にじさんじ・緋八マナの活動から感じる“プロ意識” 明るいトークとエンタメ精神を持つヒーロー
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーのひとつであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。
メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む「歌ってみた」などの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。
育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名を超えるメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さでシーンに大きな影響を与えている。
前回までにOriensのメンバーとして赤城ウェン、宇佐美リトと触れてきたが、今回は同じOriensの同期メンバー・緋八マナについて触れていこうと思う。
■明るいトークとエンタメ精神でQoLを上げてくれるヒーロー・緋八マナ
緋八マナは、2023年3月30日にデビューしたVTuberで、赤城、宇佐美、佐伯イッテツら同期4人で「Oriens(オリエンス)」としてデビューしており、ユニットでの活動にも精力的だ。
薄黄色の髪の毛に毛先へかけて水色にグラデーションがかかったミニマムなショートヘア、オーバーサイズの襟付きシャツに白いロングシャツとタイトなズボン。どこか未来的な印象を与えるクリーンな出で立ちの緋八マナだが、トークを聞いてみればコッテコテな関西弁でしゃべくりまくる。そんなギャップを持つライバーだ。
デビュー時から自身をコメディアンだと語った緋八マナ。現在では公式企画や大会などの大人数が関わる場で事あるごとに前フリを緋八へと投げかけられ、無理くり緋八がボケるという流れがあるなど、自他共に認めるお笑いキャラが定着している。お笑いに対する感度やアンテナも相応に高く、同期はおろかにじさんじ内の先輩・後輩らを見渡しても頭一つ抜けている印象だ。
自身の気質もあってか、同期の中でも比較的雑談配信をすることが多く、約1時間半前後の配信でガンガントークを繰り広げ、しゃべり倒す姿がよくみられる。雑談配信と一口にいっても、ライバーによってスタイルは様々。緋八の場合、聞いていて落ち着く・安心できるという配信というよりも、トークで笑わせてくれるラジオのようなスタイルで、リスナーからのコメントから話題を取り上げてアップテンポに喋っていくのが常だ。
緋八の雑談力が特に発揮されているのが、雑談企画「ニチアサ!!緋八マン!」だ。休日がゆえにだらけてしまいがちな日曜の朝に早起きをして、有効に時間を使うことで一日のQoLをあげていこう、という内容になっている。
先にも挙げたように約1時間半~2時間ほど、朝の7時から8時半ごろにかけて、時には10時をすぎるくらいまで行われているこの配信。爽やかな朝、休日をスカッと始めようというムード作りや意識はもちろん、彼の明るく高い声色とハキハキとしたしゃべり方が企画趣旨にピッタリなのだ。
こういった話し方は、親しみやすさはもちろんのこと、否が応でも見ている人・聞いている人の心を晴れやかにしてくれる。曇一つない清々しさのある緋八の声にはダウナーな印象はほとんどなく、関西人かつコメディアンな彼らしい明瞭な口調で喋っていく。しかも薄黄色かつ水色を基調としたビジュアルで、見ているだけでも日曜日の朝にふさわしい瑞々しいイメージを発している。これで明るくなるなというのがムリな話だ。
雑談配信というと、数時間はおろか10時間前後にわたって雑談していくおしゃべり好きなタイプの方々もいるが、緋八はダラダラとしゃべるというよりも決まった時間でキュッと締まった内容を好んでいる。関西生まれの性(さが)なのか、いやコメディアンを自称するエンターテインメント精神のたまものだろうか。
話し方、声色、ビジュアル、そして彼の意識や気性がピタリとマッチした雑談企画は、2023年7月2日にはじめて行われて以降、2026年6月14日までに約150回にわたって行われている。こういった朝活配信を定期的/マイペースに行なっているVTuberは多くいるが、彼の声色やしゃべり方、そして発せられるイメージは、清々しく朝を過ごしたい人にピッタリな朝活配信ではないか。
ちなみに緋八の関西弁だが、リスナーから「訛らないでしゃべるチャレンジ」をしてほしいと言われてその場でチャレンジし、速攻でアウト判定を食らったことがある。おそらく今後彼が“標準語でしゃべりつづける”ことがあれば、非常に貴重な姿になるだろう。生粋の関西人であることが伝わるワンシーンであった。
■トークだけではない、クリエイティブワークにも強い緋八マナ
