青山凌大(写真=林将平)

写真拡大

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』で花江(森田望智)と直道(上川周作)の息子・猪爪直人役を演じた青山凌大。幼少期から「いい子」だったという青山は、芸能界入りに当初は消極的だったという。そんな戸惑いもありながら始めた役者業だったが、『虎に翼』への出演を通じて大きく意識が変わったそうだ。人間関係の難しさを経験しながらも、周囲の人々との出会いを通じて「人を信じられるようになった」と語る青山。今後は多様な役柄に挑戦しつつ、自身の経験を活かして観る人に寄り添える俳優を目指す青山の素顔に迫る。

参考:尾碕真花、『虎に翼』を経て大ブレイクへ 「この人にお願いしたいと思っていだけるように」

●圧倒され続けた猪爪家での食卓シーン

――『虎に翼』に出演されて、周囲からの反響はいかがですか?

青山凌大(以下、青山):家族も友人もみんな喜んでくれましたし、母方の祖父は、知人に「孫が『虎に翼』に出ます」とメールを送ったみたいです(笑)。「こういう反応が来たよ」とわざわざ連絡をくれたりもして、嬉しかったですね。

――出演のきっかけはオーディションですか?

青山:オーディションを受けて、「合う役があったらお願いします」と言われていました。『虎に翼』の撮影がスタートする時期には、僕のスケジュールにも仮で入っていたものが後日消えることもあって(笑)。「これはダメだったんだな」と思っていたので、正式に決まったときには実感が湧かなかったです。

――朝ドラ初出演ということには、どんな思いがありましたか?

青山:ひたすらプレッシャーを感じていました。第1話から観ていて、何回泣いたかわからないくらいに好きな作品だったので、嬉しいけれど「自分にできるのかな」と不安で。クランクインした日は初めにリハーサルがあったんですが、現場に入った瞬間にみなさんがお芝居しているのが見えて、もう緊張ですよね。(弟・直治役の)今井悠貴さんと、「いつ挨拶に行く?」ってそわそわしていました。

――それは緊張しますよね。クランクインは、初登場のシーンだったんですか?

青山:そうですね。みなさんが「これをこうやったらどうか」と提案されている中、「僕もできたほうがいいんだけど……」と思い続けていました。

――そんな中、今井さんがいて心強かったですね。

青山:本当にそうなんです。クランクアップの日に、LINEで「ありがとうございました」と送ったら、今井さんからも「心強かった」と言ってもらえてすごく嬉しかったです。

――直人を演じる上で、どんなところを意識されたのでしょうか?

青山:子ども時代を演じていた方もいらっしゃいますし、監督からも「真面目で母親思い」と聞いていたので、そのイメージで演じていました。自分としては、いち視聴者として観ている中で“家族”というものを感じてほっこりするシーンがたくさんあったので、優しい父親(直道/上川周作)の面影や、母親(花江/森田望智)が持っている要素を引き継げたらいいなと思っていました。

――花江役の森田さんとは、事前にどんなお話を?

青山:事前には特にお話していないです。ただ、最初に輪に入れてくれたのは森田さんだったと思います。僕は仲良くなるまでに時間がかかるタイプなので、前室で「どうしよう」と思っていたら、「こっちに来て座ればいいじゃん!」と呼んでくれて。すごく温かい方々ばかりで、いろいろなお話をしました。たとえば、僕は食に興味がないんですよ。

――珍しいですね。キャスト同士で美味しいものについて語る、というのはあるあるかと。

青山:「好きな食べ物は?」と聞かれたときに、「正直あまり食べるのが好きじゃない」と話したら、「生きてて何をしてる時間が楽しいの?」「どんなものなら好きなの?」と今までにないくらい質問攻めにあって(笑)。すごく楽しかったですし、嬉しかったです。

――ちなみに、何をされているときが一番楽しいんですか?

