【飯田 一史】NetflixでもSpotifyでもない…「生成AIへの課金」に利用者を取られはじめているサブスクサービスがあった
生成AIの利用が当たり前になっている。
ということは、その代わりに家計のなかで、あるいは一日の生活時間のなかで押し出されてしまったサービスがあるはずだ。かくいう私にも、思い当たるフシがある。
この点を掘り下げた韓国とアメリカの調査を見てみよう。「AIとの競合」というと「仕事を奪われる」的な話ばかりがフォーカスされるが、ひとりひとりの生活者の余暇時間や可処分所得も奪われる。これは多くの事業者が認識しておくべきだ。
AI課金の台頭で一番ワリを食ったのは……
韓国のOpensurvey社が20歳〜59歳の1500人を対象に実施した調査によると、生成AIサービスの有料での利用率は22.7%。
これは世界的に見ると異様に高い数字だ。2025年時点のいくつかの民間調査を見ると、AIに課金しているユーザーは全世界で見るとせいぜい全体の3〜5%しかいない、と推計されているからだ。
名だたるAI企業を輩出しているアメリカでさえ、PNC Bankの2026年調査では全世帯の約2%程度、とされている。
それを考えると2割超えは異常値すぎる。実は韓国の放送通信委員会等の調査(2024年)では有料購読経験率は7.0%だった。
そこから約2年経っているとはいえ、3倍以上高いということは、韓国でインターネット調査のモニター登録している人たちのリテラシーの高さを割り引いて見る必要がある。
ただ、逆に言えば、韓国人全体というより、各種サブスクにお金を払える層の動向として見る分には有用だろう。
OpenSurveyの2026年調査でもっとも課金率が高いのは、Netflixをはじめとする動画OTTサービスで72.9%。それと比べると生成AIはまだそこまでではない。
しかし同社は前年度も同様の調査を行っているが、2025年には14.3%だったから、8ポイント以上、つまり全体の1割弱の大人がこの一年で課金するようになったと言える。なかなかな伸び幅だ。
一方で大幅に減少したのが、コンテンツメンバーシップである。
日本ではあまり一般的な用語ではないが、「コンテンツメンバーシップ」とは、電子書籍などの月額サブスクリプション型サービスを指す。
具体的なサービス名は2026年調査にはないものの、2025年調査によれば、もっとも利用率が高いのは電子書籍とオーディオブックが両方楽しめる「ミリの書斎」で、このカテゴリの課金者の約7割が課金している。それに次いでネイバープレミアムコンテンツが3割弱、教保Book Samが1割弱と続く。
どうやら韓国ではAI台頭によって一番ワリを食ったのは、電子書籍や電子コミックのようだ。
2025年のデータを見ると、AIで課金されているのはChatGPT、Perplexity、Geminiであり、多くの人は映像・ビジュアルな要素を求めてAIに課金しているわけではない。
なお、韓国でPerplexityが人気なのは、最大手通信キャリアであるSKテレコムが1000万ドルを投資して戦略的提携を結んだことにより、自社通信サービスの利用者に1年間課金プランを無料で提供するプロモーションを実施したからだろう。サムスンもGalaxy S26シリーズにPerplexityのAIエージェントを組み込むことを発表しており、韓国ではPerplexityは存在感が意外と高い。
話を戻すが、AIと文字でやりとりしているあいだ、NetflixやYouTubeは流しておけるし、外食のデリバリーも頼める。けれども、画面で本やコミックは読めない。
AIとやりとりして疲れたときに、続けて画面で何か読みたいかといえば、そうではないだろう。紙ならまだしも。
だからAIと「画面で何かを読む」サービスはトレードオフの関係にある。
アメリカでAIに課金している層は極端
一方、英国のBango社によるアメリカのAI課金者2000人を対象にした2025年調査は、より極端な結果が出ている。アメリカでAI課金をしている人たちは高所得者層に集中している傾向があると言われているが、全体の母数からすると異常者……失礼、異常値、外れ値であることがよくわかる。
まずアメリカでAI課金している人たちは、「平均」で月に約$66を4つのAIツールに支出している。月1万円以上払っているということだ。そのうち2割以上が月100ドル以上支払い、8サービス以上加入しているスーパーユーザーが14%もいる。
もっとも、AI課金者がアメリカ全体の2%くらいしかいないとすると、AI廃課金者は0.3%くらいしかいないのだが。
それだけ課金しておいてなお、「今後12か月のAI購読追加意向」には「追加予定あり」が71%。え、まだ増やすの?
そんなにたくさんAIを使っていたら、ほかのことをする時間がないだろう。というわけで、AIと動画・音楽ストリーミングなど他のサブスク、どちらを優先するかという問いには61%が「AIを残す」(ほかのサブスクを削ってAIの費用を確保する)と回答。なんというか、完全にハマってますよね?
なお、Bangoの調査では、有料利用者の利用目的は「画像・デザイン」「動画編集」がそれぞれ4割以上おり、課金しているサービスもCanvaが18%、Midjourneyが7%とデザインや動画生成サービスもそれなりにシェアがあるのが特徴だ。
ここは韓国の傾向とは大きく異なる。
AIを使って自分で何か作るのは楽しいだろうし、ハマっているあいだはほかの何かを削ってでも取り組むだろう。
また、アメリカの場合はビジュアルな表現、動画作成にAIを使う率が高いがゆえに、映像や音楽系のサブスクとも衝突するとも考えられる。動画を作りながら動画や音楽を流すことは、普通はしないだろうから。
アーリーアダプター層のお祭り騒ぎが終わったら?
今のところAIを課金してまで使っているのはまだイノベーター、アーリーアダプター層である。一般的に、イノベーター理論(プロダクトライフサイクル理論)では定義上、イノベーターは全体の2.5%、アーリーアダプターは13.5%ということになっているが、AI課金についての各種調査で見えているのは、現状ではこの層の動向だ。
残り9割くらいのマジョリティは、課金するほど熱心には使っていない。記事メディアやYouTube、SNSでは、AI脅威論や驚異論(いわゆる「驚き屋」)が目立つので見誤りそうになるが、AIに実際に「お金を払う」層はまだ少ない。
ただ、イノベーター、アーリーアダプター層は比較的お金もあり、文化的にもアクティブな人たちである。ここをターゲットに商売しているドメインの事業者は、明らかにAIと競合しており、食われ始めている。早くAIが飽きられるのを待つか、AIの波に乗って自分達のプロダクトに惹きつけるか、第三の道を模索するか――いずれにしても対応を考えなければならない。
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ー著者ー
飯田一史
ライター。出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験したのち、独立。マンガ、ネット動画などのサブカルチャーと、ラノベ、ウェブ小説などの文芸をドメインに取材・執筆を手がける。文化の経済・経営的側面に関心がある。単著に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』ほか。青森県むつ市生まれ。青森高校、中央大学法学部法律学科を経て、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。

