけでなく教室から意識させることで、個々が自立し、結果を出す強いチームに変身した。多くの人の関心を集める甲子園で優勝した高校のチームづくり、選手育成手法を聞いた。

1人ではなく、皆が一緒だから苦しいことを乗り越えられる
─前監督の急逝を受けて監督になりました。急な就任で苦労もあったと思います。
岩井「稲垣さんがグランドで倒れ、監督代行という肩書きから始めましたが、どうしたらよいかわかりませんでした。コーチ時代はスパルタ式の指導だったし、監督になってからもそうでした。試合に勝とうが負けようがミスをすれば特訓。それでも勝てませんでした」

 「そんなときに亡くなられた佐藤照子校長に呼ばれました。『野球部はいつも試合後半に弱いけれど、どう見てるのか』と聞かれました。私は『もっと追い込んだほうがいい』と答えました。そうしたら烈火の如く怒られました。『あなたはまだ私の生徒を苦しめるのか!』と。

 「佐藤校長は『生徒を走らせなさい』というのです。佐藤校長は野球が好きで野球部の初代部長でしたが、野球経験のない女性です。納得できませんでした。でも校長命令。それから生徒を毎日走らせました。たまたま翌年、箱根駅伝に系列の平成国際大学が出場することになったので、応援に行く機会がありました。私は箱根の上り坂に向かっていく5区の選手を見たときに、『地獄に向かって走るようなものだ。今の野球部の生徒では走る前に逃げてしまう』と思いました。そこで佐藤校長の意図を理解した気がしたのです。」

 「こんな苦しいことから逃げずに立ち向かっていけるのは、1人ではなくみんなで一緒だから。一緒だから闘争心だったり我慢強さ、そういうものが身について乗り越えられる。そういうことですか」と佐藤校長に聞いたら、『今頃わかったの』と言われました。

生懸命頑張っている人を必要以上に追い込まない
 ─ミスをしたらミスを認めさせ、責任をとらせるのは普通のことだと思いますが。
 岩井「『お前のミスで負けたらどうすんだ』というのは普通だと思うんですね。でも一生懸命やっている人に対してそれ以上追い込む必要はないわけです。ずっと一生懸命やっている人に対しては、本番は『おまえ1人じゃない。みんながいるから大丈夫だ』と言ってやる。佐藤校長は、あなたの指導は一生懸命だけども、怒るときは怒って『俺が最後の責任を取ってやる』という思いが感じられないと思っていたのだと思います」

 「使う言葉も変わっていったと思います。「絶対勝つぞ」という言い方から「自分の今の力を出し惜しみするな」という言い方になったり。すごく考えるようになりました。スパルタを全部否定するつもりはないんです。スパルタで成長して立派な結果を残している人たちが世の中にはたくさんいますから。ただ、今はそのやり方では生徒に通じない。ではどうするか。生徒を自立させることを考えました。自立の要件は「考え、想像させ、決断する」という3つです。特に想像させることは重要です。一生懸命やることは良いのですが、高校生は視野が狭い。ほかの視点で想像することができないから、周りが見えなくなる。そこを気づかせるのです」