【難波 猛】新入社員の25.2%が「叱られた経験ゼロ」…日本の大企業に蔓延、優秀な若手から去る「ゆるブラック」の恐怖
残業なし、ハラスメントなし、充実した福利厚生、優しく接してくれる上司……。最近、こうした「ホワイト企業」から、優秀な若手社員が去っていくケースが多発しているという。人事コンサルタントで、著書に『ボスマネジメント』がある難波猛氏が、そんな彼らの意外な心理と、解決策を教える。
「ゆるい職場」に不安を感じる若手社員
過酷な働かせ方をする「ブラック企業」が社会問題になっていた頃、対比する存在として使われるようになった言葉が、「ホワイト企業」です。
ホワイト企業は、残業は少なく、ノルマも過度ではなく、上司は穏やかで、ハラスメントとも無縁で、福利厚生が充実しているとされています。そんな環境なら、誰しも長く働きたいと感じるでしょう。
ところが近年、ホワイトすぎる環境に「ゆるさ」という不安を感じる若手社員の存在が注目され始めました。
今では、労働環境はホワイトだが成長実感が持てない職場は、「ゆるい職場」「ゆるブラック企業」といわれ、特に成長意欲が旺盛で優秀な若手社員の退職の理由に挙げられるほどです。
リクルートワークス研究所の「『ゆるい職場』と若手の研究」によれば、25.2%の新入社員が一度も「叱責」されたことがないと回答しており、この傾向は年ごとに増加傾向にあります。
また、株式会社学情が運営する「20代の働き方研究所」が20代社会人を対象に実施したアンケートでは、39.4%の20代が、職場を「ゆるい」と感じたことがあると回答しています。
成長していく未来が想像できない
職場の雰囲気は悪くない。上司も優しく理不尽な叱責もない、残業もなく福利厚生も充実している。目標やタスクは現実的で、休暇も取りやすい。
一見すると申し分ない環境にもかかわらず、「このまま働き続けると成長していく未来が想像できない」と語る若手が増えている背景には、現状への不満が少ない代わりに、じわじわと襲ってくる未来への不安があるのです。
いくら現在の環境が良くても、自分が未来に向かって成長している手応えがなければ、自己実現欲求や自己効力感(Self-efficacy)が満たされず人はどこかで停滞してしまいます。
この“ゆるさへの不安”が特に起きやすいのが、従業員が1000人以上の大手企業といわれます。入社前から自己分析を重ねるなど社会活動に積極的だった若者ほど、この静かな停滞感に耐えられず、2〜3年で職場を離れるケースも見られます。
彼らは、怠けたいわけでも、好き勝手な働き方を求めているわけでもありません。
ただ、自分の将来を考えたときに、「この環境がキャリア形成の推進力になり得るか」という感覚に敏感なのです。
特に最近ではパワハラ防止や残業規制に熱心な職場が多く、居心地は良く心理的には安全だが、キャリア的には不透明。このギャップが遠心力となり、優秀な若手をじわりと外へ向かわせているのでしょう。
心のモヤモヤを放置してはいけない
もし、あなたが働いている職場を「ゆるい」と感じているのなら、そのゆるさについて、率直に上司や先輩へ話してみることが必要かもしれません。
以前、大手企業に勤めている若手社員の「覆面座談会」を聴講したことがあります。その際に、若手社員たちはこんな発言をしていました。
「上司から、なんだか親戚の子供みたいに気を遣われ、丁重に扱われている」
「成長に必要な指摘は、言い方は配慮してほしいが、言うこと自体を遠慮してほしくない」
「何の指摘もないと、自分がやっていることが正しいか、間違っているかも分からず不安になる」
「この環境にいると、スタートアップで鍛えられている同世代に後れを取り続けそうな怖さがある」
このゆるさからくるモヤモヤは、放置すると徐々に精神にダメージを与えます。
毎日穏やかに過ごせるのに、週末になると「このままで良いのだろうか」という不安に襲われる。そのうち、そうした不安を感じなくなるか、外への恐怖で動けなくなる。
自分の希望や不安を率直に相談しよう
問題は、「ゆるさのモヤモヤ」が、本人と上司の怠慢や悪意から生まれているわけではない点です。本人の成長意欲はあるが、何をすれば良いか分からない。上司は部下の感情に配慮しすぎて、何をどこまで伝えれば良いか分からない。
若手が「物足りなさ」を感じる本質は、職場環境が良いこと自体や仕事が簡単すぎることではなく、対話の欠如により「この環境で成長していくことができる道筋」「自分の将来像」が見えないことです。
上司との率直な対話は、特に「ゆるさ」を感じる若手が多い大手企業では、効果的です。
なぜなら、近年の日本企業では社員の「キャリア自律」に向けて多くの制度・選択肢・能力開発機会を用意していますし、多様なロールモデルも存在します。自分の希望や不安を率直に上司・先輩・人事へ相談することで、豊富なリソースの中から必要な支援が得られる可能性があります。
相談せずに「ゆるい職場」だと見限る前に、薄くかかった霧を晴らすために“期待”と“機会”について、上司と対話してみることが解決策になるかもしれません。
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