福岡県議会棟(J6HQL/PIXTA)

写真拡大

福岡県議会の金銭授受疑惑が、政界に大きな衝撃を与えている。発端は、吉松源昭県議(元県議会議長)が、2020年に議長に就任する際、当時所属していた自民党県議団の幹部から約2000万円を要求され、1800万円以上を支払ったと告発したことだ。

吉松氏はこの金銭要求を「カツアゲ」「みかじめ料的な要求」と表現し、波紋が広がった。その後、複数の正副議長経験者からも同様の証言が相次ぎ、議長ポストをめぐる金銭授受が慣例化していた疑いが浮上。名指しされた中尾正幸副議長(当時)は金銭授受を否定しつつも「県政の混乱を招いた」として議員辞職する事態に至った。

議会の要職である議長・副議長ポストをめぐる金銭のやり取りには、どのような法的な問題があるのか。東京都国分寺市議会議員を3期10年務めた経歴があり、地方議会の実情や「政治とカネ」の問題に詳しい三葛敦志弁護士に話を聞いた。

金銭授受に「贈収賄」と「政治資金規正法違反」の可能性

まず、今回の金銭授受疑惑が事実であった場合、刑法上の賄賂(わいろ)罪に問われる可能性がある。三葛弁護士は、ポストをめぐる利益供与の構図に重大な問題があると指摘する。

三葛弁護士:「県議会議員は公務員なので、ポストへの見返りとして議員に利益供与としての金銭を渡したことが明らかになれば、賄賂罪が成立する可能性があります。

収賄罪(刑法197条、5年以下の拘禁刑)は、公務員がその職務に関し金銭を受け取った場合に成立します。金銭を渡した側には贈賄罪(同法198条、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金)が成立します。

今回のケースでは、議長を選出するという職務に関連して金銭が動いたという事実が認定されれば、渡した側も受け取った側も刑事責任を負う可能性があります」

さらに、政治資金規正法に抵触する可能性も否定できない。同法は、政治家個人に対する政治活動に関する寄附を原則として禁止しており(21条の2第1項、22条の2)、これに違反すると1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される(同法26条1号、3号)。政治家間で現金を直接手渡す行為は、この規定に違反する疑いが濃厚である。仮に寄附にあたらないと解釈されたとしても、政治活動に関する金銭のやり取りであれば、政治資金収支報告書への記載が前提となる。

三葛弁護士:「政治家政治家に対し金銭を支払うことは、社交儀礼に伴うごく低額のものを除き、基本的に政治活動に伴う収支だと考えることとなるので、収支報告書へ計上する必要があるはずです。こうしたお金はまず収支報告書に記載されていないでしょう。

収支報告書への不記載は犯罪であり(政治資金規正法25条1項2号、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)、関係者は説明責任を果たす必要があります」

なお、賄賂罪と政治資金規正法違反の罪が両方成立し、有期拘禁刑に処される場合、刑期の上限は、最も重い罪の法定刑の1.5倍、つまり7年6月となる(刑法45条、46条参照)。

真相究明の鍵は「第三者委員会」 百条委員会では不十分か

疑惑の解明に向けて、福岡県議会では自民党県議団の若手議員らが第三者委員会の設置を求めるなど、内部からも動きが出ている。真相究明の方法として、地方議会には強い調査権限を持つ、地方自治法100条に基づく「百条委員会」という選択肢もあるが、三葛弁護士は、今回のケースでは限界があるとみている。

三葛弁護士:「百条委員会は、今回の問題に限っていえば、十分に機能しない可能性が懸念されます。なぜなら、自民党に次ぐ第2会派『民主県政県議団』に所属していた元副議長も現金提供を認めているとの情報もあり、問題が複数の会派に波及する可能性が考えられるからです。

多くの議会関係者が当事者となりうる状況では、自浄努力が期待される一方、百条委員会が徹底した究明を躊躇する懸念は拭えません。仮に徹底的な真相究明をしたとしても、関係者が多く在籍している以上、『手ぬるかったのではないか』との疑問は残ってしまいます。

また、来春には統一地方選挙を控えており、福岡県議会議員選挙も予定されています。調査が時間切れでうやむやになるリスクもあります」

こうした状況を踏まえ、三葛弁護士は、外部の専門家による調査が不可欠だと強調する。

三葛弁護士:「事実関係を明らかにするには、第三者委員会を設置し、その第三者委員会が真相究明をするのが急務だといえます。

弁護士からなる第三者委員会の場合、日弁連のガイドラインによると、利害関係を有しない公正・中立な委員によって構成され、設置者からの不当な介入を排し、独立して調査を行うことが求められています。

真相を明らかにし、県民の信頼を回復するためには、こうした客観性と透明性が担保された調査が本筋といえます」

カネを払ってまでポストを買う意義は?

そもそも、なぜ多額の現金を払ってまで議長ポストを目指すのか。地方自治法上、地方議会の議長の任期は4年だが、大多数の自治体では1年ないし2年で交代するという、いわば人事ローテーションが慣例になっているようである。

三葛弁護士はその理由について、このような人事ローテーションは各議員にとって人事を固定化せず様々な経験を積む機会であること、議長職は議員にとって大きな「名誉」であり、多くの議員に経験させる狙いがあることも背景にあると分析する。 

ただし、議長は名誉を伴う職である反面、一般的には得られるメリットはそれほど大きくないという。

三葛弁護士:「議長は議事運営において中立性が求められるため、自身の選挙区の利益を代弁するような活動がしにくくなる面もあります。

真面目に議長の職責を全うしようとすればするほど、様々な公務に対応する必要があるため、有権者からは『地元になかなか来てくれない、地元のことを何もしてくれない』と見られ、次の選挙で票を失うことにもなりかねません」

ではなぜ、福岡県議会では、多額の現金を支払ってまで議長・副議長に就任しようとする動機があったと考えられるのか。

この点については、ポストを得るために支払った資金を、別の形で回収される仕組みが存在していた可能性が浮かび上がる。吉松議員自身、議長就任時に開いたパーティーで2000万~3000万円の収益があったと認めている。また、県政関係者からは「議長は1000万円、副議長は500万円を就任時に払い、その後の政治資金パーティーで回収すれば、トントンになる」という証言が出ていると報じられている。

一方、本件に関連して、県職員の互助団体が組織的に県議のパーティー券を購入していたとの報道がなされており、そのしくみが「資金回収」を下支えしていた構造も垣間見える。

三葛弁護士:「この件については、福岡県ならではの特殊事情が介在している可能性が考えられます。しかし、決して、福岡県議会のみの特殊な事例とは断定できず、他の地方議会が無関係とまではいいきれません。

もし、地方議会を運営する中心的な立場にある議長の地位がカネで買われていたとなれば、地方議会のあり方の根本に関わる大問題なので、早急に問題を洗い出していく必要があります。だからこそ全国の多くの議会も本件に大きな関心を寄せています。

まず第三者委員会等による徹底的な真相究明を行い、情報公開や説明責任を果たしながら、刑事責任の追及も視野に入れつつ、是正すべきところは直ちに是正し、住民、ひいては国民の信頼を取り戻すことが強く求められています」