米ラスベガスで世界最大のエレクトロニクスショー「CES 2023」が開幕します。同イベントに出展するソニーが、現地時間1月4日にプレスカンファレンスを開催し、リアルとバーチャル空間をつなぐ旬なコンテンツ制作技術の数々を発表しました。ソニー・ホンダモビリティが2025年に発売を予定するスマートEV(電気自動車)の新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」の試作車も公開されています。

「CES 2023」プレスカンファレンスに登壇したソニーの会長 兼 社長 CEO、吉田憲一郎氏

ソニー・ホンダモビリティ、自車ブランド「AFEELA」発表

ソニーは2020年のCESで独自の技術とデザインを採用するEVのコンセプト「VISION-S(ビジョン・エス)」を発表し、話題をさらいました。2022年10月には本田技研工業とソニーによる合弁会社であるソニー・ホンダモビリティを設立。AFEELAはソニー・ホンダモビリティが初めて掲げるモビリティの新ブランドです。

ソニー・ホンダモビリティの新ブランド「AFEELA」を発表

2023年のCESではAFEELAのプロトタイプもお披露目されました。VISION-Sをさらにブラッシュアップした未来的なデザインのセダンEVです。

プレスカンファレンスのステージにはソニー・ホンダモビリティの代表取締役会長 兼 CEOである水野泰秀氏が登壇し、AFEELAに搭載する技術と今後の展望を説明しました。

まず「AFEELAのクルマ」が発売される時期の見通しについては、今回のCESで公開したプロトタイプをベースに開発が進められ、2025年の前半に先行受注を開始。同じ年に発売する予定であることが明らかにされました。購入者へのデリバリーは2026年春に北米からスタートします。

ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀氏

ソニーの公式YouTubeチャンネルには、AFEELAのプロトタイプがプレスカンファレンスのステージに堂々と入場する様子が動画で紹介されています。



プロトタイプの車体には、800TOPS(毎秒800兆回以上の演算)の処理をこなす高性能なSoCを搭載し、クルマの内外に搭載した合計45個のカメラやToFセンサーなどを制御します。今後、AFEELAシリーズでは特定条件下での自動運転機能はレベル3、市街地などより広範な運転条件下での運転支援を行うレベル2+の実装を目指すとしています。

車体の内側・外側に合計45個のセンサーを搭載

モビリティの「頭脳」にはSnapdragonを採用

ソニー・ホンダモビリティは、AFEELAをはじめとする同社のモビリティのAI、安全運転や5G通信に関わる技術などを高度化するため、米クアルコムが提供する車載用SnapdragonシリーズのSoCを今後採用することも発表しました。

クアルコムのクリスティアーノ・アモン氏

CESのステージに、ソニーの会長 兼 社長 CEOの吉田憲一郎氏と並び、戦略的な技術パートナーシップを組むことになった米クアルコムの社長 兼 CEOのクリスティアーノ・アモン氏が登壇。モバイルのSoCから成功したSnapdragonシリーズが、さまざまなデバイスやサービスのインテリジェンスやコンピューティングのテクノロジーと結びつき、「私たちのこれまでの長い旅路が、ここでソニー・ホンダモビリティの道と交わり、これからともに歩みながらイノベーションへの情熱を共有できることをとてもうれしく思う」とコメントしました。

クアルコムの車載用SoCと、これを中核とするプラットフォームは今後、AFEELAの自動運転・先進運転支援システム(AD/ADAS)や写真インフォテインメントシステム、テレマティクス(通信情報サービス)の制御を支えていくことになります。

独自の車載インタフェースをEpic Gamesと共同開発

AFEELAを紹介するステージには、Epic GamesからCTOのキム・レブレリ氏も出席しました。ソニー・ホンダモビリティの水野氏は「AFEELAではモビリティにおける時間と空間の概念をより拡張する」ことを宣言しています。具体的なイメージはまだ示されていませんが、この点の技術革新については今後Epic Gamesとの連携を強化し、モビリティに搭載するセンサーがとらえた画像や走行情報を、Epic GamesのUnreal Engineを活用してバーチャル空間にミックスしながら表示する、革新的な車載ユーザーインタフェースの開発が今後展開されることになりそうです。

Epic Gamesのキム・レブレリ氏

Epic Gamesのレブレリ氏も「当社の代表作『フォートナイト』も採用するゲームエンジンのUnreal Engineは、これまで数多くのエンターテインメントコンテンツや産業用アプリケーションの開発を支えてきた。ソニーグループも過去20年間以上、ゲームコンテンツや映画、テレビ番組、コンサートの舞台制作にUnreal Engineを活用されている。これからソニー・ホンダモビリティとの協業により、当社も注力する次世代モビリティ分野でのインタラクティブなオートモーティブ技術を一緒に提供できることがとても楽しみだ」と述べています。

