「学費を子どもに貸し付ける」を実践したら【3】

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■子供にもメリット「貸し金簿の奨学金化」

現在の子育て世代の老後以上に不透明なのが、その子供たちの未来です。まず、大学を出れば誰もが就職できるという時代は完全に終わってしまいました。この先、就職氷河期が延々と続くと考えて間違いありません。

しかも、正規雇用者の数が激減して、契約社員や派遣社員といった非正規雇用者の数が急増しています。つまり、現在の子供たちは、安定した職業に就くことが非常に難しい未来を生きることになるのです。年金制度だってどうなっているかわかりません。

私が貸し金簿をお勧めする第二の理由は、ここにあります。貸し金簿は、決して親にとってだけメリットがあるわけではない。子供にメリットのある使い方もできるのです。

先ほどお話ししたように、今の子育て世代の親たちは、老後資金を貯めにくい状況にあります。そこで、子供に奨学金の取得を勧める親が大変増えていることは、ご存じの通りです。

子供が大学に進学したいと言っているのに、学費を払えないからといって進学をあきらめさせるのは可哀想だ。だったら奨学金で大学に通わせればいい……。

こうした考え方が間違っているとは言いません。しかし、安易に奨学金を取得させることは、子供の人生を大きく狂わせてしまう危険性があることは、頭に入れておく必要があります。

現在、日本学生支援機構で第二種の奨学金(利息がつくタイプ)を借りると、大学卒業の時点で返済の金利が決定されます。奨学金の金利は年に0.5〜1%と大変に低いのですが、仮に月額10万円の奨学金を4年間、1%の金利で借りたとすると、返済総額は約530万円になります。これを20年間で返済すると、毎月の返済額は約2万2千円になります。

22歳で大学を卒業した場合、奨学金を返還し終わるのは、42歳。20代後半から30代にかけては、一般的に住宅ローンを組み始める年齢です。月々2万円強の返済が住宅ローンに上乗せされるのは、大変に厳しいことです。奨学金の返済があるばかりに、希望の住宅ローンを組めない、住宅を取得できないという事態にならないとも限りません。夫婦がともに奨学金を取得していたら、毎月の返済額は4万円以上。給与の水準にもよりますが、住宅ローンだけでなく、子供を産むことすら躊躇する事態になりかねません。

そこで、貸し金簿の利用を検討していただきたいのです。いわば、「貸し金簿の奨学金化」です。

親が、老後資金の貯蓄を犠牲にして子供の学費と学生時代の生活費を捻出する代わりに、その金額をきちんと記録しておくのです。そして、子供が返せる状況になったら返してもらう。金利は子供の経済状況に応じて、取ったり取らなかったりでいいでしょう。いわば、余裕のあるほうがないほうを助けるといった「家族内互助」の考え方です。

ただし、貸し金簿を奨学金化する際には、子供の気持ちに十分配慮する必要があるでしょう。

子供が、ある大学にどうしても行きたいという強い希望を持っている場合は、貸し金簿を奨学金化しても問題はないと思います。貸し金簿の存在が、むしろ勉強の励みになるかもしれません。

反対に、親の方が大学に行ってほしいという希望を強く持っている場合には、話し合いが必要になるかもしれません。「学費を貸すのだから、将来返してね」と言ったら、「学費を返すぐらいなら大学なんて行かない」という反応をされる可能性もあるからです。