分子状水素と還元性ミネラルナノ粒子を持つ電解還元水は細胞内活性酸素消去活性を示し、マウス及び線虫の寿命延長作用、抗腫瘍効果、抗糖尿病効果、抗動脈硬化症効果、抗神経変性症効果、抗アレルギー効果、放射線防護効果、肝臓保護効果、胃粘膜障害保護効果、網膜保護効果、抗がん剤の副作用軽減効果、抗二日酔い効果など多彩な生理効果を示すことが多数の論文により示唆されており、血液透析の水に電解還元水を使用する電解水透析法では副作用が軽減されるなど医療への応用も進んでいる状況だ。

電解還元水ががん細胞の増殖抑制、血管新生抑制、白血病細胞の正常細胞への分化誘導、化学発がん抑制などの抗腫瘍効果を持つことがすでに報告されている。

そして今回、白畑教授と日本トリムによって、電解還元水ががん細胞の最も悪性の性質の1つである浸潤活性を抑制することを明らかにしたというわけだ。

悪性腫瘍の1つであるヒト線維肉腫HT-1080細胞は、高頻度で転移・浸潤を起こす細胞である。

近年の研究で、がん細胞内に蓄積する過酸化水素(活性酸素種の1つ)が、「MMP-2」などの「金属プロテアーゼ(タンパク分解酵素)」の生産及び分泌を促進し、コラーゲンなどのがん細胞を取り巻く繊維状タンパク質を分解することにより、がんの浸潤が促進されることが明らかとなってきた。

がん細胞の浸潤能はコラーゲンゲルの上にがん細胞をまき、がん細胞がコラーゲンゲルを破壊して潜り込む能力を調べる「インビトロ浸潤アッセイ試験」で調べることが可能だ。

そして最近の研究では、過酸化水素ががん細胞の浸潤に直接関係していることが報告されている。

NaOH水を電解することにより作製した、組成が単純な電解還元水はHT-1080細胞内の過酸化水素を消去すると共に、浸潤能力を抑制することが明らかとなった。

特に、電解還元水は過酸化水素処理により浸潤能力が高まった細胞により抑制効果が示された(画像2)。

作用機構を詳細に調べたところ、電解還元水はMMP-2の遺伝子発現を抑制し、MMP-2タンパク質の酵素活性も抑制することが明らかとなったのである。

MMP-2の活性化を促進する「MT1-MMP遺伝子」の発現も電解還元水により抑制されたが、MMP-2の活性を阻害する「TIMP遺伝子」の発現は抑制されなかった。

MMP-2遺伝子発現抑制経路を調べるために「マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)」の特異的阻害剤を用いて検討した結果、電解還元水は「p38MAPK経路」を介してMMP-2遺伝子発現を抑制していることが示唆されたのである(画像3)。

今回の研究に関する論文は、Trends in Food Science & Technologyにて2011年11月に掲載されてから2012年3月までの90日間で最もよく読まれた論文の第1位を占めたことから、今後、電解還元水に関する研究が世界的に活発になるものと期待されるという。

今後の展開として、あらゆるがんに対しても抑制効果を示すのかどうかを調べるために、さまざまな臓器別がん細胞に対する効果を調べる必要があると、研究グループは述べている。

また、腫瘍を排除する腫瘍免疫の活性化作用についても詳細に検討する必要があるという。

こうした基礎研究を基に、より有効な高機能電解還元水を開発すると共に、動物実験、ヒト臨床試験を行い、低コストでがんの予防及び治療に役立つ医療補助水としての電解還元水の利用方法を確立する必要があるとした。

さらに、電解還元水の日常的飲用により、がん細胞内の活性酸素レベルを低下させ、がん細胞の増殖抑制、血管新生抑制、転移・浸潤抑制を図り、がん細胞の悪性の性質を良化できる可能性があるとする。

電解還元水に関する研究は生体が持つ自己治癒力及び自己免疫力を高め、がんと闘うというよりむしろがんの悪性の性質を緩和し、がんとの共存を可能にする新たながん治療法の確立に貢献することが期待されると、研究グループはコメントしている。