和田勇・積水ハウス会長兼CEO

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積水ハウスが創業まもなく、無名だったころから営業で成果を上げてきた和田勇会長。リーダーはどうあるべきかを語った。和歌山出身の若手が集う「わかやま未来会議」での講演を全公開。

■CSのために体を張ればどんな商売も成功する

積水ハウスの経営で柱になるのは顧客満足(CS)だと思います。阪神淡路大震災や東日本大震災などの災害が起きたときは、どこよりも早くお客さんの安否を尋ねるなどの対応がとれました。そういうことが習慣化されているのです。

もちろんCSは第一にお客さんのためですが、社員のためにもなります。私は自分の経験からそう思います。若いころに仕事が辛くて何度も会社を辞めたいと思ったときに、お客さんの喜ぶ顔を見るとまた頑張ろうという気持ちになれたからです。

私が入社した昭和40年は大変な就職難の年でした。何とか採用してもらった積水ハウスはまだ200人そこそこの会社。今のように住宅の総合展示場はないし、私が入社する前年まで創業から5年間赤字の会社でしたから広告にもお金を使えません。飛び込みで団地や社宅に訪問するのですが、知名度がないので相手にされません。名刺を出すと「水」を「木」と見間違えて、「つみきハウスですか」と言われる始末です。

それでもお客さんのところに根気よく何度も通えば気持ちが通じるものです。新人の夏、何とか1軒売れ、買ってくれたお客さんを大事にすると、そのお客さんが知り合いを紹介してくれる。それで3年目には全国で一番売る営業になりました。経理上は、契約し竣工すれば売り上げが立ち、それでおしまいですが、お客さんとの関係はむしろそこからがスタートです。

だから私が社長になったときも社員には「CSを徹底しなさい」と言いました。顧客満足のために本気で体を張れば、どんな商売でもうまくいくと思います。

■未来に責任を持つ「5本の樹計画」

家を建てたら30年、40年、50年と住んでもらうわけです。そこで私は社員に「未来責任を持とう」と言いました。未来責任とは、住まいやその周辺の環境に配慮することです。99年に「環境未来宣言」を行い、まず他社に先駆けて複層ガラスを標準仕様にしました。2枚のガラスの間に空気の層をつくることによって、夏の熱気も冬の冷気もダイレクトに伝えない。それから住宅からのCO2の削減にも挑戦しました。

続いて、01年には壊された生態系を取り戻すために「5本の樹計画」をはじめました。日本のそれぞれの地域に、気候風土に合わせ自生している木があります。「3本は鳥のために、2本は蝶のために」を合い言葉に元々あった木を植えると姿を消していた昆虫が戻り、野鳥が帰ってきます。積水ハウスが分譲した住宅地の例では、14〜20種類の昆虫が発見できます。分譲地の周りを調べてみると昆虫が数種類くらいしかいませんから、5本の樹計画がいかに生態系を守るかが分かってもらえると思います。05年には「サステナブル宣言」を発表し、再生可能エネルギーの積極採用などにいち早く取り組んできました。

こういう取り組みを真面目にやってきて、08年には業界で初めて環境省の「エコ・ファースト企業」に認定されました。同じ年に開かれた洞爺湖サミットでは、会場の一カ所を借り、家で使うエネルギーと太陽光発電などでつくるエネルギーの差がゼロになる「ゼロ・エミッションハウス」を建て、そこで首脳の奥さん方にお茶会を開いてもらいました。これが今話題の「ゼロ・エネルギー・ハウス」の原型となり、当社は業界トップの新築住宅の7割にまで普及させるまでになりました。

このように環境についてはかなり頑張ってきたつもりです。当初、環境に優れた住宅は日本でしか売れないと思っていましたが、やはりいいものは世界中に広げたい。どの国がいいだろうかと考えはじめたとき、真っ先に思い浮かんだのがオーストラリアの空港での体験です。外来種を持ち込ませないため、飛行機を降りるとすぐに靴の裏を消毒されます。環境に配慮する国だという強い印象があったのです。

とりあえずのスタートだったオーストラリアでの事業は、今では5000戸くらいになりました。なかには、元はスラム街だった場所を開発したケースもあります。暗くなると歩くのも物騒なところでした。そこに超高層ビルを建て、壁面緑化や空中庭園の設置によって見た目のよさと冷暖房にかかるエネルギーの削減を目指したのです。これが「Best Tall Building Worldwide」という超高層ビルの世界的な建築賞で一番になりました。

それをきっかけに積水ハウスの環境技術が認められ、オーストラリアでどんどんいい仕事ができるようになったのです。その後、シンガポールやアメリカ、さらには中国にも進出しています。

■大事なのは部下が伸び伸びと働き成果を出すこと

私が講演するとよく聞かれることがあります。それは「リーダーとして大切なことは何か」という問いです。とくに中堅管理職は上と下に挟まれて、一番苦しんでいます。そういう人には「下を向いて仕事をしてください」とアドバイスします。リーダーとして大事なのは、部下が伸び伸びと働いて成果を出すことです。

それと同時に提案するのが「脇はゆるくしておく」こと。リーダーが脇を締めすぎていると、部下は困ったときに飛び込んでこられません。ふだんはゆるめておいて、必要なときだけ締める。これが重要です。

若い人に対しては、ときには失敗も許容する姿勢をとってほしいと思います。そうしないと失敗を恐れ、挑戦しようという気持ちがしぼんでしまいます。

私は営業所長の時代、賃貸住宅の「シャーメゾン」の原型をつくりました。市場には木造賃貸しかなかったときに鉄骨製の賃貸住宅を開発したら売れるのではないかと思い、技術陣と一緒につくり、結果、売り上げ好調でした。しかし開発したときは、上から「勝手なことをして」とひどく怒られました。もし計画段階でつぶされていたら、大いにやる気を失っていたでしょう。

組織が大きくなると、とかく体裁ばかりを気にし、下を縛るようなことしか言わなくなる管理職が増えます。そんなことをしたら誰も挑戦しません。部下には常に好奇心をもたせ、どんどん挑戦する気持ちを促す。それが会社を成長させるコツではないでしょうか。

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和田 勇(わだ・いさみ)
1941年和歌山県橋本市生まれ。関西学院大学卒業後、積水ハウスに入社。入社3年目で全国1位の販売成績を上げ、28歳で名古屋東営業所長に就任。のちの「シャーメゾン」の原形となる2階建て鉄骨賃貸アパートや、クレーム対応専門窓口の設置など、独創的なアイデアを次々に実行。90年に取締役、94年常務取締役、98年社長に就任。2008年より現職。

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(積水ハウス会長兼CEO 和田 勇 構成=Top communication 撮影=向井 渉)