メタリカが語る、こだわりのウイスキー造り「超低周波のサウンドを樽に聴かせるんだ」

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メタリカが、ウイスキー「Blackened」を発表した。なんでも深い琥珀色のウイスキーを作るためにメタリカの音楽を大音量で樽に聞かせる手法をとっているという。バンドメンバー本人たちと蒸留マイスターが蒸留工程についてローリングストーン誌に語ってくれた。

ラーズ・ウルリッヒはメタリカの評判をよく知っている。「かつてメタリカと”アルコホリカ”、つまり俺たちの飲酒癖が頻繁に話題にのぼった時期があった」とラーズ。「しかし、当時の俺たちは金を持っていなかったから、いわゆるホワイトラベルの不味いビールやウォッカ以上の酒は買えなかった。ロサンゼルスに行って(1989年の)アルバム『メタル・ジャスティス/… and Justice for All』と『メタリカ』を作ったあたりから、ウイスキーやジャックダニエルを飲む機会が増えた。俺たちにとって成功の第一歩がウイスキーだったのさ」と。

バンド全員が劇的に飲酒量を減らした現在、彼らはウイスキー産業に乗り出すことにした。約1年半前、メタリカはSweet Amber Distilling Co.という酒造会社を立ち上げ、もうすぐ最初の作品「Blackened」を出荷する予定なのだ。これは北米産のバーボン、ライ麦、ウイスキーをブレンドしたもので、ブランデー樽で熟成させた酒だ。彼らは「観客とつながる新たな方法」を見つけるために、バンドのマーチャンダイズの延長線としてウイスキー産業に参入することにしたと、ドラマーが教えてくれた。

彼らの一番関心事は、ウイスキーが「年寄りの飲み物」とみなされていることだった。「俺が若造の頃、ウイスキーは若者の飲み物じゃないって思われていた」と、ウルリッヒが言う。「このBlackenedが、21や22の若者が『親父や爺さんの飲み物じゃない』と言って受け入れてくれると嬉しいね」と。メタリカが手を組んだのがデイヴ・ピッカレル。彼はもともと化学の教授だったWhistlePig(ライ麦ウイスキー)の蒸留マイスターで、かつてバーボンウイスキーのメイカーズマークで仕事をしていた。この蒸留マイスターがメタリカのウイスキーをメタリカならではの作品へと仕上げる手伝いを行った。

「ウイスキーを作ったことのある人の助けを借りてウイスキー産業に参入して、瓶にメタリカのラベルを貼って売り出すってことはしたくなかった」と、ウルリッヒが説明する。「自分たちのファンの目を真っ直ぐに見て、『俺たちの手でゼロから作った。良し悪しは別として最低でもメタリカ的タッチがちゃんと入っている』と言えるものを作ることが重要だと思ったのさ」。

ボブ・ディランからハンソンまで、自分のブランドの酒作りに着手するアーティストが増える中、メタリカはBlackenedにメタリカならではの特徴を持たせる独自の方法を見つけた。ウイスキーの熟成を早めるために音波を使う蒸留家がいる。ピッカレルはこれを「樽を幸せな気分にさせるため」と言う。Sweet Amber社は現在特許出願中の「ブラックノイズ」と呼ばれる音波強化プロセスを生み出した。これは低周波を使って大樽を振動させて風味を深める手法だ。低周波振動を起こすのは、もちろんメタリカの音楽である。

「俺は何でも最初に疑うタイプなんだ」とロバート・トゥルージロがローリングストーン誌に語ってくれた。「一度疑ってかかってから、それについて調べて確認するってタイプ。このプロセスを一度通らないとダメでね。今回のブラックノイズは5ヶ月くらい前に納得したよ」。そして現在の彼はこのプロセスを『マッシュピット』と呼ぶ。理由は「詳しくは知らないけど、サウンドと振動とミックスされる分子構造がある」からだと言う。

このプロセスがまだ特許出願中なこともあって、ピッカレルは詳しい説明は避けているが、ブランデー樽には木材化学物質がたくさん含まれていると明かした。「表面にはウッドキャラメルがある。樽を焼くことで焦げ目をつけられるし、この焦げ目の真下にはレッドレイヤーと呼ばれるものがある」とピッカレル。「ウッドシュガーが燃えるスレスレの高温でキャラメライズする場所がこのレッドレイヤーというわけだ。焦げ目の真下にはキャラメルがたくさんあって、私が目指しているのはウッドキャラメルをもっと引き出すことだ。木材の間膜が破壊されるに従って、ヴァニラのような香りと味を持つ6種類の合成物が生成される。実際、この6種類のうちの1種類がはヴァニラだ。音波振動で木材とウイスキーの相互作用を強化できるとなると、樽の持つ良さがより多くウイスキーに入り込むことになるんだ」。つまり、究極はウイスキーのキャラメル風味に深みを与えることだ、とピッカレルが言う。

彼はこの手法を科学的に証明したいとも言っている。「ウイスキーの色に影響を与えていることは比色分析データで証明できる。特許が受理されたら、この手法に関する科学データを発表する予定だ」と。

