「桑田真澄と清原和博」に沸いた1985年ドラフト…その裏でスカウトがこぞって絶賛していた「即戦力投手」の名前
プロ野球史上最大のミステリー「KKドラフト」から41年、いま初めて明らかになる物語――。あのとき、球界に渦巻く虚々実々に翻弄されたのは桑田真澄と清原和博だけではなかった。脚光を浴びた2人の周縁で、誰が動き、誰の運命が書き換えられたのか。本当の主役は誰だったのか。
連載『1985 英雄たちのドラフト』
第13回「もう決まったね」(前編)
「即戦力」評価の本田技研のエース
「球春到来」の常套句に偽りなく、3月の声を聞くとプロ野球のオープン戦、春のセンバツといったように、プロ・アマ問わず野球の大会が各地で行われる。
社会人野球のシーズン開幕を告げるJABA東京スポニチ大会もその一つである。夏の都市対抗野球ほどの知名度はないが、80年もの歴史があり、プロのスカウトは「スポニチ大会」でその年の社会人の有力選手を品定めすると言われる。
1985年当時の名称は「全国社会人野球東京スポニチ大会」で、後楽園球場、明治神宮球場、西武ライオンズ球場、西武ライオンズ第2球場の4カ所で開催されていた。大会2日目の3月12日、神宮球場で本田技研対神戸製鋼の1回戦が行われた。
本田技研のエースは伊東昭光。帝京高校在校中は、80年の春のセンバツで準優勝。本田技研入社後の84年、当時は公開競技だったロス五輪の野球日本代表に選ばれ金メダルを獲得する。当然、その年のドラフトの目玉となるが「都市対抗で優勝するまでは」とプロ入りを固辞し1985年を迎えていた。
この日、先発のマウンドに立った伊東は初回に1点を失うもその後は立ち直り、6安打に抑えて5対1の完投勝利。本田技研は2回戦進出を決めた。試合後、報道陣に囲まれた伊東はさらりとこう言ってのけた。
「アマチュアの置き土産が大きければ大きいほどいい。スポニチ大会で優勝して、都市対抗でも優勝したい。去年プロに行かずに残ったわけだから、無様なピッチングは出来ませんね」
当然、プロのスカウトの評価は高い。
「もともと、去年の竹田(光訓)より実力があると見ていたから何も驚くことはない」と広島東洋カープのスカウトの渡辺秀武が冷静に分析をすれば、西武ライオンズスカウトの毒島章一は「ボールの伸びが他の投手とレベルが違う。胸元で『グーッ』と伸びる。打者の読みもいいし、何しろ野球センスが抜群」とA評価を下した。つまり「即戦力」ということだ。
「先発投手の不足」という最重要課題が解消されないまま、開幕を目前に控えた巨人の場合はさらに如実で「伊東は中継ぎならすぐいける」というスカウトの城之内邦雄のコメントから「今すぐにでも欲しい」という切迫した状況がストレートに伝わる。
清原、堂々の優勝宣言
準々決勝に進んだ本田技研の2回戦は15日、後楽園球場で行われた。「入団するなら在京セ」という伊東にとって、前回の神宮と並んで意中の球団の本拠地とあれば嫌でも意識したに違いない。
ここでも先発のマウンドに立った伊東だったが、前回と異なり制球に難があり球も走らず、4回に3安打4失点という乱調である。打線が爆発した本田技研は13対4で7回コールド勝ちを収めたが「実は投げにくかったんです。右足の着地がしっくり来ませんでした」と伊東自身は後楽園球場のマウンドを理由に挙げた。「神宮では好投、後楽園では不調」という結果は、伊東本人はもちろん、スタンドで見守った巨人スカウトの目にどう映ったのだろう。
その後、準々決勝に進んだ本田技研は翌日、西武第2球場で行われた新日鉄八幡戦において、1点リードの7回に伊東を投入、どうにか逃げ切り、伊東はリリーフでも通用するところを見せたが、翌日の日本鋼管相手の準決勝は9対2で敗れ、優勝はならなかった。
ともあれ、PL学園の桑田真澄と清原和博にのみ注目が集まるこの年のドラフト会議において、本田技研の伊東昭光は、プロの関係者に即戦力投手としての存在感を存分にアピールしたと言っていい。
「スポニチ大会」の決勝戦が行われた3月18日、阪神甲子園球場では、春のセンバツの甲子園練習に優勝候補のPL学園が現れた。 取材規制が敷かれて3カ月、ようやくの取材解禁とあって大勢の報道陣が集まった。
「昨日はバットを抱いて寝たんですよ」とあどけない表情で顔見知りの記者に明かした清原は、フリーバッティングでいきなり125mのバックスクリーンに叩き込んだ。その後も右に左に打ち分け好調さをアピール。ケージから出た清原は、驚きを隠せない報道陣に自信満々にこう述べている。
「去年は自分がここ一番で打てずに優勝を逃してしまった。絶対に今年は打ちます。打って桑田を助けます。打って優勝します。見ていて下さい」
堂々の優勝宣言に、報道陣から大きな溜息が漏れた。
【後編を読む】王貞治が本当は切望していた「PL学園・清原和博」…その「圧倒的な才能」はどこにあったのか

