ビル・ゲイツ 年に2週"ぼっち時間"の効用

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私は時間を持て余している、という人はあまり見かけない。みな多忙で、仕事に人生を“占拠”されている感覚の人が多いのではないか。だが、ビル・ゲイツなど真に有能な人は、人との交わりや繁雑な日常を意図的に遮断する期間を設ける習慣があったのだ。

■心理学者ユングが習慣化した瞑想と散策の「内省の時間」

私はスイスの精神分析医・心理学者カール・ユング(1875-1961)の時間の使い方を聞いたときに、まさにこれが私の求めるリズムだと共鳴しました。

『大事なことに集中する――気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』(ダイヤモンド社)によると、ユングは、スイスのチューリッヒ湖北岸近くのボリンゲンという村に、2階建ての石造家屋を建てて、隠れ家をつくったそうです。

この隠れ家には電気が引かれておらず、夜は石油ランプと暖炉で過ごす。このボリンゲンの隠れ家では、完全に一人で、朝7時に起床、朝食をたっぷりとった後、専用オフィスで2時間、執筆をします。そして、午後は瞑想するか周辺の田舎を長時間散策し、夜10時に寝る。

ひとりの時間と人と交わる時間のバランス

ユングはこのようなコメントを残しています。

「このタワー(隠れ家)で得た安らぎと生き返るような気持ちは最初から強烈だった」

私が真に共鳴したポイントは、ユングが森の中の生活でずっと一人の生活をしたわけではなく、チューリッヒでは逆に講義やカウンセリング、交流など濃い人間関係を構築して大忙しの日々を送っていたことです。

■「仕事」に人生を占拠されないよう隠れ家にこもる

彼は、偉大な「タイプ論」や「ユング心理学」の体系をつくるために、一人で深く内省する時間と、カウンセリングや大学の講義という人と交わる時間を区別し、高度に人生に同居させたのです。内省と臨床の2つがあったからこそ、血の通った心理学理論を完成させることができたのでしょう。

カウンセリングや講義・交流に明け暮れると、それだけで1年は大忙しです。著名な彼のもとには、助けを求める患者、教えを請う人が絶えることなく訪れていたはずです。この時間は重要と考えながらも、すべてがこの時間に人生を占拠されないように、また深い理論体系を作り上げるために「隠れ家」に引きこもったのです。

ユングタイム=隔絶された時間が人生を変える

この隔絶された時間をユングは意図して作った。これを、私は「ユングタイム」と呼びたいと思います。

さて、ユングの時間の使い方に感銘を受けた私もそれを取り入れています。

午前中をその「ユングタイム」に充てています。これは本の執筆・連載など、新しいものを生み出す時間。ユングが隠れ家にこもったように、私は午前中という時間は他の仕事を一切遮断するのです。

そして午後は、習慣化コンサルタントとしてビジネスパーソンなどのクライアントと面会したり、他の専門家と会ってプロジェクトのやりとりをしたり、対外的なオペレーティブワークをしています。

この2つのモードを午前・午後で分けることで、すごく充実感が高まり、時間をより効率的に使うことができるようになりました。

ビル・ゲイツが欠かさない「考える週」

マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツも「ユングタイム」を意識してとっています。『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)で、次のように紹介されています。

ゲイツは1週間の「考える週」を定期的にとっていて、その時間はじっくりものを考え、本を読むための時間にしている。80年代からずっとこの習慣を続けており、会社が急成長してからも中断することはなかった、と。

時代の寵児となり、忙しさのピークにあったときも、ゲイツは年に2回は、1週間の「考える週」を設けて、仕事から離れる時間を作っていたそうです。ひとりきりで大量の本や記事を読み、最新の技術について学び、これからのことに思いをはせました。ビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同会長となった現在も、この習慣は続いているそうです。

日常から遮断された“閉じた時間”を強制的に作る

ゲイツの「考える週」は、まさに「ユングタイム」。ユングと同様、多忙な毎日や日常から遮断された、静かで深く考える時間を、意図的に作り出したのです。

もしかしたら、この「ユングタイム」を優先したからこそ、マイクロソフトという巨大企業の方向性や戦略を考えることができたのかもしれません。

■内省の時間がたくさんの気づきを与えてくれる

人生について仕事について深く考える時間は、現代人の人生に大きな影響を与えると思います。

私は、日立製作所を辞めて、コンサルタントとして独立した当初、年末年始の2週間を海外で過ごすことを恒例にしていました。日常の業務や住み慣れた環境から離れて、人生と仕事のビジョンだけに思いをはせ、気づきを受け取る2週間です。2週間という時間があると、気づきが気づきを生み、どんどん内省が深くなります。断片的な内省では深まらないレベルにまで到達できるのです。

「本当に自分が何を大切にしたいのか?」
「真の価値観は何か?」

深い深い内省だからこそ、こうしたちょっと“哲学的”な意識も芽生え、それに対する気づきも生まれます。

「週末の2時間」で安らぎとやる気が生まれる

人生の最高のリズムは自らの内側に聴かなければ、絶対に見つからないと思います。そのためには、日常業務や日常生活から離れて一人になって「ユングタイム」を設けることです。そうした、いい意味での「閉じた時間」を習慣付けるのです。

もちろんひとりで旅に出なくても、休日に2時間、カフェでひとりたたずんで「ユングタイム」に浸るだけでいい。きっと思いもよらぬ良い気づきが得られるのではないでしょうか。

(習慣化コンサルタント 古川 武士)