鉄道事業の分社化を発表した東急電鉄の車両(撮影:大澤誠)

私鉄大手の東京急行電鉄は9月12日、鉄道事業を分社化すると発表した。2019年6月の株主総会で承認を得て、同年9月に実施する。分社化された鉄道事業は、東急が100%出資して新設する新会社が承継する。つまり、東急電鉄の傘下に鉄道子会社がぶらさがるという形になる。

約4500人いる東急の従業員のうち、鉄道に従事する社員は3000人を超える。これらの社員が鉄道子会社に出向する。また、現在、東急は伊豆急行、上田電鉄といった鉄道会社を子会社として抱えているため、今後は東急の鉄道新会社と伊豆急行、上田電鉄などの地方鉄道会社の関係は並列的になる。

鉄道子会社の社名はどうなる?

分社化後も東急電鉄の上場は維持されるが、上場会社自身が単体で鉄道事業を営むわけではないので、社名は変更される可能性が高い。たとえば「東急ホールディングス」といった名称が考えられる。その場合は分社化した新会社が「東急電鉄」の名前を引き継ぐことになるのだろうか。名称については、「今後検討してきたい」と藤原裕久常務は説明する。なお、鉄道事業は100%子会社であり、連結決算に与える影響はほとんどなさそうだ。

持株会社には2種類ある。事業は子会社が行い、親会社は子会社統治に専念する「純粋持株会社」と、子会社統治を行いつつ自らも事業運営を行う「事業持株会社」だ。鉄道業界では西武ホールディングス、相鉄ホールディングス、阪急阪神ホールディングス、近鉄グループホールディングス、京阪ホールディングスなどが純粋持株会社だ。

東急は現状でも百貨店、ストア、ホテルなど子会社が行っている事業もあり事業持株会社である。なお東急は鉄道を分社化した後も不動産などを引き続き本体が行うため、事業持株会社のままである。

鉄道事業を分割する理由について、藤原常務は「事業環境を取り巻く環境の変化へいっそうのスピード感を持って対応するため」と語る。今年3月に発表された「中期3か年経営計画」の時点では「分社化については検討していなかった」としており、この半年で急速に浮上したようだ。

ただ、分社化しなくてはスピード感がある鉄道運営ができないのかというと、そんなことはないだろう。ほんの2年前、東急の幹部は「鉄道などを子会社化することにあまりメリットはない」と発言していた。鉄道と不動産の両方が関係する駅の再開発のように、複数の事業にまたがるプロジェクトについては、一つの会社で行うほうがスムーズに進めることができるからからだという。

この点について確認したところ、藤原常務は「スキームはその当時からブラッシュアップしたが、考え方は変わらない。分社化でスピード感が鈍ることのないよう、気をつけなくてはいけない」と語る。

いっぽうで、不動産など鉄道以外の事業を分割する考えについては「検討していない」と、藤原常務は明確に否定した。鉄道同様、不動産も分割するほうが「環境の変化にスピード感ある対応」ができるはずだが、東急グループ内には業界4位の大手不動産会社、東急不動産ホールディングスがある。同社は1953年に東急の不動産部門が分離して発足した会社が前身で、東急は同社株式の約15%を保有する。東急が不動産を分割しないのは、両者の住み分けが関係しているのかもしれない。

「渋谷再開発にメド」が契機?

日本の人口が減少に転じる中で東急沿線の人口はまだ増え続ける。鉄道事業において、混雑対策は喫緊の課題だ。時差通勤者へのポイント付与といった小手先の対策ではなく、渋谷駅のホーム増設といった抜本的な対策を、4月に東急のトップに就いた郄橋和夫社長は「検討する」としている。つまり、鉄道分社化は、今後抜本的な混雑対策を行うために必要な組織改革とも考えられるのだ。


2027年度頃の渋谷駅周辺のイメージ(画像:東京急行電鉄)

鉄道分社化を発表した翌日の9月13日は、渋谷駅の再開発によって誕生した複合施設「渋谷ストリーム」がオープンする日でもある。そして、渋谷駅直上の超高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」が2019年秋頃に開業する予定だ。これは鉄道新会社の発足時期とほぼタイミングを同じくする。

今回の発表には、鉄道と不動産の両事業にまたがる巨大プロジェクトである渋谷再開発に一定のメドがついたことで、今まで以上にスピード感を持って鉄道事業の運営に取り組むという意味が込められているのかもしれない。