葛飾野・神戸、サヨナラ弾+延長11回を被安打4の完封

都立葛飾野・神戸友彰

 ニューヒーローの誕生と言っていいだろう。都立葛飾野のエースで4番の神戸 友彰は、初戦である都立八王子北戦でも本塁打を放ち、タイブレークとなった延長13回を投げ切るなど、大物の片鱗はみせていたが、この日の相手は、都立の強豪の都立雪谷。都立雪谷は相原健志から武田英和に監督が代わり、打撃のチームを目指しており、4番の神子 堅吾など、長打力も足もある好打者が揃う。神戸が都立雪谷打線をどこまで抑えるかが焦点になっていた。

 試合は都立葛飾野の神戸、都立雪谷の萩原慶の投手戦で始まった。3回表に冨樫が二塁打を放ったものの、神戸は力のあるストレートやスライダーにチェンジアップを交え、雪谷打線を抑える。都立葛飾野の沖山敏広監督は、「神戸はよく頑張ったし、前の試合では、バッテリーミスも多かったですが、キャッチャーがよく止めてくれました」と語る。

 実際都立八王子北戦では、北井亨樹は捕逸2、神戸は暴投1に四死球6、それに野手の失策もあり、試合を苦しいものにしていたが、この日は失策・捕逸はなく、神戸の暴投1、四死球5は前に試合とさほど変わらないが、内容的には、締まっていた。

 チャンスはまず都立葛飾野が迎える。4回裏二死後、都立雪谷の萩原は、神戸、ブライト、北井に連続して四球。二死満塁となる。続くタカムラにも3球続けてボール。1ストライクの後、タカムラは3球ファールで粘ったが、結局三振に終わった。こうした相手がくれたようなチャンスを生かせないと、流れが相手に行くことが多いが、都立雪谷の萩原は、この回だけで29球投げており、緊迫した試合では、後になって響いてくる。

 都立雪谷のチャンスは6回表に来る。一死後、2番岩崎の中前安打、3番田中の四球で一、二塁とし打席には4番の神子。神子は初球を打って二ゴロに倒れる。それでも5番櫻井は四球で満塁となるが、続く石井は二ゴロでチャンスを生かせない。

都立雪谷・萩原慶

 チャンスを潰した後の6回裏一死後都立葛飾野の3番小泉はレフト前に痛烈な打球を放つが、前の攻撃で凡退した左翼手の石井がダイブして捕球し、流れを渡さない。その次の4番神戸が、都立葛飾野の初安打となる中前安打を放っているだけに、大きいプレーであった。

 7回裏都立葛飾野はタカムラの二塁打などで二死一、三塁のチャンスを迎え、2番高木淳志の初球を捕手が後逸。タカムラは思い切って本塁を狙うもアウトになり、無得点。試合は延長戦に突入した。延長11回裏、都立葛飾野は一死後、打席に4番神戸を迎える。この回無得点だと、12回は両チームとも下位打線から始まることから、都立葛飾野にとっては前の試合に続き、タイブレークに突入する可能性が濃厚になる。

 神戸は1ボールの後のストライクを思いっきり振っての空振り。「(本塁打を)ちょっと狙っていました」と神戸は語る。都立雪谷の萩原は、それをみてボールになるスローボールを投げるが、神戸は落ち着いて見送る。フルカウントとなった後の6球目、神戸が振り切ると、鋭い金属音が響き、観客がどよめく。打球はセンターややライト寄りのフェンスを越える本塁打となり、都立葛飾野がサヨナラ勝ち。都大会出場を決めた。

 「インコース低めのストレートでした」と神戸は、試合後笑みをたたえて語った。その本塁打もさることながら、都立雪谷の強力打線をわずか4安打、奪三振9の完封は見事であった。投球については、「今日は肘を意識して、ボールの回転に注意して投げました。インコースをうまく使えたのが良かったです」と語る。沖山監督は、「5点勝負と思っていました。今日は我慢強くやってくれました。走り込みの成果だし、気持ちの面も大きかったと思います」と語る。

 都大会の本大会には全部で96校が参加する。その中で都立葛飾野は、初戦はタイブレークの末の逆転サヨナラ、そして2戦目の代表決定戦は、延長11回サヨナラ本塁打と、苦労して進出を決めた。夏の大会のシード校になるには、都大会でベスト16に入らなければならない。今後さらに険しい道が待っているが、「一戦一戦、都立葛飾野の野球をきっちとやっていきたいです」と沖山監督は語る。厳しい戦いを通じて都立葛飾野は神戸だけでなく、チーム全体が成長している。都大会での戦いが楽しみだ。

 都立雪谷も敗れはしたものの、萩原は都立葛飾野打戦を被安打4、奪三振7に抑える好投をした。「萩原は低めにまとまっていました。球数がやや増えてしまいましたが、あの一発は、打った神戸君が立派でした」と武田監督は語る。打つチームへの転換を試みている都立雪谷としては、完封という結果に終わってしまったが、武田監督は、「方針は変えないと選手にも、言っています。ただ、相原さんの時のような、少ないチャンスでも得点につなぐ野球はやっていきたいです」と語った。

 都立雪谷は秋も春も都大会に進むことなく、夏を迎える。しかし萩原投手の丁寧な投球、神子を中心とした強力打線があり、本大会に出ていないからと、無視できる存在ではない。

(取材・写真=大島 裕史)

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