青山:友人と話しているときですね。生きていて、一番幸せな時間かもしれないです。

――“食”より“友人と過ごす時間”なんですね。特に印象的だった撮影についても聞かせてください。

青山:やっぱり家族会議のシーンは印象的でした。みなさん本当にすごいんですよ。10分以上の長回しで「今回の朝ドラで一番長いシーンだ」とも聞きましたけど、リハがあるとはいえ全部一発でやるんです。あの方々は一度も噛まないし、一度も失敗しないんです! 直前まで笑いながら会話をしていて「ヨーイ」で切り替わるって、よく聞くじゃないですか。それを目の前でやられて、「これはミスできないぞ」と(笑)。もう、みなさんのお芝居がすごすぎて……目標になりますよね、あんなものを見せられてしまったら(笑)。

――(笑)。すごく刺激のある現場だったんですね。

青山:森田さんは、こっちがどんなお芝居をしても泣いてくれるんじゃないかと思うくらいに素敵な受け方をしてくださったので、逆に自信をなくしました(笑)。“影響を与え合って”というのが理想だと思うんですが、本当にすごいなと尊敬しました。

――直人を演じるという意味ではいかがでしたか?

青山:役の気持ちを考える時間は好きなので、楽しかったです。それに、実の母親が「自分に言われているみたいで感動した」と言っていて。僕自身、母親に対する思いは直人に近いのかなと思っていましたし、観ている方が家族や日頃お世話になっている人に対して、お礼を言いたくなるようなシーンにできたらいいなと思っていました。

――青山さん自身、ご家族のことを改めて感じる時間にもなったんですね。

青山:そうですね、すごく考えました。北海道から大学進学で東京に出てきたときに、一人暮らしを始めて。それから両親に感謝する機会は増えましたけど、今回あらためて父親の偉大さにも気づきましたし、母親の優しさというか、今までいろいろとしてくれたことを思い返したりもしました。

――SNSでも「直人がいい子すぎる」と話題になっていましたが、ご自身にも近い部分がありそうです。

青山:周りからは「結構近い」と言われます。役者なので、「逆です」と言えたらカッコいいんですけどね(笑)。

●いろいろな出会いによって“人を信じられる”ようになった

――この作品を経て、ご自身の中で何か変化はありましたか?

青山:「明るくなったね」とよく言われます。(伊藤)沙莉さんも三山(凌輝)さんもすごく明るくて、いい意味で遠慮がない方々だったので、「そうやって向き合ってもらった側は、こんなにも嬉しいんだ」と。身を以て喜びを感じる期間だったので、心境の変化はすごくありました。

――それはガラッと変わりますよね。必然的に、自分自身も相手に見せていくことになりますから。

青山:すぐにできるわけではないですけど、すごく前向きになったと思います。次の作品への心持ちも変わりますし、本当に成長と感謝しかない経験でした。

――ここからは青山さんご自身のお話も伺いたいんですが、小さな頃はどんなお子さんだったのでしょうか?

青山:父方の祖父母からは「変な子だったよね」と言われるんですけど、そのエピソードが思い出せなかったので母親に電話しました(笑)。そうしたら、「小さい頃に徒競走を本気でやっているのを見たことがない。みんながゴールするのを見てからゴールする子だった」と言われて。どこに行っても、ぐずることなくニコニコしていたみたいです。弟が生まれたときには、“望んで兄になったわけではないから”という理由で母は「お兄ちゃんでしょ!」と言わないようにしていたらしいんですが、自分からちゃんとお兄ちゃんでいようとしたり、とにかくいい子だったと言われました。

――「リアル直人だ!」と思ってしまいました(笑)。そんなお母様の推薦がきっかけで、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募されたんですよね?

青山:僕、母親に薦められてから2年間、断っていたんですよ。でも、「毎年言われるのもなぁ」と思って、1回だけという約束で応募しました。もともと僕の父が自営業をしていて、子どもの頃から「お父さんみたいになるのが夢」と言っていたので、この仕事を始めなければ父親のお店を継いでいたんだと思います。

――前のめりに「役者をやりたい」という気持ちではなかったと。

青山:妹も芸能をやっているので、“芸能=妹がやるもの”だと思っていて、興味がなかったんですよね。お芝居のレッスンは楽しかったけれど、いざ現実を見ると楽しいだけではないので、そこに悩むこともあって。「ちゃんとこの仕事と向き合おう」と思えたのは、本当に最近かもしれないです。『虎に翼』への出演は、間違いなく大きなきっかけになりました。

