2018年に発売されるメルセデス・ベンツ「Aクラス・セダン」(写真:ダイムラー)

メルセデス・ベンツは7月23日に「Aクラス・セダン」を発表。そしてこれを2018年末までに発売すると伝えた。


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メルセデス・ベンツはすでに5ドアハッチバックの「Aクラス」を発表済みであり、こちらは欧州での試乗会のレポートを本サイトでも公開した経緯がある。(4代目「ベンツAクラス」乗ってわかった超進化)

またこれと前後して、2018年4月に開催された北京ショーにおいてメルセデス・ベンツは、中国専用モデルである「AクラスLセダン」を発表している。ご存じのように中国市場ではロングホイールベースが人気であり、これに答える形でメルセデス・ベンツは専用モデルを用意したわけだ。そしてそれから約3カ月を経て、今回Aクラス・セダンを発表するに至った。

コンパクトモデル群は非常に重要な位置付け

メルセデス・ベンツにとって、コンパクトモデル群は非常に重要な位置付けとされる。理由はこれらがメルセデス・ベンツのイメージを変えてくれた存在であると同時に、新たな顧客を創出してきたからにほかならない。

特に現行の「Bクラス」に始まり、先代のAクラス、現行の「CLAクラス」および「CLAシューティングブレイク」、そして現行の「GLAクラス」といった新世代コンパクト群は、手頃なサイズと価格が相まって、メルセデス・ベンツに新たな顧客をもたらした。

実際、アメリカ市場では2013年から、メルセデス・ベンツ初のコンパクトモデルとしてCLAクラスが導入され、2017年にはコンパクトカーの購入層のうち2人に1人が他銘柄から乗り換えた。またCLAの顧客のうち約50%は、初めてメルセデス・ベンツを購入したというデータがあるほどだ。

つまり、新世代コンパクト群は他銘柄から顧客をしっかりと奪うと同時に、初めてメルセデス・ベンツというブランドを体験するきっかけとなった。そして同時にこれはメルセデス・ベンツのこれまでのイメージを大きく変える要素にもなっている。

これまでは歴史と伝統ある高級車ブランドだったが、新世代コンパクト群によってカジュアルで若いブランドという側面を築き上げたわけだ。


カジュアルで若いブランドという側面を築き上げた(写真:ダイムラー)

それだけに先日登場した新型Aクラスから始まり、今回のAクラス・セダンと続く次世代コンパクトモデル群においても、ブランドの成長とラインナップの拡大において、一層の期待が持たれている。

先にアメリカ市場の話が出てきたことからもわかるように、今回のAクラス・セダンは主に北米マーケットでの市場拡大を筆頭として、全世界的に販売台数を増やしていくための重要なピースである。中国もセダンが重要なマーケットだが、ここには既に専用のAクラスLセダンを送り出して対応し、今後は北米を中心に台数を稼ぐのは間違いない。実際にこのAクラス・セダンの生産は、メキシコのアグアスカリエンテ工場とドイツのラシュタット工場の2拠点で生産される予定となっている。

つまりこれまでの新世代コンパクトとしてアメリカ市場を拡大し、メルセデス・ベンツのイメージを良い方向へと変えたCLAの後を継いで、Aクラス・セダンはさらに販売台数を伸ばすための役割が与えられる。アメリカではコンパクト・セダンは根強い人気があり、市場もしっかりとあるため一定以上の販売台数を見込むことができるわけだ。

ラインナップはさらに隙間が埋まる

またAクラス・セダンを送り出すことによって、メルセデス・ベンツのラインナップはさらに隙間が埋まっていくことになる。

これまでセダンは「Cクラス」「Eクラス」、そして「Sクラス」というヒエラルキーでラインナップされてきたわけだが、そこに末っ子としてAクラス・セダンが置かれることになる。そしてこれによって、他メーカーと比べた際にあらゆるクラスでプレミアム・セダンを要するメーカーとしての存在価値も手にすることができるというわけだ。


ボディサイズでまず注目は…(写真:ダイムラー)

Aクラス・セダンのボディサイズでまず注目は、ホイールベースが2729mmとなることだろう。これはもちろん、先に登場している5ドアハッチバックのAクラスと同じだ。

3サイズは全長4549mm×全幅1796mm×全高1446mmとなる。ハッチバックのAクラスよりも全長が130mm長いノッチバックボディを採用したわけだ。

このボディを採用したことで、トランク容量は420Lを確保。ハッチバックのAクラスの370Lよりも50L多い容量を実現している。加えて室内空間でもクラス最高のレベルを実現しており、特に後席空間のゆとりは以前のCLAよりも広いものを実現しているのは間違いない。

