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「法廷での無断録音」が相次いで発覚し、電力各社が謝罪に追い込まれている。

もっとも、日本ではかつて、傍聴人が法廷でメモを取ることさえ認められていなかった。その慣行に異議を唱え、実質的に「メモの自由」を勝ち取ったのが、アメリカ人弁護士のローレンス・レペタさん(75)だ。

ちょうど来日中だった本人に話を聞くと、法廷録音の是非よりも、日本の裁判の「公開のあり方」そのものに強い疑問を抱いていた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●「何か悪いことした?」日本の法廷でメモ禁止に驚き

アメリカ人弁護士のレペタさんは、30代の頃、日本で経済法の研究をしていた。ある日、裁判を傍聴しながらメモを取ろうとしたところ、裁判所職員から制止された。

「当時は本当にびっくりしました。私、何か悪いことした?って」

当時の日本の裁判所では、一般の傍聴人によるメモは原則として認められていなかった。レペタさんは事前に許可を求めたこともあったが、理由も示されないまま断られたという。

「自宅があるシアトルに戻ったとき、裁判を見に行き、一般の傍聴席でメモを取りましたが、何も言われませんでした。録音もできました。その経験があったので、日本の裁判所でメモが取れないことは明らかにおかしいと思いました」

レペタさんは1985年、憲法が保障する「表現の自由」(21条)や「裁判の公開」(82条)に反するとして、国家賠償請求訴訟を起こした。

●1989年の最高裁判決「メモは理由なく妨げられてはいけない」

最高裁は1989年3月8日、損害賠償自体は認めなかったものの、次のような判断を示した。

<裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。>

いわゆる「レペタ訴訟」と呼ばれる裁判で、法学部生なら一度は耳にする有名な判例として今も言及されている。

判決後、全国の裁判所から「メモ禁止」の案内は姿を消したという。

今年5月から日本を訪れているレペタさんは、滞在中に東京地裁で裁判を傍聴した。

「傍聴席で多くの人がノートにメモを取っていました。その様子を自分の目で見て、うれしかったです」

●電力会社で相次いだ「法廷録音」

今年に入り、全国の電力会社で法廷のやり取りを許可なく録音していたことが相次いで明らかになった。

中部電力は5月8日の発表で、「遅くとも2004年1月頃以降、一部の民事訴訟における訴訟期日に関して、社内の報告書作成を目的として録音していたことが判明した」と説明した。

東京電力や電気事業連合会などでも同様の事案が発覚し、釈明している。

●法廷録音の禁止「訴訟規則」に定められている

法廷での録音は、法律ではなく「民事訴訟規則」と「刑事訴訟規則」によって原則として禁止されている。

民事訴訟規則77条

<民事訴訟に関する手続の期日における写真の撮影、速記、録音、録画又は放送は、裁判長、受命裁判官又は受託裁判官の許可を得なければすることができない。期日外における審尋及び法第百七十六条(書面による準備手続の方法等)第三項に基づく協議についても、同様とする。>

刑事訴訟規則215条

<公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所の許可を得なければ、これをすることができない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。>

●「録音反訳の正確性を検証できない」録音禁止を問題視する声も

ただし、法廷録音の禁止には以前から批判もある。

大阪では2022年、刑事事件の国選弁護人が法廷録音の許可を裁判所に求めたものの、認められず、その後に録音を実施したとして裁判所から解任された。

この弁護人だった中道一政弁護士は、過去の弁護士ドットコムニュースの取材に対して、訴訟活動の正確な記録のためには録音が不可欠だとうったえていた。

法廷でのやり取りは、裁判所が文字起こしをして記録化する。しかし、その内容に誤りやニュアンスの違いがあったとしても、録音データがなければ検証は難しい。また、その記録が当事者にすぐ開示されるわけでもない。

中道弁護士は「録音の開示すら認められないにもかかわらず弁護人が法廷録音をできないということであれば、弁護人としてはもはや、録音反訳の正確性を検証できない」と指摘していた。

●「国民の信頼を確保するには、できるだけ公開すべき」

こうした録音禁止のルールや、それをめぐる議論について、レペタさんはどう考えているのか。

「最も重要なのは憲法21条『表現の自由』です。そして82条『裁判の公開』です」

そう切り出した。

「1989年の最高裁判決は、憲法82条の趣旨が、裁判を一般に公開して公正におこなわれることを制度として保障し、国民の信頼を確保しようとすることにあると判断しました。本当に国民の信頼を確保することが目的であれば、裁判はできるだけ公開すべきです」

メモ、録音、写真や動画の撮影、生中継──。

法廷で何が起きたのかを知る方法はいくつも考えられるが、レペタさんが特に重視するのは「裁判記録へのアクセス」だという。

●「裁判所が持つ録音にアクセスできないのが問題」

アメリカでは「PACER」というオンラインシステムを通じて、多くの裁判記録を誰でも閲覧できる。

一方、日本では裁判記録の閲覧には手続きが必要で、刑事事件になるとハードルはさらに高くなる。

「もちろん、未成年やDV、セクハラなどが関係する裁判では、当事者のプライバシーを考慮する必要はあります。

ただ、裁判所は非常に大きな権限を持っている組織です。その権限をどのように運用しているかはとても重要な問題であり、できるだけ透明にする必要があります。

だからこそ、裁判の記録は原則として公開すべきです。日本の裁判所は、考え方が『非公開原則』になっています」

レペタさんは「公開が原則であり、非公開は例外であるべき」と繰り返した。

そして、電力会社の担当者による法廷録音が問題視されることについても、次のような考えを示した。

「裁判所には正確な記録を作る義務があります。その意味で、法廷のやり取りを録音する目的は、記録が正しいものなのかを確認するためのバックアップです。

だから、たとえ法廷での録音が禁止されていても、裁判所が保有している録音データにアクセスできる仕組みが整っていればよいのです。しかし、その仕組みは用意されていないと聞いています。

今の時代、無断で録音をしようとさえ思えば、誰もが携帯電話などを使って録音することができます。そのため、法廷で審理された内容をきちんと確認できるようにするため、少なくとも弁護士や検察官については、基本的に法廷での録音を認めるべきだと思います」

●山上徹也被告人の裁判めぐり「工夫できる」

裁判公開をめぐっては、安倍晋三元首相銃撃事件でも問題になった。

山上徹也被告人の裁判には社会的な関心が集まり、奈良地裁には連日多くの市民が詰めかけた。

今年1月21日の判決公判では、31の一般傍聴席に対して685人が申し込み、倍率は約22倍に達した。

裁判開始前からジャーナリストらは、傍聴の機会を広げるよう求めていたが、奈良地裁は応じなかった。

レペタさんは、こうした状況も裁判公開の課題だとみている。

「アメリカでは審理の様子がオンラインでライブ配信されることもあります。

使っていない裁判所の別室にモニターを設置して、法廷の映像を流すなど、いろいろと工夫することはできます。

記者席を除けばわずかな傍聴席しかない法廷で、抽選に当たった人しか裁判を見ることができないという状況は、1989年の最高裁判決の精神に照らしても疑問があります。

そういうことをしていて、国民の信頼を得られるのでしょうか」