家賃も払い続け、冷凍庫で隠ぺいを続けた容疑者(Gomolach / PIXTA)※写真はイメージ

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「ひどいことをしたので言い分はありません」――兵庫・神戸市のマンションで6月20日、冷凍庫から切断された男性の遺体が発見された。逮捕されたのは元妻の望月亜紀容疑者(50)。死亡から十数年にわたって遺体を隠蔽し続けながら、その間に「離婚」まで成立させていたとされる。

死者との離婚は、法的にありうるのか。そしてなぜ、役所はそれを見抜けなかったのか。離婚問題に詳しい安達里美弁護士の解説からその不可解な行動心理を考察する。

2012年から続いた隠蔽

警察の発表によれば、望月容疑者は2012年ごろ、元夫の西口豊さんが死亡した際、埋葬せずに遺体を袋詰めにして冷凍庫に入れ、遺棄した疑いが持たれている。

死体遺棄の疑いで逮捕された望月容疑者だが、それだけにとどまらない。西口さんの死亡を隠したまま離婚届を提出し、その後も遺体が発見された部屋の家賃を支払い続けていたという。

警察は「事件の発覚を遅らせる目的だった」とみている。望月容疑者は「殺害についてもほのめかす供述をしている」とも報じられており、死体損壊・遺棄罪(刑法190条)にとどまらず、殺人罪の適用も視野に入りつつある。

問題は、すでに死亡している人物との間で「離婚」が成立してしまったという、法的・手続き的な矛盾だ。

なぜ離婚届が通ってしまうのか…役所が「見抜けない」理由

本人が死亡していても、離婚届が受理されてしまうのはなぜか。

安達弁護士はその構造的な理由をこう説明する。

「離婚届は、双方そろっての届け出義務はないんです。だから、片方が持参したり、親などの代理人が提出するケースもあります」

つまり、窓口に現れるのが一方のみであっても、書類の形式が整っていれば役所はそれを受理してしまう。窓口担当者が戸籍の記載以外で相手方の生死を確認する仕組みは、通常は存在しない。

ただし、まったくの無防備というわけでもない。「離婚届が提出された場合、役所から『こういう届け出がされたけど問題ない?問題があったら連絡して』という通知が本人たちに届くので、勝手に出されればそこで気づくケースが多い」と安達弁護士は明かす。

しかし今回のように、当事者の一方がすでに死亡していれば、その通知を確認する者はいない。生きている場合であっても「郵便事故などで届かなかったり、住民票を異動させずに引っ越したりすることで、本人に伝わらないケースもある」とのことで、今回の事件はまさにその盲点をついた形といえる。

なぜ離婚?「法的メリット」はあるのか…

それにしてもなぜ、あえて死者と離婚したのか…。死亡を隠したまま偽造書類で離婚届を出すという行為は、公正証書原本不実記載・同供用罪(刑法157条・158条)に該当する、リスクの極めて高い選択だ。それでもなお「婚姻関係を絶つ」ことを選んだ背後には、どのような動機が潜んでいるのか。

安達弁護士は、法的・経済的な観点から次の二点を挙げる。

・独身であることを前提に生活保護が受けられる(夫の収入や稼働能力について役所から聴取されない)
・別の人と結婚できる

「法的な意味では考えられるのはこれくらいでしょうか」と安達弁護士は率直に語る。

望月容疑者は無職と報じられており、たとえば生活保護の受給資格を得るために婚姻関係の解消が必要だったという可能性は十分に考えられる。遺体が発見された部屋の家賃を支払い続けていたことを踏まえると、何らかの収入源があったとも考えられるが、その詳細はまだ明らかになっていない。

ただ、発覚の発端がなんらかの理由で電気代の支払いをやめ、それにより冷凍庫から異臭が漂い始めたと報じられており、金銭的な余裕はなく、貯えなどの生活費が尽きた可能性もある。

一方で、綿密な計算のもとに行われた犯行かどうかについては、安達弁護士は慎重な見方を示す。

「今回の件は計画的に……というよりも、行き当たりばったりな結果な気がします」

とにかくバレたくないの一心で、リスクは考えず、元夫との無関係を装おうと戸籍上の関係を消したかったのか…。

死者との”偽造離婚”法的に有効?

では、死後に偽造書類で成立させたこの「離婚」は、法律上どのような扱いになるのか。

安達弁護士の見解は明確だ。

「亡くなった人とは離婚できないので、離婚自体は無効です」

ただし、婚姻関係が「巻き戻る」かというと、話はそう単純ではない。離婚が無効でも「相手が死亡している以上、同居義務や扶養義務などはなくなる等で、大方の権利義務が死亡により消滅します」とのことだ。

相続については、民法891条1号の「相続欠格」の規定が関係してくる。同条項は、被相続人を故意に殺害した相続人は法律上当然に相続権を失うとしている。

ただし、安達弁護士によれば、1号の「故意」については「単に殺人等の故意があるだけでは足りず、殺害によって相続上の不当な利益を得る目的が必要」とする「二重の故意」説が有力だという。

法の世界では、残酷な事実があっても、それだけでは結論は出ない。手続きと証明の問題として、粛々と処理される。

「不受理申出制度」という自分の離婚届を守る手段も

今回の事件が示すもう一つの問題は、偽造や一方的な届け出によって離婚が「成立してしまう」リスクを、一般市民は十分に認識していないという点だ。

実は、これを防ぐための制度が存在する。「不受理申出制度」だ。安達弁護士も「一方的に離婚届が提出されるケースは意外と多くある。私も数件扱ったことがある。だから、それを防ぐために不受理申出制度がある」と指摘する。

法務省の資料によれば、この制度は「本人の意思に基づかない戸籍の届出が受理されることを防止するための制度」であり、離婚届のほか、婚姻届・養子縁組届・養子離縁届・認知届にも適用できる。

申出は本籍地または住所地の市区町村役場の窓口で行え、手数料は不要。申出人が取り下げない限り有効に存続する。

ただし、安達弁護士は現実的な壁も指摘する。

「円満と思っているときは出さないし、知らない人も多いですよね」

制度が存在しても、使われなければ意味をなさない。

事件があぶりだす社会の盲点

2012年ごろに始まったとされる隠蔽は、14年以上にわたって続いた。冷凍庫の中に遺体を封じ込めながら、家賃を払い続け、離婚届を提出し、無職としてひっそりと日々を送った。

望月容疑者がとったとされる行動を「計画的」と断じることは難しい。安達弁護士が「行き当たりばったり」と評したように、その行動には一貫した戦略よりも、その場しのぎの積み重ねが透けて見える。

だが、その「行き当たりばったり」を14年以上も可能にしてしまった構造――死亡の確認なしに離婚届が受理される仕組み、不受理申出制度の低い認知度、近所付き合いの希薄化――今回の事件が突きつけたのは、実はどこにでもある社会の盲点として受け止める必要があるのかもしれない。