突然の停止に利用者は……(U-NEXTのHPより)

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 この6月、国産では最大手となるVODサービス「U-NEXT」の成人向けコーナーで、VisaとMaster両カードの決済が突然、停止となった。ここ数年、成人向けコンテンツを含むECサイトでは、クレジットカードでの決済が停止する例が相次いでおり、その流れが一段と広がってきたことを表す事例だ。なぜこのような動きが加速してきたのか。同様の事例は今後も続くのか? 専門家に聞いた。

【写真】決済停止が続くクレカとは

5大ブランドが続々と……

 皮切りは2022年。ECサイト「DMM.com」が突然、Mastercardとの取り引きを停止した。翌23年末には動画配信サービス「ニコニコ」のプレミアム会員でMastercardの取り引きが停止になり、今年に入ってからはVisaやAmerican Express、Diners Clubも続けて停止となっている。この4月にも、コンテンツダウンロードサイト「DLsite」で上記の4社のカードが決済停止され、さらには6月、成人向けコンテンツ販売サイト「FANZA同人」でもVisaの使用が一時停止されている。

突然の停止に利用者は……(U-NEXTのHPより)

 世界のクレジットカードの5大ブランドとは、Visa、Master、American Express、Diners Club、そして国産のJCBを指す。上記の事例からは、海外ブランドのクレカが挙って成人向けコンテンツの決済から身を退いていることがわかる。

カリフォルニアでの訴訟が起点

 何が原因なのか。ITジャーナリストの三上洋氏が解説する。

「この動きは2022年、世界最大級の成人向けサイト『Pornhub』の中に、児童モノを含むコンテンツが投稿され、カリフォルニアで訴訟となったことが起点になっています。その際、サイト側だけでなく、決済サービスを行っているVisaまでが被告として訴えられ、責任を問う判決が出された。これ以降、同社を含めたクレカ会社は、性的な表現について非常にセンシティブに対応するようになりました」

 当初、クレカ会社はコンテンツの内容やタイトルについて要請を発し、サイト側が「ロリ」を「ひよこ」、「奴隷」を「下僕」にするなど、一部の表現を言い換えたり、伏せ字にしたりするなどの対応を取っていたという。

 だが、

「クレカ会社にとってみれば、それでもまだ不十分だったのでしょう。成人向けサイトそのものの決済を停止する、との措置にまで出るようになったと見られています」

編集者の嘆き

 現代社会において、クレカ決済が出来なければプラットフォーム側はビジネス上、大打撃を受け、利用者側も不便が大きい。政府のキャッシュレス推進の方向にも逆行する。

 三上氏は、それ以上に重大な問題点を孕むと指摘する。

「プラットフォーム側にとってみれば、決済の重要な手段を止められてしまってはビジネスになりません。大打撃を被るが故に、クレカ側の言うことを聞かざるをえなくなる。結果的に、クレジット会社という一民間企業が表現規制を行っていることになってしまっているのです」

 今年1月、あるフォトブック編集者によるXへの投稿が話題になった。この編集者氏も自ら運営する会員制電子写真集サイトのカード決済が、何の前触れも、説明もなく突然止められている。

<長年、クレジットカード決済で手数料を稼いできたクレジットカード会社によるあまりに乱暴な今回の措置に憤りを感じざるを得ません。有無を言わさず通告のみで「表現の場」を実質的に奪っていくそのやり方には、未来の管理社会を描いたSF映画のような恐ろしさを感じます>

<課金サイトは、大人の会員がクレジットカードを使って自らの意志で入会しています。誰もが自由に見られるわけではありません。そういう会員の意志も無視して、クレジットカード会社が有無を言わさず決済停止にしてしまうやり方が、果たして妥当なのでしょうか? まるで封建時代のお上が下々に対して下知するようなやり方です! 我々は果たして現代に生きているのでしょうか。先人たちが表現の自由を少しずつ獲得してきた歴史は何だったのでしょうか>

 三上氏は言う。

「自民党の山田太郎議員などはこの件に問題意識を持っていますが、なかなか対応は難しい。この流れが小説などにも飛び火したり、性的なものだけでなく、恋愛表現などにも波及したりしていくと、かなり多くの表現が規制を受けることになるかもしれません」

JCBの対応は……

 冒頭で述べたように、現在、5大カードの中で成人向けコンテンツに関し、決済停止などの措置を取っていないのは国産のJCBのみ。サイトの中にはクレカ決済は同社が「最後の砦」となっているところも少なくない。今後、JCBもこの動きに追随することはあるのか。

 JCB広報部に聞くと、こう回答した。

「各種法令および当社の規約等に則り、加盟店様と契約をさせていただいております。今後も、必要と考える手段を講じながらJCBカードの安全なご利用環境を維持・構築してまいります」

 これに対して三上氏は、

「JCBは国産のブランドということもあり、海外の潮流の影響を受けにくいという理由があるのでしょう。この問題が表面化して数年経ちますが、JCBが規制を強化する立場を取ってこなかったのは評価できます。その姿勢を保ってほしいと思いますが、世界的な潮流もあり、今後どうなるかは未知数です」

デイリー新潮編集部