両社の協業は今後、車載センサーや安全走行システムからのデータを視覚化するインタフェースや、エンターテインメントの領域にも広く及ぶことになります。レブレリ氏は「革新性と安全性の両面からドライバーや同乗者が車内空間で自然に触れられるインタフェースを探求したい」とコメントしています。

AIとUnreal Engineにより、トラフィックを可視化する車載ユーザーインタフェースのイメージ

Epic Gamesとの協業と直接結びつくものではありませんが、AFEELAの試作車はフロントパネルに「Media Bar」と名付けたディスプレイを搭載しています。「知性を持ったモビリティがその意思を光で語りかける」というコンセプトを掲げるインタフェースに、バッテリーの充電ステータスなどが表示されるイメージが紹介されました。ソニー・ホンダモビリティの水野氏は「今後Media Barの活用についてさまざまなクリエイター、企業パートナーを招き入れて一緒に可能性を模索したい」と語りました。

3D画像を遅延なく取り込む「可搬型ボリュメトリックシステム」

ソニーは、コンシューマ向けにさまざまなオーディオ・ビジュアル製品を手がけるエレクトロニクスメーカーとして親しまれています。しかし、特に近年のCESでは、コンテンツ制作のプロクリエイター向けの新しい技術やサービスを発表することに注力している印象を受けます。

2023年にも、いわゆる「メタバース(デジタル仮想空間)」とリアルの世界を結びつけるコンテンツの制作をサポートするプロクリエイター向けの発表がいくつか行われています。

新しいトピックスのひとつが「可搬型ボリュメトリックシステム」のプロトタイプです。ボリュメトリックとは人物・物体・空間の3D画像をデータ化する技術です。ソニーでは据え置き型のボリュメトリックシステムを開発し、国内では「清澄白河BASE」に代表されるグループ会社のコンテンツ制作拠点に配備してきました。同スタジオでは既にシステムをフルに回転させて、さまざまなエンターテインメントコンテンツの制作を行っています。

スタジオなどに持ち込んで設置、3D画像・映像をリアルタイムにデータ化できる「可搬型ボリュメトリックシステム」のプロトタイプを開発

CESに合わせて発表された新しいボリュメトリックシステムの特徴は、「可搬型」であることです。大規模なスタジオで稼働させる据え置き型のシステムから、カメラ(センサー)の台数を省略しながら、デジタルデータのクオリティを落とさずに、よりリアルタイムに近いスピードで遅延なく生成することにも軸足を置いています。

サッカー選手がリフティングする動画を、高精細なデータとして取り込める

機動力に優れるボリュメトリックシステムは、今後はスタジオを離れた遠隔地での3D映像ライブ配信などに活用されることを見据えて、本格的な開発が進められます。CESの会場では、この可搬型ボリュメトリックシステムのプロトタイプが展示され、来場者が自身の姿をすばやく取り込んで、バーチャル空間上で動かせるデモンストレーションが用意されているそうです。

バーチャル空間に飛び込めるディスプレイが大型化

このほかにもCESでは、2023年以降にソニーが仕掛けるさまざまな新しいテーマや製品が紹介されています。そのひとつが、3D制作された動画や静止画を立体視できる「空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)」です。

ソニーは2020年の秋に空間再現ディスプレイを商品化し、国内でも15.6インチの「ELF-SR1」を発売しています。3Dの映像や写真、ゲーム、音楽をミックスしたコンテンツのクリエイターなどに広く活用されているようです。

ソニーが開発を進める、27型の「空間再現ディスプレイ」のプロトタイプ

今回のCESでは27型のプロトタイプモデルを展示しています。ソニーは画面が大きくなることの効果について「原寸大表示ができる幅が広がり、医用画像やプロダクトデザインなどをより実在感のある立体映像を再現できる」と説明しています。

2022年末にソニーが本社で開催した技術展「Sony Technology Exchange Fair 2022(STEF 2022)」では、32型の空間再現ディスプレイのプロトタイプが展示されていました。デモでは、ホークアイのライブスポーツデータから生成された多視点映像を見たり、バーチャルキャラクターを操作できたりするエンターテインメントへの応用例を体験できました。筆者もこれを視聴していますが、立体視と高精細なキャプチャ技術をかけ合わせた映像を大きな画面で楽しめる迫力は、確かに「別種の新しいエンターテインメント」でした。

STEF 2022に展示された32型空間再現ディスプレイ。画面が大型化すると迫力も段違いに高まる

空間再現ディスプレイについて、ソニーは接客や工事現場などでの使用を想定した55型のプロトタイプも試作しています。50型クラスの大型化も既に見通しが立っているということです。今までにない、新しいバーチャルエンターテインメント空間に「飛び込めるディスプレイ」として、今後このシリーズはオーディオ・ビジュアル的な視点からも注目する必要がありそうです。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら