製品レヴューでは多くの場合に10点満点で評価をするが、これは『WIRED』UK版でも同様である。仮にあなたがスマートフォンを試して点数を付けるとしたら、持ち点の「10点」をどう配分するだろうか。おそらくデザインに2点、カメラに3点、バッテリーの持続時間やディスプレイ、価格設定などにそれぞれ1点といったところだろう。

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しかし、それよりずっと興味深い10点満点の評価が存在する。フランス政府が導入した「修理可能性指数」において、最新の「iPhone 13」シリーズは点数が6.1か6.2だったのだ。

この修理可能性指数は、2020年になってテック界に初めて現れた好ましい変化のひとつで、デヴァイスの修理のしやすさと修理にかかる費用の手ごろさをスコア化している。そしてスマートフォンの新モデル「Fairphone 4」は、このスコアでなんと9.3を記録したのだ。

このFairphone 4はiPhoneに負けないくらい素晴らしく、機能が抜群なのだろうか?

まずは別の視点から解説していこう。Fairphone 4は「モジュール式」の5G対応スマートフォンで、モデルは2種類(RAMが6GBでストレージ容量が128GBのモデルと、RAMが8GBで256GBのモデル)が用意されている。価格は499ポンド(約76,400円、日本未発売)からで、5年間は使えるらしい。

モジュール式なので、交換用のパーツを購入できる構造になっている。USB-Cポートとスピーカー、イヤフォンジャック、100%リサイクルされたポリカーボネート製背面カヴァーは20ポンド(約3,000円)でお釣りがくる価格だ。

容量が3,900mAhのバッテリーと自撮り用のカメラは25ポンド(約3,800円)、ゴリラガラス5を採用した6.3インチのフルHDディスプレイと48メガピクセルのデュアルカメラは70ポンド(約10,700円)となる。こうしたパーツはすべて、ユーザーがDIYで交換できるよう設計されている。だからこそFairphoneには、交換作業に使う工具としてドライヴァーが付属するわけだ。

しかも、交換用のパーツはどれも2027年まで購入できる。Fairphone 4のOSは「Android 11」で、Android 12と13まではソフトウェアアップデートに対応する。チップメーカーのサポートはそれほど先まで続かないが(「Snapdragon 750G」が搭載されている)、Fairphone側がどうにかすればAndroid14と15にも対応できるかもしれない。おまけに保証は5年間。すなわち、Fairphoneは“本気”ということなのだ。

もっと修理しやすい構造に

そんなわけでFairphone 4は、iPhone 13に負けないほど素晴らしく機能抜群というわけではない。確かに卓越した製品であり、人間と機械の最適化に配慮されている。一方で、いまどき珍しいほどディスプレイに存在感があり、しかも本体の厚みは10.5mmで重量が225gと、かなりがっしりとしたスマートフォンだ。

この製品の第一印象について、数人の気難しいレヴューライターは不満をこぼしている。ディスプレイを斜めから見るとピンクがかっていて、室内での撮影ではフラッシュの点灯が遅く、スピーカーの音は少し安っぽいというのだ。それでもサイズ感さえ気にならなければ、玄人好みのデヴァイスと言えるだろう。

バッテリーのもちはまずまずで20Wの高速充電に対応し、これまでのところ動作はスムーズだ。フラッシュを使わなければ、メインカメラも超広角カメラも非常に使いやすい。ただし、同じ価格帯に位置するシャオミ(小米科技)の「Xiaomi 11T Pro」と比べると、ほぼすべてのスペックにおいて見劣りする。

だが、Fairphone 4の場合、旧モデルの「Fairphone 3」と同じように3〜5年は使えるという価値に200ポンド(約30,700円)ほど多く払っている点を忘れてはならない。今後も長く使える5Gに対応していることで、価格のバランスは間違いなく変わってくる。

スコアの配点についても考えてみよう。Fairphone 4が手元に届いてすぐの数日間は、ねじに手を付けなかった。しかし、Fairphone 4を前に最も胸が躍った瞬間は、背面カヴァーを外して内部を目にしたときだった。色鮮やかなグラフィックや数字が並び、DIYで修理するよう導いてくれている。

「もっとわかりやすくしたいと考え、部品の配置を完全に再設計したのです」と、Fairphoneの最高経営責任者(CEO)のエヴァ・ガウウェンスは説明する。「旧モデルでカメラを交換する際には、先にディスプレイを外さなくてはなりませんでした。そのために13個のねじを外す必要があったのです。その工程を入れ替えました」

ユーザーの1割が自分で修理

ガウウェンスの推定によると、30万人を超えるFairphoneユーザー(2020年は95,000台を販売した)のうち、これまで実際にデヴァイスを自分で修理した人は約10%になる。意外と少ないと思うかもしれない。

だがガウウェンスは、その理由として「Fairphone 2」の際に扱いづらさと安定性の問題があった点と、販売は終了したもののサポートが継続されているFairphone 3が2年前に発売されたばかりである点を挙げる。それに世界的な部品不足の影響を受けているとはいえ、当座しのぎとして発表された「Fairphone 3+」は現在も販売中だ。

アムステルダムに拠点を置く従業員100人ほどの同社のやり方を外部から見ると、新製品が毎年投入される年周期のサイクルと大差はないと思えるかもしれない。そしてそうしたサイクルのせいで、スマートフォンの計画的な陳腐化は止まらず、電子機器の廃棄物も減らないのだ。

