26年5月24日放送のNHKスペシャル「潤日の肖像」より

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 NHKの“幻のケッサク”というべきか。5月に放送されたNHKスペシャル「潤日の肖像」は、母国を飛び出し日本に移住した“潤日(ルンリー)”と呼ばれる中国人を特集したもの。ところが放送後ほどなく、メインの出演者が逮捕される事態に。何が起こっているのやら……。

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【実際の写真】自慢げにロールス・ロイスを見せびらかす「中国の富裕の執事」

〈これは間違いなく、2026年のNHKの最高視聴率番組になるでしょう。子どもの頃からNHKスペシャルの大ファンだったので、今は興奮で……〉

 5月24日に放送されたNHKスペシャル「潤日の肖像」。放送の前日、自身のSNSでこのように語った男こそ、6月17日、入管難民法違反の疑いで妻ともども警視庁に逮捕された藍沢鵬程容疑者(39)である。

26年5月24日放送のNHKスペシャル「潤日の肖像」より

「逮捕容疑は、3年前、中国から女性ベビーシッターを入国させるために、女性の学歴や就業先を偽って在留資格を申請し、入国させたというもの。昨年から今年にかけて複数の情報提供があったのを契機に、警視庁で捜査が進められていました」(社会部デスク)

 日本で暮らす富裕な中国人を大特集した番組の放送から、ひと月もたたないうちの逮捕。藍沢容疑者を“狂言回し”のような役割でメインに据えたNHKは、そそくさと同番組のネット配信をストップさせた。

1億円近くするロールス・ロイス ファントムを見せびらかし……

 番組では開始早々〈富裕層の生活を支援するファミリーオフィス事業〉を営む日本国籍取得者として紹介された藍沢容疑者。中国人が日本で生活するにあたって、ありとあらゆる身の回りの世話をするらしい。具体的に何をしているのか。

「顧客の家探しから“住民票”や“印鑑登録”の説明、上場企業買収の手伝い、不動産業者の紹介、さらにゴミの捨て方指南まで。まさに“何でも屋”としてあらゆることをサポートしている様子が紹介されていました」(前出の社会部デスク)

 本人の述べるところによれば、現在顧客は50人。いずれも〈中国の社会のピラミッドの頂点〉で、〈皆さん10億円以上の資産を持って〉おり、〈100億円、1000億円、持っている方も〉いるという。

 一体この人物、何者なのだろうか。

「父の仕事の都合で幼少期から日本にいるという彼が有名になり出したのは、2年前。あらゆるSNSを駆使して、“中国の富豪の執事”として自分を売り込み始めたのです」

 そう語るのは、容疑者を知る中国人男性である。

「それまで彼は、日本の有名大学を出て、お酒のメーカーの営業職に就いていたと言っていた。ただ、彼は口が達者過ぎて信用できないんです。“首相官邸に出入りしている”なんてことも言っていました。普通は信じられませんよね」(同)

 自分を富裕層の相手にふさわしい者としてアピールするのに必死だったとか。

「番組で、8000万から1億円はするというロールス・ロイス ファントムなど、顧客用のクルマを見せびらかしていましたよね。同じようにSNSでは、4台のアルファードを得意げに自慢する動画もありました。4人の日本人運転手を使っている、だから安心のサービスですよ、と。この動画は少しバズりました」(同)

 動画はほかにも、

「金持ちが買ったマンションの電灯が壊れた際、社長自らが修理に赴く様子を紹介しています。“これくらい親身にサービスしますよ”という宣伝でしょう」(同)

「藍沢氏を出演させたのは軽率」

 別の中国人男性は、こうも言う。

「彼の口癖は“自分にできないことはない”。だから、顧客に頼まれればグレーなことでもやる奴だと見られていました。真面目にやっている同業者にしてみれば、SNSで悪目立ちする上にルールも守らないのですから、迷惑この上ない。逮捕されて“ざまあみろ”と言っている人もいた。暗号資産ビジネスに関わっていたこともあるようで、とにかくいかがわしい男です」

 そして今回、グレーどころかブラックな一件が露呈したというわけだ。とてもではないが、“天下のNHK”がまともに取り上げていい男ではなかったのである。

 中国に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏は、

「ベビーシッターが逮捕されたのは今年4月のことで、少なくとも藍沢夫妻は自分たちが手配したベビーシッターが逮捕されたことは知っていたはずです。NHKがしっかり身体検査をすれば、後ろ暗いことが何もない人物ではないと分かったと思います。藍沢氏を出演させたのは軽率だったと言わざるを得ません」

