霊長類が「アルコールを多く含む果実」を好んで食べている事例が確認されました。この観察結果によって人間がアルコールを好む理由の理解につながる可能性があります。

Dietary ethanol ingestion by free-ranging spider monkeys (Ateles geoffroyi) | Royal Society Open Science

https://doi.org/10.1098/rsos.211729

Monkeys often eat fruit containing alcohol, shedding light on our taste for booze | Berkeley News

https://news.berkeley.edu/2022/03/30/monkeys-routinely-eat-fruit-containing-alcohol-shedding-light-on-our-own-taste-for-booze/

カリフォルニア大学のロバート・ダドリー教授は、過去の観察から「霊長類が好んで食べる果物の中には、発酵すると最大7%のエタノールを含むようになる種類もある」ということを発見しました。一般的に、エタノールを含む発酵した果実は、通常の果実よりも栄養価が高いことが知られていることから、ダドリー教授は「人間がアルコールを好む傾向は、祖先の霊長類が『発酵した栄養価の高い果実』を好んで食べていたことに起因するのではないか」という「酔ったサル仮説」を立てました。しかし、この仮説を立てた時点では、ヒト以外の霊長類が「発酵した果実を優先的に食べる」「果実に含まれるエタノールを消化できる」といったデータは存在しませんでした。

そこで、カリフォルニア大学とカリフォルニア州立大学の合同研究チームは「酔ったサル仮説」を検証するべくパナマのバロ・コロラド島で野生のジェフロイクモザルが食べた果実の残りかすを収集して分析しました。

その結果、ジェフロイクモザルが食べた果実の多くが中南米に住む人々によって何千年も前からアルコール飲料「チチャ」の製造に利用されていたモンビンノキの果実であり、体積比1〜2%のエタノールを含んでいたことが判明しました。



さらに、ジェフロイクモザルの尿を分析した結果、エタノールの代謝の際に生じる成分「エチルグルクロニド」「硫酸水素エチル」が検出されました。ダドリー教授はこれらの結果をもとに「ジェフロイクモザルが食べている果実にはエタノールが含まれており、ジェフロイクモザルはそのエタノールを消化できます」と述べ、今回の結果によって「酔ったサル仮説」の実証に近づいたことをアピールしています。

また、ダドリー教授は「ジェフロイクモザルが酔う前に満腹になるため、ジェフロイクモザルが酔うことはないでしょう」と述べ、ジェフロイクモザルがエタノールを多く含む果実を食べる理由が「アルコール摂取によって酔う感覚を楽しむため」ではなく「栄養価の高い食べ物を食べるため」であると説明しています。