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国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和6年分において亡くなった人(被相続人)のうち、相続税の申告対象となった割合は10.4%にのぼり、基礎控除が引き下げられた平成27年以降で最高を記録しました。約10人に1人が課税対象となるいま、「相続トラブル」は決して他人事ではありません。90歳祖父と34歳孫の事例を通して、相続をめぐる“思い込み”の危険性をみていきます。

相続税の支払いが大変かも…〈3億円の資産家〉と噂された90歳祖父の死

「じいちゃんの遺産、すべて合わせたら3億円は下らないだろうな……」

都内に住む会社員のサトシさん(仮名・34歳)は、祖父のマサオさん(仮名・享年90歳)が亡くなったと連絡を受け、漠然とそんな想像を巡らせました。

父親は数年前に他界していることから、孫のサトシさんはマサオさんの代襲相続人になりました。サトシさんは大人になってから、祖父のもとを訪ねたことはほとんどありませんでした。ただ、幼少期の記憶から、マサオさんが地元でも有名な経営者として、立派な屋敷に住んでいたことは知っています。

一代で会社を築いたマサオさんは、親戚の集まりでも羽振りがよく、「あそこの家はかなりの資産がある」と噂になっていました。具体的な金額まで確認したことはありませんでしたが、親族は「預貯金と株だけで数億円」と勝手に皮算用していたほどです。

サトシさん自身も「相続税の支払いが大変になるかもしれない」と、不安と期待が入り混じった気持ちで遺品整理に向かいました。

相続財産の3割強は「不動産」…残高〈1,000万円未満〉の通帳に絶句した34歳孫

ところが、本格的に財産の整理を始めたサトシさんは、意外な事実に直面します。

実家の金庫から見つかった複数の通帳を記帳してみると、普通預金の残高は合計1,000万円に満たないのです。定期預金もすでに解約されており、頼みの綱だった有価証券も数年前に大半が売却されていました。残っている目ぼしい財産は、誰も住まない実家の土地と建物だけです。

「ちょっと待て、たったこれだけ?」

サトシさんは通帳を見つめたまましばらく絶句。しかし、騙されて財産を失った形跡もありません。「いったいあの莫大な資産はどこに消えてしまったんだ」と、ただただ混乱するばかりでした。

国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、日本の相続財産の構成比は下記のとおりです。

・現金・預貯金等:34.9%

・土地:30.2%

・有価証券:17.8%

・その他:12.3%

・家屋:4.8%

「現金・預貯金等」が全体の3割強にとどまる一方、土地と家屋を合わせた「不動産(35.0%)」が同等の割合を占めていることがわかります。つまり遺産の多くは、すぐに分けられる現金ではないのです。マサオさんの場合も、有価証券の大半が売却され、現金もわずかしか残っていませんでした。

最期まで自分の力で生きた「祖父の覚悟」

実家に残されていた医療費の領収書や、介護施設の利用明細を一つひとつ整理するうちに、事情が明らかになってきました。80代に入って足腰が弱ったマサオさんは、手厚いリハビリと24時間の看護体制が整った民間の有料老人ホームに数年間入居していたようです。

老人ホームに入居すると、高額な入居一時金に加え、月々の利用料、医療費、介護タクシー代などが継続的にかかります。実際に、生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」によれば、要介護状態となった場合に必要と考える公的介護保険の範囲外の資金は、総額で平均3,298万円に達することがわかっています。

マサオさんはこうした費用を捻出するために、少しずつ株を売却し、貯蓄を取り崩していたのでした。サトシさんや親族が勝手に膨らませていた「3億円の資産家」というイメージは、マサオさんが現役だったころの古い記憶が作り出した、ただの思い込みに過ぎませんでした。

90年という長い人生のなかで、孫であるサトシさんたちに金銭的・肉体的な介護の負担をかけないよう、自分自身の資産を使って、最期まで自分の面倒を見たマサオさん。祖父の思いを知ったサトシさんは、胸の内でそっと感謝し、淡々と手続きを進めました。

[参考資料]

・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」

・生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」