――「楽しいだけじゃない」という壁をどう乗り越えたのでしょうか。

青山:僕は、昔から「波風の立たない穏やかな人生がいいな」と思って生きてきたんです。でも、この世界は「これでもか!」というくらいに波風が立ちまくるじゃないですか(笑)。人から注目されるのも得意じゃないし、干渉されるのも苦手だし。でも、こんな僕でも誰かに何かを与えられる、ということも知りました。今でも乗り越えたわけではないけれど、お芝居はすごく素晴らしいものだと思うので、「それが好きだ」という気持ちでやっていけたらいいのかなと思っています。

――お芝居自体は、最初から楽しめたんですか?

青山:そうですね。僕は食に興味がない分、知識欲があるみたいなんです。お芝居に関しても、“知らないことを知る”という意味で楽しく感じていた部分がありました。役の気持ちを想像するのも好きですし、たとえば『虎に翼』の現場では「沙莉さんは今どんなことを考えて演じているんだろう」「どんな経験をしてきたら、こういうお芝居ができるようになるんだろう」と考えるのも楽しくて。演じること自体もそうですけど、自分の知らないことを知っていくのが楽しいな、とも思います。

――これまでお話を聞いてきて、青山さんは“人”がお好きなのかなと感じました。

青山:最近、僕も気づきました(笑)。恋愛的な意味ではなくて、惚れっぽいんですよね。会った人みんなを好きになるし、みんなが幸せであればいいなと思います。この仕事を始めて4年目ですけど、嫌いな人に出会ったことがなくて。みんないい人だし、みんないいところがある。だからこそ、みなさんにいろいろと聞きたい気持ちはあるけど、その人にはその人が大切にしている人がいるはずだから、僕は遠くから幸せそうにしているのを見られればいいな、とも思ったりします(笑)。

――ふだんから、人の悪いところではなくいいところを見ようとしているんですか?

青山:どうなんですかね……でも、それだと僕が“いい人”みたいに見えてしまうので、そんなことはないです(笑)。

――(笑)。これまで活動されてきて、印象的だった先輩からの言葉はありますか?

青山:事務所の先輩の新原泰佑くんから、「もうちょっと人を信じてみてもいいんじゃない?」と言ってもらったことがあります。

――信じるというのは?

青山:僕は学生時代に人間関係でちょっと辛いことがあって、自分と向き合う必要があったというか。なかなか人を信じられない時期もあったので、事務所に入った頃、マネージャーさんに「なんで僕に対してここまでできるんですか?」と聞いてしまったこともありました。「会ったばかりで僕がどんな人かもわからないのに、なんでそこまで真剣にできるんですか?」って。

――マネージャーさんはなんと?

青山:「人生背負ってるから」と言われました。カッコいいなと思いましたし、僕自身、マネージャーさんの人生を背負っていかなきゃいけないんだと。この仕事を通じて人のすごさや可能性に気づくことができましたし、いろいろな出会いによって“人を信じられるようになったこと”は、自分の中で大きな変化だと思います。

――素敵なお話をありがとうございます。これからどんな役者道を歩んで、どういう役者になっていきたいですか?

青山:『虎に翼』で先輩方のお芝居を間近で見て、「こんな表現ができるようになりたい」という目標が一つできました。あとは、僕自身にも辛い時期があったので、みなさんに寄り添えたらいいなと思います。僕は人と関わるのが苦手だけど、僕の好きなお芝居を通じて、少しでも救われる方がいてくれたら嬉しいです。

――ちなみに、どんな役をやってみたいですか?

青山:この間、FODの『REAL恋愛殺人捜査班』で人を刺す役をやったんですが、ああいうダークな役をもっとやりたいです(笑)。

――『虎に翼』とは真逆ですね(笑)。でも、『イップス』(フジテレビ系)の役もまったく違いましたし、直人役の青山さんだと気づかない人もいるだろうなと思います。

青山:でも、それが一番ですよね。“僕”としてではなくて、“役”として見てもらえる。そういうお芝居ができたらいいなと思います。

(文=nakamura omame)