歴代日本人王者でもトップクラスのハードパンチャー、内山。32歳になってなお進化を続けるその拳が狙うのは

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 WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志、32歳。日本が世界に誇る“本物”のボクサーである。大みそかの夜にテレビ中継された4度目の防衛戦で見せた衝撃的なKO劇。日本人世界王者歴代1位、83.3%のKO率を誇る男が目指す高みとは。

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■世界のトップとはまだまだ差がある

――圧巻のKO防衛、おめでとうございます。

「ありがとうございます。試合が大みそかの遅い時間だったんで、負けたら年を越せないぞと(笑)。絶対、勝つつもりでした」

――11R、KO打となった左フックは、鮮やかすぎて何が起こったかわかりませんでした。

「あれは本当にベストパンチでした。ずっと練習していたパンチです。スパーリングでも、だいたいあれで倒れてるんで、ヘッドギアなし、試合用の軽いグローブなら絶対倒れるだろと。練習でやったことがそのまま出ましたね」

――練習は裏切らなかったと。

「はい。ただ、今回は勝ちましたけど、まだまだです。自分のボクシングのレベルが世界のトップクラスにどのくらい通用するのかがわかったくらいで」

――世界の本当のトップとは、まだ差がある?

「まだまだありますね。階級は全然違いますけど、(マニー・)パッキャオ(史上2人目の6階級王者)とか、世界には強いヤツがゴロゴロいますから」

――その距離はどのくらい?

「届かなくはないです。いずれ、最強になりたいって気持ちがありますから」

――でも、世界との距離を実感したとはいえ、さぞや晴れやかな元旦を迎えたんじゃ?

「ジョナサンでコーヒーを飲みましたね(笑)。試合に勝った翌朝の恒例なんです。その時間が一番幸せを感じますね。『俺は世界で一番幸せなんじゃないか』って思えるひと時です」

――勝つと負けるとでは大違いですからね。

「不適切なたとえかもしれないですけど、試合は戦争に行くようなものだと思うんです。生きて帰ってこれるか、死んで帰ってくるか。負けたら終わりじゃないですけど、チャンピオンから陥落(かんらく)するってことは、それほど重いことだと僕は思うんで。絶対勝ってやるって、何日も何ヵ月も思いつめて試合に臨む。やっと試合が終わり、勝って帰ってくる。翌朝、ホッとひと息ついてコーヒーを飲む。あんなうまい飲み物はほかにないです」

■一度でいいから生観戦してほしい

――では、今年の目標は?

「今年も変わらず努力して、一日一日必ず強くなる。ボクシングだけにはウソをつけないというか。ボクシングの神様がいるというか。サボって強くなろうなんて思ったことないですし、マジメにやって強くなりたい。やれるだけやって突き進んでいく。もしかしたら、その途中で負けることもあるかもしれないけど、それはもうやれるだけやって負けてるわけですから、しょうがない。負けたときにどうするか考えればいい」

――試合をしてみたい相手はいますか?

「強いヤツとなら、誰とでも、どこででもやります」

――それが、パッキャオでも?

「やってくれるならやりたいです(笑)」

――怖くないですか?

「怖くないですよ。強いヤツに『やろう』って言われるのはボクサーの勲章ですから。もちろん、パッキャオが相手なら倒されるかもしれないとは思いますけど。ただ、やってみたいですよね。だって、勝っちゃったら大変じゃないですか(笑)。怖さよりもワクワクしますね。ひょっとして勝っちゃったらどうしようって」

――なるほど。では、大みそかの試合の視聴率は4.2%でしたが、偉業と世間の評価のギャップのようなものは感じませんか?

「それはしょうがないんじゃないですか。(2009年11月の)亀田(興毅)vs内藤(大助)戦が40%超えでしたっけ!? すごいですよね。ほぼ、ふたりにひとりは見てるわけですから。でも、視聴率についてはあまり考えないですね。後からついてくるんじゃないかって。まあ、年に2回か3回しか試合をしないわけで、なかなか難しいのかもしれないですね。タレントになって、テレビのバラエティ番組に出なければ知名度は上がりにくいですし。いろんな格闘技も増えて、ボクシングだから熱狂する時代じゃないですから。もちろん、それを言い訳にしちゃいけないんですけど」