“奇跡”のレスターで輝くマフレズ…ハリルが抜擢した“無名アタッカー”飛躍の軌跡
ディフェンスを鋭く抜き去り、あるいは鮮やかにかわしたところから、状況に応じてラストパス、クロス、ミドルシュートを蹴り分ける。また相手が強引に止めようとしても、足にボールが付いて来る様なタッチとしなやかな身のこなしでファウルを獲得する。ボールを持てばとにかく個で仕掛けて打開を試みるスタイルは見方によって“独善的”とも捉えられがちだ。
もっともクラウディオ・ラニエリ監督が掲げる堅守からのスピーディーに縦を突くスタイルにあって、基本的に球離れが早い選手を揃えるチームの中で明確なアクセントになり、また突破が成功した時の“対価”も高い。そこはラニエリ監督もチームのバランスとマフレズの生かし方を理解し、オフ・ザ・ボールや守備のハードワークを条件として、そうしたプレーを容認しているのだろう。マフレズはラニエリ監督の指導が非常に厳しいものであるが、同時に信頼して起用してくれていると地元メディアに語っている。
攻撃陣の全員がマフレズの様なプレーに固執すれば組織が崩壊してしまうかもしれないが、レスターの中では重要な武器であると同時に、その武器が持つリスクも共有されているのだ。マフレズがアタッキングサードの右エリアから仕掛けに入ると、ヴァーディと岡崎が主力を担う2トップがゴール前に入っていくのに加え、左サイドのガーナ代表MFジェフ・シュルップがファーに走り込む。もう1人、中盤のイングランド代表MFダニー・ドリンクウォーターもミドルレンジに出てセカンドボールに備えている。一方でマフレズの後方で右サイドバックのイングランド人DFダニー・シンプソンが、斜め後ろにはカンテが構え、マフレズがボールを失った場合のリスク管理に備えている。
周囲のサポートやカバーがあってこそ、マフレズの個がレスターで輝いていることは確かだが、この気鋭のアタッカーが単なる“エゴイスト”と異なるのはボールを持ってない状況での精力的なランニングとディフェンスだ。こうした役割をこなした上で、ボールを持った時に得意のドリブルやフィニッシュに直結するプレーを躊躇なく繰り出す。そうした意識のスタンダードは2014年のブラジル・ワールドカップでベスト16に進出したアルジェリア代表で学んだところもあるだろう。
フランス生まれのフランス育ちで、モロッコにもルーツを持つマフレズをアルジェリア代表に招き入れたのが、現在日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督だ。2011年にアルジェリア代表指揮官に就任したハリルホジッチ監督はチーム強化のためにフランス育ちのアルジェリア系選手を積極的に勧誘。アフリカ予選を勝ち抜いた後も可能性のある選手の発掘を続けた。そこで見出された1人がマフレズだったのだ。
フランス2部のル・アーブルで、現在は横浜F・マリノスの指揮官を務めるエリク・モンバエルツ監督の指導も受けていたマフレズは、推定40万ポンド(約6000万円)でイングランド2部だったレスターに移籍したが、当時は“無名アタッカー”に過ぎなかった。実際、ハリルホジッチ監督がマフレズを抜擢した際は、アルジェリア国内でも疑問の声が多くあがったという。
2014年5月のアルメニア戦でアルジェリア代表デビューを果たしたマフレズは、指揮官の評価を高め、本大会のメンバーに選出。ベルギー戦の1試合のみの出場だったが、ベスト16でドイツをあと一歩まで追い詰めたチームの一員として大舞台を経験したことが、現在に生きていることは間違いないだろう。
昨シーズンは30試合で4得点という結果も示す通り、初めての経験となったプレミアリーグの適応に苦しんでいた感もあったが、チームの進化とともに飛躍を遂げたマフレズ。シーズン中にも移籍の話があがったアルジェリア代表MFの市場価値は60億円に跳ね上がったとも言われている。アイヤワット・スリヴァッダナプラバ副会長が主力選手を売らないと宣言したことが報じられているが、さすがに首を縦に振らざるをえない状況も出てくるかもしれない。
移籍か残留か。今シーズンの輝きはレスターの躍進とともに語り継がれるはずだが、25歳のアタッカーが真のワールドクラスとして歴史に名を残すかどうかはここから先のプレーにかかっている。
文=河治良幸