ピッカレルがこのプロセスのインスピレーションを得たのが、陸軍士官学校で士官候補生だった頃だ。学内の教会の案内係になった彼は、教会のオルガン奏者デイヴィス博士と仲良くなった。何年もの間、教会のオルガン奏者はオルガンを増築していて、現在はパイプの総数が2万3000本を超えている。ある日、デイヴィス博士がピッカレルにプライベート・コンサートを行い、バッハの「トッカータとフーガ ロ短調」(オペラ座の怪人を思い出してほしい)を演奏して、一番低い音符を弾いてオルガンのフルパワーを見せてくれたという。ピッカレルの言葉を借りると、このときの振動は16ヘルツだったらしい。「振動の回数を数えられるほどで、内臓にズシンと響いた」とピッカレル。あまりのパワフルさに、この音を長く弾き続けると建物全体に悪影響を及ぼすとデイヴィス博士が言ったことを、ピッカレルは今でも覚えている。

「それが非常に魅力的に思えた」と、ピッカレルが続ける。「今回このプロジェクトが本格的に始動したとき、私は『あの振動を試すときが来た』と言ったんだ」。メタリカとマイヤー・サウンドに仕事上の付き合いがあることをピッカレルは知っていた。マイヤー・サウンドはメタリカがコンサート時に使用するサウンドシステムのコンポーネントを造った会社で、トゥルージロが希望したギターケースサイズの巨大なサブウーファー(トゥルージロはこれを「棺桶」と呼ぶ)を開発してもいた。そして、彼らはメタリカの楽曲の超低周波を樽に聞かせたのである。楽曲のプレイリストはメンバー4人が作ったものだった。「彼らのクリーンで粒立ちの良いリズムがこのプロセスをアシストしたが、超低周波のブンブン鳴るサウンドを樽に聞かせるだけで影響を与えられると確信している。また、超音波で樽自体を跳ね返させる影響も大きいと思う」とピッカレル。

「つまり、大事なのは低周波の下にあるスーパーサブ(※可聴周波以下の音)だ」とウルリッヒ。「車を運転していて、横の車線を走る車から重低音の曲が聞こえてくることがあるけど、その音って聞くよりも感じる方が多くないか? そうなるのは耳に聞こえない周波の音が空気と分子を動かしているからなんだよ」と説明する。

最初の出荷分にはそれぞれのメンバーが選曲したプレイリストが付いていて、ファンはバッチ場号を選択してプレイリストを聞くことができる。ウルリッヒのプレイリストには「サッド・バット・トゥルー/Sad But True」、「ワン/One」、「ザ・アウトロー・トーン/The Outlaw Torn」、「ブロークン、ビート&スカード/Broken, Beat & Scarred」が含まれている。「完璧にその場の思いつきで選曲したから、科学的根拠なんて一切ない。前々から『ブロークン、ビート&スカード』は人気がないと思っていて、ウイスキー用語を使うなら、他の曲とは熟成の仕方が違う。『サッド・バット・トゥルー』はライブで演奏するのが好きだし、お気に入りの一曲だ。『ワン』は『ワン』だし、『ザ・アウトロー・トーン』は理由なんてねぇよ」。

オジー・オズボーンのバンドでベースをプレイしたときに「ウイスキー武将」というニックネームまで付いたトゥルージロの選曲は、自分が加入する前の楽曲ばかりだ。「ザ・フレイド・エンズ・オブ・サニティ/Frayed Ends of Sanity」、「ファイト・ファイヤー・ウィズ・ファイヤー/Fight Fire With Fire」、「オライアン/Orion」、「ディスポーザブル・ヒーローズ/Disposable Heroes」など。「俺はベースがドライブする曲にしたかった、『ディスポーザブル・ヒーローズ』みたいにね。だってそういう曲にパルスが宿っているから。頭の中で分子がベースのパルスとビートに刺激されて動いている様子を思い浮かべて、ドラムとグルーヴを考えた。それに美しさとダイナミクスとか、アート作品と同じように考えてみたんだ。それがへそ曲がりな俺のやり方なのさ」と、トゥルージロが言う。

ピッカレルはこの出来に満足している。彼には、ブランデー樽で仕上げたおかげでドライフルーツの風味加わった「リッチでフルボディのウイスキー」の味がするという。最近、ピッカレルはこのウイスキーをモルトウイスキー協会のとあるチームにテイスティングしてもらい、「スコッチウイスキー雑誌の1ページから抜け出したような年配の紳士」から合格のお墨付きをもらった。この紳士はまず香りを確認し、色をじっくり見てから、テイスティングしたという。「この紳士は本当に厳格な雰囲気をまとっていて、口の中でかみしめ、唇で音を立てて味わって、テイスティングを終えた。そして、こちらを見て『正直に言うと、かなり驚いている。これは普通に美味しい』と言った。もちろん、これは不味くはないという意味と同じだとわかっているけど、この紳士の外見と雰囲気から判断して、きっと辛口の評価になると思っていたから驚いた。そんなふうに、良い反応が届いているんだ」とピッカレル。



彼らがローリングストーン誌に送ってくれたサンプルはライトボディのウイスキーで、「ワン」のダブルベース攻撃で鍛えられたことを考えると、驚くほど甘くてスムーズな味わいだった。後味もほとんどなく、スッキリしている。「俺は『いわゆるアーシー』な味という表現を使うよ。かすかな切れがある点が気に入っているけど、そのあとにくるスムーズさがあるからバランスが取れているね」と、トゥルージロが言う。

まだメタリカの楽曲で鍛えていないウイスキーとの目隠しした味見をしていないウルリッヒはこう言う。「ライトな味わいで、香りも独特だし、とても現代的な味がする。それに温かみのある味だと思う。俺は大きな氷で少し冷やしてから飲んでいるよ」。

「口に含んでちびちび飲むんだ。かなり飲みやすいぜ」と、かつて「アルコホリカ」として有名だったドラマーが太鼓判を押している。