本格展開から1周年を迎えた今年9月の会見で、瀬戸健社長(中央)は「国内フィットネスジムで会員数日本一を達成した」と宣言した(写真:RIZAPグループ)

高級ブランド店がひしめく東京・銀座。100円ショップ「ダイソー」やディスカウントスーパー「オーケー」に並んで、新たな低価格店がこの地区に進出した。月額2980円(税抜き)の廉価ジム「chocoZAP(チョコザップ)」だ。

商業施設「銀座ファイブ」の2階にある店舗は20時閉店で、昼間人口の多い夕方までが利用のピークタイム。店舗をのぞくと、窓際に3台のランニングマシンがあり、若い女性が走っている。ほかには腹筋マシンなど、9種類の器具が1台ずつ置かれている。

同店は今年8月に出店。チョコザップの都内店舗は、主要沿線の住宅地に隣接し24時間営業を行う店が多い。だが、地代の高い山手線内側の店舗も増えてきた。

エニタイムフィットネスを抜いた

チョコザップは、RIZAPグループ(ライザップ)が2022年7月から展開を始めた新業態だ。最大の売りは料金の安さにある。

国内で小規模・24時間営業ジムの先駆けである「エニタイムフィットネス」だと、銀座が位置する中央区の店舗の月額会費は7000〜8000円台。チョコザップは、スタッフのいない完全無人店でシャワー設備もないといった違いがあるとはいえ、半額以下だ。

気軽に利用できることも訴求ポイントだ。着替えや靴の履き替えは不要。1日5分の運動でいいと甘言をつぶやき、セルフエステやセルフ脱毛、セルフネイルまで提供している。2カ月の標準プランで約30万円かかり、パーソナルトレーナーが食事指導までするボディーメイクジムの「ライザップ」とは雲泥の差だ。

チョコザップの事業規模は11月中旬で1160店、101万会員となった。対するエニタイムフィットネスは、9月末で1100店、81.1万会員。アメリカ発祥で13年をかけて日本に店舗網を築いたエニタイムフィットネスを、1年強で追い抜いた勢いは驚異的といえる。


安さを売りに都心部にも出店を増やし、11月には1160店、会員数101万人を突破した。写真は2022年9月撮影(編集部撮影)

だが、まだまだ止まらない。2025年度中に2000店まで、さらに増やす計画だ。

集客のための広告費を含め、2025年度までの4年間で500億円をチョコザップに投じると、ライザップは公表している。1店舗当たりの出店費用は、1300万円前後のようだ。

主な原資は銀行からの借り入れ。2000店体制に近づくにつれて、既存店舗からの利益で新規出店費用が賄えるようになる算段だ。

ただ、その好循環に入るまでは銀行からの借り入れだけに頼れない。そこでライザップの創業社長である瀬戸健社長も身銭を切っている。

資産管理会社から55億円を融資

「チョコザップに対する覚悟と自信を示すタイミングだと考えた」。瀬戸社長がそう語るのは、今年8月に実施した自身の資産管理会社を通じた劣後ローンでの融資だ。

劣後ローンは「資本性がある」と認められるため、融資を受けた側は借り入れによる財務悪化を抑えることができる。ライザップはこれで55億円を調達した。

このとき、瀬戸社長には約1億円で新株予約権が割り当てられた。今後1年間でライザップが、一度でも四半期連結営業利益の黒字化を達成できたら、1株194円で予約権を行使できる。

すべて行使すると現在の発行済み株式総数の9.89%分を瀬戸社長が取得することになる。ライザップからすると、約107億円の資本増強になる。

ライザップの株価は足元で300円台。今後も上昇するのであれば、瀬戸社長は割安で取得できる権利を得たといえるが、リスクもその分負っている。

ライザップ株の終値の月平均値が一度でも行使価額である194円の半値に下がったら、2033年までの期間中に予約権をすべて1株194円で行使する義務を負う。買いを強いられるわけだ。

そのほかにもライザップは、チョコザップの出店費用を周辺事業の売却で捻出している。「役員会での話題の90%以上はチョコザップ」(ライザップ幹部)。まさに全社挙げての総動員体制だ。

結果は投資回収に入る2024年に

チョコザップの2023年度の売上高は、200億円近くになるとみられる。売り上げではボディーメイクジム「ライザップ」を上回る可能性があるが、損益は先行投資がかさみマイナス。ライザップの通期連結営業損益は45億円の赤字の予想で、そのほとんどがチョコザップの赤字と考えていい。

「今寄せられるM&A(合併・買収)の話の中に、低価格帯の24時間ジムの案件がかなり含まれている。彼らも苦しんでいるのではないか」

競合からはそんな冷ややかな声も聞こえてくるが、チョコザップは2024年度から投資回収期に入る見込み。覚悟を示した瀬戸社長にとっては、結果を証明する年になりそうだ。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)