 NHKに見解を問うと、

「ご指摘の取材対象者のみならず周辺関係者からも多角的に取材して番組を制作しました。犯罪が疑われるような情報には接していませんでした。放送後この人物が逮捕されたことは遺憾ですが、取材方法に問題があったとは考えておりません。取材対象者が逮捕されたことを踏まえ、総合的に判断して、NHKオンデマンドの配信を停止しました」

 問題がないのであれば、配信停止などしなくてもいいはずだが……。いずれにせよ、取材方法はともかく、取材力には問題があったようである。

「数万円でビザ取得のサポートをすることも」

 ところで、藍沢容疑者が手を染めたのは在留資格申請での虚偽記載である。顧客の頼みに応じたのだと思われるが、番組ではビザ取得のサポートをしているとは話していなかった。このサービス、顧客からどれほどの報酬を得られるものなのか。

「中国から日本へ移住するに際して、必要なビザの取得などをサポートする民間サービスが中国にあります。およそ100万〜200万円が相場ですが、これはあくまでクリーンな案件の話。今回のように一線を越える場合は、もっと高くなると考えられる」(国際部デスク)

 中国事情に詳しいジャーナリストで、千葉大学客員教授の高口康太氏によれば、

「藍沢さんと似たような仕事をしている人はゴロゴロいます。2010年代の半ばぐらいから増えました。要は、日本に来たけど、日本人相手にうまく商売ができなかった人たちですね。結局、中国人相手に白タクの運転手をしたり、ビザの取得を手伝ったり、病院のガイドをしたりするようになる。そういう人たちの場合は、食うに困っての仕事なので、数万円でビザ取得のサポートをすることもあります。藍沢さんのように富裕層だけを相手にしているのはごく一部でしょう」

申請内容とは異なる仕事に

 今回は、ベビーシッターを専門職向けの〈技術・人文知識・国際業務〉、いわゆる〈技・人・国〉の在留資格で申請したことが問題になっている。

 大阪で中国などアジア圏から来日する外国人の就労支援を行う、行政書士の古田誠司氏が解説する。

「基本的には、家事使用人やベビーシッターの就労で下りるビザはありません。高度専門職のビザで在留資格を得た人であれば、原則1人だけ家事使用人を呼べる制度があるのですが、収入などの要件があり、いずれにしろ簡単に呼べる仕組みではないのです」

 そこで〈技・人・国〉ビザの出番である。

「〈技・人・国〉で申請しておいて、実際には申請内容とは全く異なる仕事に就くことはよくあります。例えば工場労働や飲食店、そしてリサイクル業者が多いですね。盗品の銅線を買い取って海外に輸出する、“ヤード”を拠点としたビジネスを手がける人たちや、解体工、鉄くず業者にも〈技・人・国〉で訪日しているパターンが一定数ある。クラブやマッサージ店で働いている外国人も同様です」(同)

 ほかに15年からスタートした〈経営・管理〉ビザで来日する手もある。昨年10月に厳格化したが、近年のこのビザによる在留外国人の数はおよそ4万人。そのうち約半数が中国人だという。

「以前は、500万円の資本金を持っていることが条件でしたが、それくらいなら出せる中国人が徐々に増えてきました。中には、例えば貿易業を営んでいるといっても、商社のようなものではなく、デパートやドラッグストアで買った商品を中国の客に送る、という仕事もあります」(同)

 そして、怪しげな仲介業者についても警鐘を鳴らす。

「“お客さん紹介するから紹介料をくれ”“いくらで経営・管理ビザを取れるのか”と、私に近づいてくる中国人はたくさんいる。私の名前をかたった中国人から、数百万円をだまし取られた中国人もいました」(同)

ボロボロの二段ベッドに何人も……

 悪徳ブローカーによるあっせんの実態はいかなるものか。

「月に20万円以上もらえるはずが、実際には10万円しかもらえず、ボロボロのアパートの二段ベッドに何人も押し込められる。このように、聞いていた話とまったく違うということも少なくない。耐え切れずに逃げ出す人も後を絶ちません。逃げ出した人は何をしているのか。私が聞いたのは、田舎で畜産関連業に就いているというものでした。機械化ができず、田舎だから入管関係者も来にくく、日本語ができなくてもこなせる仕事だったのでしょう」(古田氏)

 古田氏によると、藍沢容疑者の件は、ビザにまつわる不正の“氷山の一角”。この一端が明らかになったことが、せめてものけがの功名か。

「週刊新潮」2026年7月2日号 掲載