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厚生労働省が実施した「令和4年 介護サービス施設・事業所調査」によると、介護に従事する職員数は年々増加しており、令和4年度は215.4万人だったそうです。そのようななか「女優の仕事と介護の仕事は似ている」と話すのは、芸能活動のかたわら、介護福祉士や准看護師として現場で活躍する北原佐和子さん。今回は、北原さんの著書『ケアマネ女優の実践ノート』から、北原さんが介護の現場で経験したエピソードを一部ご紹介します。

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女優と介護、実はとても似ています!

今年、還暦を迎えました。17歳で芸能活動を始め、42歳から介護の仕事にも携わっています。

女優と介護のダブルワークに、「?」と不思議な顔をされる方もいらっしゃいます。確かに、まったくの畑違いですものね。

ところが、女優と介護、実はとても似ているのです!

「この役の人物は、今、どんな感情なのだろう」と気持ちを動かし、その役柄になりきるのが女優です。

介護の仕事も、「この方は、今、どんな気持ちなのだろう」と常に相手の心の状態を考えなくてはいけません。

どちらの仕事も、人の感情や思考を理解しながら、コミュニケーションを必要とする仕事。だから、「女優の経験が介護の仕事に役立っている」と感じることはままあります。

女優と介護のふたつの仕事どちらも好きで、やりがいがある

介護の現場では、利用者さんが主役で、私は陰のマネジャーみたいな存在です。一方、女優業では、私が表に立つので、もう真逆ですよね。

だからでしょうか、「女優と介護の二足のわらじは、大変でしょう」と聞かれることがよくあります。


『ケアマネ女優の実践ノート』(著:北原佐和子/主婦と生活社)

でも私の中では、結構バランスは取れているのです。どちらも自分にとっては居心地がよく、やりがいがあります。

たとえば午前中に介護の現場に行って、午後からは着物姿で舞台に立つ、なんてこともありました。振り幅が大きすぎですよね(笑)。

体力的にはギリギリでも、メンタルの切り替えは不思議なほどすんなりできて、むしろメリハリを楽しめていました。

プライベートな時間

仕事が立て込んでくると、プライベートな時間はほぼなくなりますが、睡眠時間が確保できれば大丈夫。

でも、自分の時間は絶対必要ですから、仕事帰りに好きなカフェに寄るなどして、うまく調整しています。

丸1日休めなくても、仕事のすき間時間に映画を見たり、ちょこちょこと気分転換ができればOK。私はそれで十分リラックスできるのです。

そうそう、ふたつの現場でのお化粧は、まったく変えています。介護のときは、目がきつくならないように、アイライナーは引きません。

今、女優業を辞めているわけではないのですが、介護の仕事に集中していて、なかなかスケジュール的に厳しくなっています。

でも、演じることはすごく好きなので、この先もご縁があれば、やり続けていきたいと思っています。

女優のコミュニケーション力が介護の仕事にも大いに役立つ

女優として、さまざまな現場でさまざまな方々とコミュニケーションを重ねてきた経験は、介護の仕事に生かされているのでしょう。

たとえば介護の現場のスタッフに言わせると、「頑固なおじいちゃん」という方がいるとします。

その頑固なおじいちゃんへの対応は、舞台の演出家や映画監督がひとつの演技に何度もNGを出すのに対して、あの手この手で創意工夫をし、OKをもらうのととても似ています。

また、「ごはんを食べたくない」「お風呂に入りたくない」と訴える方がいたとき。

その原因を探るとっかかりを見つけるため、アンテナを張りめぐらせて引き出しをたくさん作り、「この人はどんな話が好きかな」ということを考えます。それらを手がかりにコミュニケーションを始めるのですね。

奥さんがきれいな方だったら、「きれいな女性がお好きなのですね」「もしかしてもしかして、ウワキの経験、あったりして……」と少しくだけた話もしてみます。

するとニヤッとして、頑(かたく)なな表情が溶けていくのです。そして、どんどんご自身のことを話してくださいます。

そういうコミュニケーションが本当に楽しくて仕方ありません。

相手の方が心の扉を開いてくださった瞬間、「この仕事をしていて、よかった!」と実感します。

※本稿は、『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。