誰でも編集できるフリー百科事典のWikipediaには質の高い記事が多く存在しており、それらはWikipediaの編集に心血を注ぐ「ウィキペディアン」によって作成されていますが、時には生産性のない編集合戦が繰り広げられることも。こうした不毛な争いが行われた記事を特集したWikipediaの項目があったので、その中から興味深いものや日本人にとって身近なものをピックアップしてみました。

Wikipedia:Lamest edit wars - Wikipedia

https://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Lamest_edit_wars



◆民族と国家の確執

Wikipediaの「不毛な編集合戦」のリストはいくつかの項目に分かれており、この民族や国にまつわる争いの項目にはショパンやニコラ・テスラなどの有名人の人種や出身国などを巡る議論が含まれています。

特に日本人に身近な議論としては、日本と韓国がともに領有権を主張している竹島(韓国では独島)の英語版記事である「Liancourt Rocks(リアンクール岩礁)」の編集合戦や、韓国が日本海(Sea of​​ Japan)を独自の呼称である「東海」に変更するよう求めている日本海呼称問題(Sea of Japan naming dispute)にまつわる記事があります。

その他には、フレディ・マーキュリーのルーツを巡る問題からフレディ・マーキュリーをインドのロックスターとするのか、イラン人とするのか、アゼルバイジャン人とするのかといった議論や、作中では国籍が明らかにされていないグランド・セフト・オートIVの主人公であるニコ・ベリックの出身国が具体的にどこなのかといった議論などもこの項目に入れられていました。



by Carl Lender

◆名前

この項目では、さまざまな人名や地名の表記方法に関する編集合戦が取り上げられています。その中には、ファイナルファンタジーVIIに登場するエアリス・ゲインズブールの名前のつづりが「AerisなのかAerithなのか」を巡る長い論争や、ホラーゲーム・サイレントヒル3の主人公であるヘザーのフルネームが「ヘザー・モリス」なのか「ヘザー・メイソン」なのかの議論、セガのゲームハード・メガドライブの項目名を「Sega Genesis」にするか「Mega Drive」にするかの議論など、日本のゲームに関するものが散見されました。

また、小説「ハリー・ポッター」シリーズの著者であるJ・K・ローリングの発音記号をイギリス風にするかアメリカ風にするかの議論や、対馬海盆の名称問題など、前項である「民族と国家の確執」と少し関連するものもありました。



◆つづりと句読点

スペルに関する問題としては、「色(Color/Colour)」や「アルミニウム(Aluminium/Aluminum)」などがあります。また、ブラジルは英語で「Brazil」とつづりますが、ブラジルの人が使うポルトガル語では「Brasil」が正しいので、英語版の「Brazil」の記事でも「Brasil」と表記することにこだわる人もいるとのこと。

日本の言葉としては、ライトノベル「狼と香辛料」に登場する「ホロ」というキャラクターのスペルを「Holo」とするか「Horo」とするかが、海外のウィキペディアンをかなり悩ませたようです。また、個別に記事化された「スペル・大文字/小文字・句読点に関する不毛な編集合戦」のページでは、抹茶(Matcha)をローマ字表記の「maccha」と表記すべきだという主張が5段落にわたって書かれていたことが紹介されていました。



◆表現

ここでは、各ページで扱う物事をどのように表現するかに関する議論が言及されています。例えば、音楽グループの「バンド(band)」はアメリカ英語では単数扱いで、イギリス英語では複数扱いなので、書き出しを「○○(バンド名) is」とするか「○○ are」とするかでよく問題が起きているとのこと。この問題をめぐり、Angels & Airwavesというバンドの英語の記事では2人の編集者が1時間に46回もの編集合戦を繰り広げました。

また、任天堂のゲームに登場するクランキーコングを「元ドンキーコング」とするか「ドンキーコングの父あるいは祖父」とするかといった設定のぶれや、ファイナルファンタジーVIIIのファン層の大きさを「巨大」とするか「ファイナルファンタジーVIIと同じくらいの大きさ」とするか、同作に登場するスコール・レオンハートは「ヒーロー(hero)」なのか「主人公(protagonist)」なのか、ファイナルファンタジーVIIに登場するティファ・ロックハートの胸を「豊満」と形容するかどうかなども熱い議論の対象になった模様です。



by shotwhore photography

◆フィクション

ここには、主にフィクション作品そのものや登場人物の位置づけが編集合戦に発展した事例が取り上げられています。一例としては、ドラゴンボールGTを正統なシリーズに含めていいのかどうかの議論や、ゼルダの伝説シリーズに登場するリンクの音訳を「Rinku」と「Rinkū」のどちらにするかの議論、漫画「NARUTO -ナルト-」に登場した波風ミナトが主人公のナルトの父親だと公式に明かされる前に「波風ミナトとナルトは似ている」と指摘していた一文の取り扱い、映画「スターウォーズ」に登場するアナキン・スカイウォーカーとダース・ベイダーを1人のキャラクターとするかどうかの議論などが挙げられます。



◆一覧

Wikipediaにはさまざまな一覧がありますが、これにまつわる議論には「ブリトニー・スピアーズは処女か?」の議論からそもそも一覧としての体をなさないとして削除された「処女の一覧」、「僕のヒーローアカデミアの登場人物一覧」でどこまでキャラクターを説明するかの議論、「キャットガール/ボーイの一覧」にハリーポッターシリーズのハーマイオニーを追加するかどうかといった不毛な議論が含まれています。

◆画像

Wikipediaに掲載される画像をめぐっては、2020年の大西洋ハリケーンの画像としてほとんど見分けが付かない2枚の写真のどちらが優れているかの議論や、クモ恐怖症のページにわざわざ巨大なタランチュラの画像を掲載するかどうか、見えざるピンクのユニコーンを画像でどう表現するかなどが議論されました。



◆その他

「おそらく最も奇妙な編集合戦の1つ」とされているのが、ティラノサウルスに関する議論です。このページでは、ティラノサウルスが捕食者だったのか腐肉食動物だったのかをめぐり、匿名のユーザーが自分自身と熱い議論を繰り広げたかのように見えましたが、実際は偶然同じIPアドレスを使っていた他人同士だったことが後で判明しました。