燃料を供給できず、海外エアラインが国内空港への就航を断念する例が増えている(記者撮影)

インバウンドが急回復する中、ジェット燃料の供給不足で海外エアラインが日本で給油できず、新規就航や増便を見合わせる事態が多発している。国土交通省などによれば、成田空港を中心に全国で週あたり140便程度の新規就航や増便を断念する例が確認されているという。

航空会社が10月からの冬ダイヤを組む中で、「石油元売り各社から航空燃料の供給を受けることができず、やむを得ず運航を見合わせる事態が多数生じている」(北海道庁)といった悲鳴が上がっていた。

なぜ今年になって燃料供給不足が表面化しているのか。

国も対策に乗り出した

燃料不足の問題を受け、国交省と資源エネルギー庁は共催で「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース」を6月に立ち上げた。7月には各空港での需要量の把握、供給力の確保、輸送体制の強化などを含めた「行動計画」を公表している。

7月上旬には成田空港向けに韓国からジェット燃料が緊急輸入された。また北海道では、定期修繕に入っている出光興産北海道製油所の代わりに、本州の別の製油所での増産を特例的に国が認めている。

国は運送会社に呼びかけ、予備のタンクローリーや乗務員を捻出、月1万5000キロリットル分のタンクローリーを確保。海運業者とも連携して運送計画を変更、外航船の内航船転用で新たに3隻の燃料運搬船を確保した。こうした対策で当面、アジア便週150便超相当の燃料を確保する。

石油元売りは石油製品の長期的な需要減を見越して製油所の閉鎖を進めているが、ジェット燃料の供給量は2023年度ですでにコロナ禍以前の水準に回復している。また、不足分はこれまでもその都度、韓国などから輸入してきた。つまり、今回表面化した燃料不足は供給量の問題ではない。

「元売りは年間計画で輸送体制を組んでいる。そこにインバウンドが急増し、人員や機材が手当できない。空港までの輸送体制が足りておらず、急なニーズになかなか対応できていない」。経済産業省資源エネルギー庁 燃料供給基盤整備課の永井岳彦課長はそう話す。


タスクフォースでは、タンクローリーや燃料を運ぶ内航船の乗員不足、荷主となる石油元売りの系列化が進んだことで、いわゆる「フリー船」が減少し、輸送体制が硬直化していることも話題に上った。

確かに人手不足は輸送力のボトルネックになっている。ただ、輸送体制の系列化については「内航船大手は系列をまたいで石油製品を運搬しており、年間契約で船を動かしているにしても、需給にばらつきが出れば社内で調整するはず。そもそも燃料需給にばらつきが出れば系列間で調整している」(経産省幹部)。

船の数に余裕がないという根本的な問題はあるが、「系列化で硬直した輸送体制」が問題の本質ではないようだ。

最大の問題は「ドタキャン」

国内のエアラインは通常、半年から1年前には石油元売り各社あるいは給油会社と調整を始める。「JALやANAから燃料が欲しいと言われれば、なんとしてでも調達する」(元売り関係者)。ただ、元売りは基本的に年間で需要予測を立て、燃料供給体制を組んでいる。

一方、海外のエアラインは運航希望日の2〜3カ月前に就航をリクエストするケースもざらだ。が、ある石油元売り幹部は「2カ月前までならなんとかできるケースもあるが、それを過ぎると追加のタンクローリーや船を手配するのは難しくなる」と実情を語る。

海外LCCよっては、就航リクエストが運航予定日の2か月前で、燃料調達などの調整を50日前までに行ったものの、40日前になって就航を突然キャンセルする事例も見受けられる。これが繰り返されると元売りも半信半疑になり、船やタンクローリーの手配に慎重にならざるを得ない。

タスクフォース関係者は「あるアジア系のLCCは複数空港にオファーを出しておいて、需要を見ながら就航先を決めている。行かなかったところは容赦なくキャンセルする。燃料供給不足の火元は、案外同じところなのかもしれない」と話す。

運航キャンセルのリスクは制度上、避けられない。航空会社と空港の契約、給油会社との契約は相対で行われており、違約金の取り決めもそれぞれだ。「地方の空港は海外エアラインの誘致に必死で、あまり強気な交渉ができない」(国交省担当者)という実情もある。

石油連盟は海外エアラインに対して、時間的な余裕を持ち、確度の高い就航スケジュールの提示を求めているが、在日航空会社代表者協議会(BOAR)は「各航空会社は世界経済の動向を鑑みてネットワーク構成を決めているため、1年前に燃料需要予測を提出することは困難」と釘を刺している。

年間で供給体制を組みたい元売りと、ドタキャンも辞さない海外エアラインとの間には、大きな溝がある。

空港や国が間に入り、解決につながるのか

この点、燃料供給不足解消に向けた「行動計画」でも、各空港の需要量を把握する仕組みの構築が示されている。空港会社がエアラインからヒアリングし、確度の高い情報を収集・整理して元売りに伝えるというものだ。

通常は航空会社が元売りと直接交渉するケースが多いが、空港会社が情報を取りまとめて元売りに提供し、供給体制の精度を高める。調整の中で問題が発生した際の相談窓口も国が設ける。

国交省の廣田健久・航空ネットワーク企画課長は「各空港でどれくらい需要が増えるのか、企業の競争に影響を与えない形で国も情報を集約し、空港・エアラインと元売りをつないでいきたい」と話す。

果たして情報集約の仕組みは機能するのか。空港会社や国が間に入っても、海外エアラインの態度が変わらなければ、燃料供給不足問題の根本的な解消の決め手にはならないだろう。

(森 創一郎 : 東洋経済 記者)