また同時にこのセダンボディでは空力性能向上にも力が入れられており、Cd値は0.22と、これまでのCLAを凌ぐ数値を実現すると同時に、生産車では世界で最も優れたCd値を持つ1台となっている。

使用するプラットフォームはハッチバックのAクラスが用いている新世代のアーキテクチャであるMFA2。そして搭載エンジンのラインナップは、ガソリンモデルがルノーと共同開発による新エンジンである1.4Lの直列4気筒直噴ターボを搭載した「A200」。そして本国ではこのほかに、ハッチバックのAクラス同様に1.5Lのディーゼルモデルが用意されている。トランスミッションは、1.4Lのガソリンに組み合わせられるものは新規開発された小型軽量の7速ツインクラッチ式の7G-TRONICとなっている。


後席空間のゆとりは以前のCLAよりも広いものを実現している(写真:ダイムラー)

またシャシーに関してはリリースにアナウンスはないものの、16〜19インチのタイヤを履くという記述があることから、サスペンション形式等はハッチバックのAクラスに準ずるものとなるだろう。つまりフロントはマクファーソンストラットで、リアは装着されるホイールに応じて違いがある。16〜17インチ装着車はトーションビームで、18〜19インチ装着車はマルチリンクとなるだろう。

安全装備は

そして安全装備に関しても、ハッチバックのAクラスに準ずるものが採用されている。

これは最近のトレンドであるADAS(運転支援)を含んだもので、上級のEクラスやSクラスと同じ装備が与えられる。たとえば前走車との距離を一定に保ちアクセル/ブレーキ/ハンドルをクルマの側で操作するアクティブディスタンスアシスト・ディストロニックは、ステアリング・アシスト付きを装備。さらにウインカー操作だけで車線変更する機能“アクティブレーンチェンジアシスト”も採用された。これらはすでに、ハッチバックのAクラスで採用され、欧州Cセグメントの中で見て最も充実した内容であり、当然今回のセダンにも同じものが入るわけだ。

さらにAクラスでは、メルセデス・ベンツとして初めてのまったく新しいマルチメディアシステム、MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)を採用して大きな話題を呼んだが、これも今回のセダンで同じように採用されている。


従来のメーターフードがなく…(写真:ダイムラー)

それゆえにインテリアもダッシュボードに従来のメーターフードがなく、ダッシュボードの半分以上を一枚のパネルが占めている新鮮な造形となる。この1枚のパネルは実際には、10.25インチのディスプレイが2つ並べられる構成で、すでにSクラスやEクラスでも同じ方式が用いられている(モデルによって7インチ×2という構成や、7インチ&10.25インチという組み合わせになる)。

そしてそれぞれの画面はハンドルに搭載されたタッチコントロールボタンおよびセンターコンソールに置かれたタッチパッド、または画面に直接触れて動かすタッチスクリーンのいずれでも操作が可能だ。

“インテリジェントボイスコントロール”とは

しかしながらMBUXで最も印象的なのは“インテリジェントボイスコントロール”と呼ばれるシステムを備えたこと。

これはアップル社のiPhoneにおけるSiriや、グーグルホームやアマゾンエコーといったスマートスピーカーなどと同じように、曖昧な会話でもAI(人工知能)が理解をし、インフォテイメントや車両操作関連の機能を動かすことができる仕組みである。

Aクラスのレポートでも記したが、ドライバーが、「Hey Mercedes」と呼びかけるとシステムが起動して、対話形式でシステム操作ができるのだ。


バリエーションはさらに広がっていく可能性もある(写真:ダイムラー)

このAクラス・セダンの登場は、おそらくアメリカ市場では現行のCLAクーペにとって変わるものだと筆者は予測する。また今後はこのAクラス・セダンの派生モデルとして、現行のCLAシューティングブレイクに取って代わるAクラス・ステーションワゴンが登場するかもしれない。

さらにいえば、今回CLAクーペに取って代わってAクラス・セダンが登場したことで、今後の次世代コンパクト群には2ドアクーペなどのバリエーションが展開される可能性もある。そしてもし2ドアクーペが加われば、さらにその派生としてカブリオレも……といった具合で、バリエーションはさらに広がっていくと考えてもおかしくはない。

なぜならメルセデス・ベンツにとってのコンパクトモデルは、ブランドイメージを若返らせると同時に新規顧客開拓のための重要な存在。そしてここで獲得した顧客を次のCやその他にステップアップさせるためにも、多種多様なユーザーに「初めてのメルセデス」を提供したいと考えている。

そうしてこれまでにない層を取り込んだ新たな循環を生み出すことで、このブランドをより強固なものにしていく、というわけだ。

今回発表されたAクラス・セダンの初お披露目は2018年10月に開催されるパリショーとなる。