「たとえ5年使えるスマートフォンを販売しても、発売から4〜5年経ってから購入する人がいれば、交換用のパーツは9年から10年分は必要になります。それでは実現は不可能です」と、ガウウェンスは説明する。「新製品が次々に発表されるサイクルを克服すべく努めていますが、いまのところはかなり厳しいものがあります。ソフトウェアサポートと交換用パーツを提供する約束は維持したいです。それに5年保証というメーカーは、ほかにはありませんから」

「競争に勝つ」以外のミッション

もしガウウェンスが米国の風刺コメディドラマ「キング・オブ・メディア」の登場人物だとしたら、1話で消えてしまうと気をもむことだろう。質問されれば答え、それに対する答えがないときはきちんとそう認めるのが彼女の流儀なのだ。

とはいえ、ガウウェンスは自らの仕事の大きな部分を占めているものが何なのか、十分に心得ている。なすべきは競争に勝つことではない。収益化を果たした同社を財務的に維持しながら、テック業界で常に先を行き、規模は小さいながらも優位に立ち続けることなのだ。

Fairphoneは欧州の「修理する権利」のキャンペーンに正式参加しているほか、最新の欧州エコデザイン指令 (ErP指令)を支持しており、環境への悪影響の低減に挑んでいる。さらに欧州のパートナーと提携することで、スマートフォンのリサイクルや再生品の販売にも積極的に取り組んでいる。それでも全体のリサイクル率は約15%と低いままだ。

Fairphoneは自社のスマートフォンが1台売れるたびに1台をリサイクルするか再生品として販売することで、“電子ごみニュートラル”を目指している。このコンセプトは、新製品を毎年発表する方法に依存せずに済む未来型ビジネスモデルの糸口にもなるかもしれない。

PHOTOGRAPH BY FAIRPHONE

材料の再利用と公正な調達を重視

スマートフォン全般に関して言えば、生産を巡る厳しい現実もある。アップルは19年に原材料のサプライチェーンについて、将来を見据えて「Material Impact Profiles」と題した独自の研究を実施している。だが、目に見えた成果はまだ何も発表されていない。一方、この研究で取り上げられた多くの原材料について、Fairphoneはレポートやイヴェントで進捗状況を発信している。

持続可能な原材料に関して大手テック企業の大半は、ひとつの製品やひとつのシリーズ、ひとつの部品に限って取り組むにとどまっている。例えば、iPhoneのディスプレイを押したときの振動フィードバックなどをつかさどる「Taptic Engine」のレアアースにはリサイクルされた素材が使われているが、これがiPhone全体のリサイクル素材の25%を占める。

このようにアップルとグーグルは対策を進めているが、対するFairphoneは“不道徳”とも言える状況の全体像を率先して明らかにしている。同社によると、18年にFairphoneに使われていた8つの主要な原材料のうち25%が、サプライチェーンにおける持続可能性と労働条件に関する同社の詳細かつ透明な基準に基づいて「公正に調達」されていた。この割合は上昇しており、19年には32%に、20年には56%となっている。

このリストには6つの原材料が追加され、いまではリサイクルされたスズやレアアースに限らず、ASI認証を受けたアルミニウム、フェアトレードの鉱山で採掘された金、ルワンダで調達された「公正」かつ「紛争フリー」のタングステンも含まれている。

Fairphoneは現在、コバルト、銅、インジウム、リチウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛のサプライチェーン改善にも取り組んでいるところだ。同社によると、これらの原材料の循環利用と再利用が100%実現することはなさそうだが、Fairphone 3のように規模が拡大するたびに、より真剣に受け止めているという。

人道的な側面に関してはFairphoneは20年、中国にある工場の労働者に給料4カ月分に相当する生活賃金ボーナスを支給している。ガウウェンスの説明によると、サプライチェーンの前段階では基本的に請負というかたちで働く鉱山労働者が多いことから同じような見積りは難しいが、社会問題の解決を目指すFairphoneの介入によって昨年は計10,717人が恩恵を受けたとみているという。

さらに製品寿命を延ばすために

アップルの「AirPods」の修理が困難であるとされ、その製品寿命が大いに騒がれてから約2年。FairphoneはFairphone 4と同時にワイヤレスイヤフォン「Fairphone True Wireless Earbuds」を発表した。今後もスマートフォン用アクセサリーは投入される予定だという。

True Wireless EarbudsはBluetooth対応のワイヤレスイヤフォンで、価格は90ポンド(約14,000円)。アクティヴノイズキャンセリング機能が搭載され、30%のリサイクルプラスティックとフェアトレードの金を使っており、耐水設計になっている。Fairphoneにとって、これは始まりにすぎない。

ガウウェンスに言わせれば、驚くべきはイヤフォンの製品寿命だ。「まだテスト中で時間がかかっていますが」としたうえで、ガウウェンス次のように語る。

「イヤフォンのバッテリー寿命は平均200サイクル[編註:充電されていない状態から満充電し、そこから完全放電するまでが1サイクル]です。わたしたちのイヤフォンは現時点で500サイクルで、800サイクルを目指しています。これは製品寿命を延ばすための第一歩なのです」

おそらくバッテリー寿命のスコアは、10点満点になることだろう。

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