ゲーム配信では高い雑談力をいかしてさまざまなタイトルをプレイしているが、彼の本領はファンからは少し見えづらいところにある。じつは動画編集や歌のミキシングなど、クリエイティブワークに強く、初配信で披露した映像も歌・ミックス・イラスト・動画をすべて自分自身で担当。OriensやDyticaのユニットマークやロゴも、緋八が担当したようだ。
その後、自身の配信で使用するムービーの制作や、自身の歌配信で使用する音源に自分でコーラスを吹き込んでみるなど、活動の随所で持ち前のクリエイティビティを発揮しているのだ。
ある配信では、自身の歌と歌唱パートをどのように制作しているか、収録の模様を配信を通じて公開したことがある。DAWソフトを立ち上げ、メインボーカルをしっかりと歌ったあとにピッチ調整やクオンタイズを使っていく緋八。歌詞に対して声のニュアンスをどう当てるかじっくりと考え、要所要所でパンチイン・パンチアウト(録音した歌や演奏から修正したい部分だけを録音しなおし差し替える作業)をしていく。
録音、再生、調整、録音、再生、調整、録音、再生、調整……緋八は表現と確認をくりかえす。納得したところで今度はコーラスやハーモニー部分の収録に入り、またしても録音と再生、調整へ。約2時間を超える配信でできあがった音源は、「簡易版」「仮音源」としてメンバー限定で公開されたのだった。
こうした活動内容からも分かるように、緋八は自身をシンガーとして押し出していこうという気概に溢れた人物でもある。
2025年3月8日に自身初のオリジナル楽曲「パッチワーク・ヒーロー」をリリースし、6月末には「ヤキツキ」、12月には「永遠をめぐる翼」と、1年に3曲のオリジナル楽曲をリリースしたのだ。
「パッチワーク・ヒーロー」の制作に携わったのは『ソードアート・オンライン』や『Fate Grand/Order』などの関連楽曲を手掛けてきた毛蟹(LIVE LAB.)、「永遠をめぐる翼」は2000年代から同人音楽シーンで活躍を続けてきたシンガー 兼 クリエイターの霜月はるかが作曲を手掛けるなど、豪華なメンバーを起用している。
■DracoVirgo×毛蟹が語る『Fate/Grand Order』の魅力と「清廉なるHeretics」制作秘話
現代の楽曲において、オーケストラサウンドなどのストリングスパートは打ち込みで代用することが多くあるが、「永遠をめぐる翼」と「パッチワーク・ヒーロー」では生楽器を使って収録しており、重厚感をもったサウンドに仕上がっている。収録時のエピソードについては、自身の朝活雑談だけでなく、「パッチワーク・ヒーロー」を手掛けた毛蟹とのコラボ配信で制作秘話を明かしている。
さて、ここで一つ想像してほしいのだが、もしもあなたが自身の好きな領域(音楽やマンガでもいい)で最前線を走るクリエイターといっしょに仕事をするとなったとき、どういう風に仕事をするだろう。
好きだからこそ、ある程度学んでいるからこそ、共作するクリエイターの凄さが肌身でわかるはずで、そういった面々と一緒に仕事をするとなれば、おもわず「言われた通りにこなそう」という風に脳裏をかすめてしまうかもしれない。アニメや漫画が好きな緋八にとって、毛蟹や霜月はるかはシーンにおいて活躍する先輩たちであり、なおのこと及び腰になっていても不思議ではない。
そんななかでも、彼は臆することなく自分の意見やイメージを伝え、共有し、よりよい物を作ろうと試みた。MVを制作するときは自作の絵コンテやイメージボードをもって動画制作者にコンセプトをつたえ、自身のコンプレックスや弱さについて明かすなど、、全身全霊をもって制作したことを明かしている。
先述したような配信上での明るさや爽やかさは、自身の高い意識やコントロールによるものであり、裏を返せば弱さやネガティブな一面を、自身の配信内で映し出したくないということにつながる。
彼の制作した3曲は、配信上で見せているようなブライトな輝きではない。どこかすこしズキズキとした痛みや拭いきれない恐れを封じ込め、“ヒーロー・緋八マナ”ではなく“人間”としての緋八マナの魅力が滲んでいる。
2026年6月の現時点で、4曲目となるオリジナル楽曲のリリースは行われていないが、それは彼が所属するOriensとDyticaによる8人組グループ・MECHATU-Aが、2026年10月10日にファーストライブ『Over Drive!』をKアリーナ横浜で開催することが、少なからず影響しているかもしれない。
自身の音楽活動をよりグッと進めていきたいと考えている緋八にとって、この日この瞬間はただのデビュー戦ではなく、今後を左右する大一番といっても過言ではないだろう。ライブに足を運ぶ人がいれば、8人の中でもとびきりの光を発するであろう緋八マナの勇姿を、しかとこの目に焼き付けてみてほしい。
最後に、6月29日に緋八マナは24歳の誕生日を迎える。彼の一年が素晴らしきものであることを願うばかりだ。
(文=草野虹)

