黒木華が今だから分かった、母が二度と再現できなかった「明太子パスタ」の理由
映画やドラマ、舞台など数多くの作品に出演し、役ごとにまったく異なる表情を見せる俳優・黒木華さん。このたび、初の著書となる料理エッセイ&レシピ集『はるの献立日記』(飛鳥新社)を刊行しました。
出版を記念して行っているインタビューの第1回では、前後編にわたり、プライベートをほとんど見せない彼女がなぜ「食」をテーマにした一冊を書こうと思ったのか、また食べることや料理をすることが日々の暮らしの中で、どんな意味を持っているのかについて、たっぷりと話を伺いました。
第2回では、料理好きになった原点とも言える「母」と黒木さんの関係をお伝えします。料理だけでなく、生き方や考え方にも大きな影響を受けてきたという彼女。前編では料理をするようになった今だからこそ気づいた「母の味」について話を聞きました。
思い出の母の味
黒木さんが本格的に料理を始めたのは、上京して一人暮らしをするようになってから。しかし幼いころから料理上手な母の「ごはん」で育ったことで、「食」の大切さは自然と身についていたといいます。その思いは、本書にも丁寧に綴られていました。
※以下、『はるの献立日記』(飛鳥新社)より抜粋私に料理のいろはを教えてくれたのは母です。私の中での母の記憶は、いつもキッチンに立って、ずっと料理を作っている姿です。私と弟、よく食べる子どもが2人いて、しかもお酒を飲む家だったので、本当に次から次へと料理が出てきます。メインのおかずも肉だけ、魚だけ、ではなくて肉も魚も両方出てくることが普通でした。学校に行かない土日は、母が「ティータイムよ!」といって、紅茶やコーヒーを淹れてくれました。母が作ってくれたケーキやプリンをほおばりながら、家族で色々な話をすることが何よりの休日の楽しみでした。料理もお菓子も、母の手料理はどれもとてもおいしくて、温かな味がします。だから私が食べることや料理が好きなのは、母のおかげなのだと思います。そうやって育ててくれたことに、料理好きにしてくれたことに、大人になったいま感謝しています。お陰様で、しっかりと食いしん坊に育ちましたが。母は、きっと、今日も変わらず実家のキッチンに立っています。※以上、『はるの献立日記』(飛鳥新社)より抜粋
母の料理はどれも美味しく、温かな味がすると語る黒木さん。忘れられない“母の味”のエピソードを話してくれました。
二度と食べられなかった「明太子パスタ」
「母はなんでも作ります。私は小さなころからすごいな、と思っていました。麻婆豆腐もカレイの煮付けもおいしかったですし、餃子は家族みんなで母の作った餡を包んで食べるのが恒例行事。飲みながらおしゃべりしながら作る時間は、家族との楽しいコミュニケーションの場になっていました。今では私も友人を家に招いたときに、餃子パーティをすることがあります」(以下、黒木華さん)
どんな料理も美味しかったという黒木さんですが、たった一度、「あれ?」と思ったことがあったそうです。
「ある日、母が作った明太子パスタが、びっくりするくらいおいしかったことがあったんです。『また作って!』とお願いして、後日作ってもらったのですが、味がまったく違ったんです。
失敗というわけではないのですが、前回のおいしさとは明らかに違いました。そんなことは、これまで一度もなかったので、印象に残っています。
あとになって『どうして作れなかったの?』と聞いてみたら『そんなこと、毎日のことだからいちいち考えてないよ』と」
当時は、その理由が分からなかったという黒木さん。しかし、自分で料理をするようになって、初めてその理由に気づいたと言います。
「毎日作っていると、いちいち分量を量らなくなるんですよね。きっと母は、自分の舌で味をみながら作っていたのだと思います。
これは料理をする立場になって初めて気がつきました。だから味は変わって当然なんですよね。母の言っていることに納得しました。
私の場合、それで失敗することもあるのですが……。リカバリーできるなら直しますが、できなければ『ああしまった、まあいいか』と思ってそのまま食べています(笑)」
母の影響
料理をしていると、ふと母と自分が重なることもあると黒木さんは話します。
「ひとりのとき、仕事で忙しいときは難しいこともありますが、汁物とご飯、それから魚か肉、野菜も添えることが当たり前だと思っているところがあります。
品数や栄養のバランスを意識することは、母の料理から自然と教わったことだなと感じますね。
それから味も、きっと母に似ています。だしを生かした薄味で、ほっとするような味が好きなんです。これは舌が実家の味を覚えていて、自然とその味に近づけているのでしょうね」
続く後編「プライベートを多く語らない黒木華が明かした『上京当時、悩んでいた私を救った母の言葉』」では、料理だけでなく生き方にも大きな影響を受けたという母とのエピソードや、「いつか母に振る舞いたい」と思っている一品を、レシピとともに紹介します。
【黒木華(くろき・はる)】
1990年3月14日、大阪府生まれ。俳優。2010年NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』でデビュー。以降、数多くの舞台、映画、テレビドラマで活躍。2015年、映画『小さいおうち』でベルリン国際映画祭・最優秀女優賞(銀熊賞)、日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞を受賞。2016年、映画『母と暮せば』、2021年、映画『浅田家!』で日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞をそれぞれ受賞。
『下妻物語』『告白』を手がけてきた中島哲也監督が、打海文三の傑作ミステリー小説を映画化した『時には懺悔を』で、過去を抱えながら生きる主婦・尋津民恵役を演じる。※2026年8月28日(金)全国公開予定。
インタビュー時着用衣装:シャツ\26400/Yarmo(グラストンベリーショールームTel.03-6231-0213) シューズ\39600/ヨシトデオランジェ(ニューロンドンTel.03-5603-6933) 他、スタイリスト私物
ヘア&メイク/新井克英
スタイリング/田畑アリサ
取材・文/笹本絵里(FRaUweb)

