《「OB指導者排除」という難題》広陵高校野球部・集団暴行事件 第三者委の指摘する“外部の血を入れた改革”は実現できるのか、理事長を直撃
3度のセンバツ制覇を誇る広島の名門・広陵高校硬式野球部で集団暴行事件が発生したのは昨年1月だ。そして同年7月に問題が公になり、夏の甲子園を途中辞退する大騒動となってから10か月、学校が設立した第三者委員会の調査が終了した。
【写真】「反省してるなら便器なめろ」広陵高校側が昨年の問題発生後に被害者の両親に渡した報告書
5月27日に飯森豊理事長や中井哲之前監督らの謝罪を受けたA君の父親はこう言って胸を撫で下ろした。
「我々が主張してきたことは全面的に認めていただいたと思っています」
筆者は、学校側が公表していない調査報告書を入手。第三者委は当時1年生だった被害生徒A君が転校を余儀なくされた集団暴行を「人権侵害にあたる」とし、中井氏の事件後の言動を「不適切」と結論づけた。
こうした厳格な指摘を行なった背景を、第三者委の委員長を務めた那須寛弁護士に問うた。
「事件が起きた当初、学校は調査を行なっていますが、普通は生徒から話を聞いたメモを残したり、報告書にまとめたりするのが当然と思います。ところが、そういうものは『破棄しました』『年度が替わってもうありません』と。また加害生徒らへの聞き取りは同部屋で複数人同時に行なわれていた。他の生徒の話に耳を傾ければ、口裏合わせだって可能な状況だった。そこまでは我々も踏み込んで調査しませんでしたが、学校の初期対応がかなり杜撰だったのは明白です」
筆者が調査報告書を読んで驚いたのは「硬式野球部の指導体制の抜本的刷新」の項にあった次の一文だった。
〈硬式野球部の再建に当たっては、X元監督が現場指導、部運営、人事、選手起用、寮運営その他の部活動運営に直接又は間接に関与することを排除する必要がある〉
無論、X元監督とは前監督である中井氏である。「排除」というインパクトのある言葉には、第三者委の強い意図が感じられたが、那須弁護士はこう説明した。
「我々もきつい言葉だとは思いましたが、一部報道では(中井氏が)スカウト(選手勧誘)に動いているとの情報もあった。きっちりと書くべきことは書いて指摘しなければならないと思いました」
5月に入って筆者は、監督を退任した中井氏が中学野球の指導者に対し、特定の生徒の広陵への入学を勧誘していたと報じた(広陵は「学校としての回答はいたしません」とした)。そうした行動をこのまま容認すれば野球部の体質は何も変わらない恐れがある。第三者委の指摘の通りだろう。
現在の野球部は松本健吾監督以下3人のコーチ全員が同校野球部OBだ。第三者委はその事実に触れ、〈同質的な人間関係のみで指導体制を構成すれば、(中略)実質的な改革は困難である〉とした。
第三者委の仕事としては調査報告書の作成で終わり、広陵高校が行うはずの改革等について指導やチェック機能を果たすことはないという。つまり、今後は広陵高校の自浄作用が問われるわけだ。
そこで学校のトップの飯盛豊理事長宅に足を運び、訊ねた。広陵野球部はOB支配を脱却し、外部の血を入れた改革を実現できるのか、と。
「5月18日にいただいた第三者委の報告を真摯に受け止めて、学校として改革をしていかないといかんとは思いますけれども、学校の皆さんや評議員との話し合いで決めていくことになります」
驚くことに飯盛氏は、中井氏による中学生の勧誘行為を把握していなかったという。
「全く知りませんでした。本当にそれをしていたのかも定かではない。やっぱり本人から(事実かを)聞かないと……」
しかし、なぜ筆者の取材時にすぐに確認しなかったのだろうか。
「……。いずれにせよ外部の人の力を借りることも含めて、何が広陵に良いかを考えていきたい」
第三者委から排除する必要があると指摘された中井氏は、学校法人広陵学園の理事でもある。このまま理事として残ることになるのだろうか。
「理事の立場をどうするのか、それも含めて相談していきたい。ご本人の気持ちもあるでしょうし。すべてを早急に改革していかなあかんので、そのために理事も評議員も含めて話し合います」
飯盛氏や中井氏からの謝罪を受けたA君の父親は、再発防止策に対する不透明性やこれまでの広陵の対応への不信感から、「現段階での謝罪は受け入れられない」と伝えたと筆者に話してくれた。その感想を飯盛氏に求めたところ、次のように答えた。
「第三者委の報告書を受けて、すぐにお詫びしなければならないと思い、向かいましたが、私が受けた印象では『謝罪は受け入れない』ということはおっしゃらなかったですよ。いや、そういうニュアンスのことはおっしゃったのかもしれないけれど……。ともかく、今後、同じようなお子さんを出さないように最大限努力するとお伝えしました」
広陵野球部OBのひとりが話す。
「OBの間では、この夏をもって松本健吾は監督を退任し、指導陣で最年長の広陵OBコーチが監督に就任すると噂されていました。第三者委の結論を受けて、その話もなくなるかもしれません。中井先生がスカウト活動を開始した記事の影響もあって、広島の中学野球の間では、広陵と中井先生に対する不信感を強めている。再建は困難な道のりが待っていると思います」
広陵同様に高校野球の超名門で、屈指の人気を誇ったPL学園は、母体である宗教法人の閉鎖的な敷地内で幾度も不祥事(暴力事件)が起きた。OBの指導のもと厳しい上下関係が存在する長年の体質を変えられず2017年に事実上、廃部に。
広陵とてPLと同じ道を歩まないとも限らない。
●レポート/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2026年6月19日号
