Jリーグ勢と高校(または大学)勢が対戦する天皇杯のようなゲームは、岡崎慎司の爆発によって妥当な着地点を見つけることとなった。10月8日に行なわれたアジアカップ予選である。

 ドイツの『kicker』紙にならって採点をつければ、僕は「3」にする。5点満点で数字が大きくなるほど評価が下がる同紙の採点で、「3」は「可もなく不可もなく」という位置づけだ。試合後の岡田監督や選手たちの表情からも、大勝した喜びを読み取るのは難しかった。

 個人的に評価したいのは岡崎だ。日本代表では、およそ9年ぶりとなるハットトリックを達成したからではない。チームコンセプトに則った動きが出来ていたからだ。

 注目したいのは54分から55分の一連のプレーである。長谷部のスルーパスをペナルティエリア正面やや手前で受けた岡崎は、身体を回転させながらボールをトラップして前へ持ち出した。一連の動きに無駄はなかったものの、トラップがやや大きくなったこともあり、センターバックにボールをカットされてしまう。

 岡崎らしさが見えたのはここからだ。ボールを失っても動きを止めることなく、すぐにスライディングを仕掛けたのだ。クリアするタイミングを失ったセンターバックは、松井がケアしている味方選手にパスをするしかない。苦し紛れのクリアが香港陣内中央へ繰り出されるが、大久保が相手選手ともつれるように競り合い、こぼれ球を遠藤が支配する。岡崎のディフェンスをきっかけとして、日本の攻撃が再び始まった。

 中村、長谷部、中澤、長友とつながれたボールは、右サイドから左サイドへ流れてきた中村のもとに行き着く。中村はGKと最終ラインの間へ、ライナー性のクロスを供給した。

 ここに飛び込んできたのが岡崎だった。惜しくもボールをとらえることはできなかったものの、DFを引きずりながらのダイビングヘッドは得点の予感をうかがわせた。何よりも、彼自身の素早い攻守の切り替えが呼び水となった。そこに僕は、岡崎という選手の価値を見出すのである。

 正直に告白すれば、フル代表でプレーする彼に、違和感を覚えた時期もある。前線からの労を惜しまない運動量には頭が下がるものの、ストライカーとしての凄味が感じられなかったからだった。07年のアジアカップで高原がまとっていた風格と、つい比較してしまうところがあった。

 いまは、違う。「周りがうまいからと言って、周りに合わせていたら自分のプレーが出せない。いまは自分が動き出してパスをもらうことができている」と、岡崎は言う。チームメイトの信頼感を勝ち取ってきた23歳は、ゴール前での迫力を身につけてきた。もちろん、ディフェンス面での頑張りは保たれている。攻守の切り替えの速さは、サイドハーフも含めた前線の選手ではナンバー1だろう。

そして、南アフリカW杯へのサバイバルから、一歩抜け出しつつある。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