新人がミスをして落ち込んでいたり、人間関係に悩んでいるとき、指導する立場の人はどうすべきでしょうか(写真:kouta/PIXTA)

新入社員や若手が、ミスをして落ち込んでいる。あるいは人間関係に悩んでいる。こんなときに、指導する立場の者はどうすべきだろうか。

「新人を早く育てたい」「でも手取り足取り教えている時間はない」というジレンマは、多くのビジネスリーダーが抱える悩みだ。ソフトバンクで2万人の社員教育に関わり、『10秒で新人を伸ばす質問術』(東洋経済新報社)を上梓した人材育成のプロに、不調で伸び悩む若手をいち早く立ち直らせるコツを聞いた。

まず大切なことは、指導者が新人の悩みに早く気づいてあげることです。


新人は、就業外で同期などの近しい仲間には心のうちを見せられるのですが、職場に来ると悩みを共有できず、1人で悶々と悩むことが多いのです。

その結果、相談するまでに相当な時間をかけてしまいます。生産的な悩み方ならまだいいのですが、無駄に悩みすぎて業務効率が極端に落ち、ミスもしやすくなる傾向があります。

ですから、新人が相談に来る前に、指導者が状況を察知して自ら情報を取りにいく必要があります。そして新人の不調に気づいたら、すぐに個別に話をしてみてください。

気配り1:自分のせいにして話を聞き出す

このとき、新人に自身の悩みを打ち明けやすくさせるアプローチがあります。あえて新人の悩みを指導者側のせいにして、新人に話しやすくさせるきっかけをつくるというものです。

指導者:「実はさ、最近元気なさそうだから、少し不安だったんだけれど、もしかしてそれって私が原因だったりする?」
新人:「いえいえ、○○さんが原因というわけではありません。実は……」

このように、ぐっと相手の心に介入できる可能性が高まります。

大抵は、「実は人間関係のことで悩んでまして……」とか「実はお客様のことで……」とか「実は、自分の体調のことで……」など、何か言ってくれます。ぜひ臆せず直接話してみてください。

気配り2:短納期の単純作業をさせる

ソフトバンクで学んだことの1つに「失敗を恐れずに行動する」「仮に失敗しても、それを素直に認めてリカバリーに倍努力する」があります。当時、社長もツイッターで「失敗したときは素直に認めたほうがいい。直後に切り替えて倍の努力をすればいい」とつぶやいていました。

私は、このメッセージを自分なりに解釈して、新人指導にあたってきました。

多くの新人は、ミスをして叱られた直後に、大なり小なり落ち込むものです。しかし、数日たってもまだ落ち込んでいるようだと、仕事にも差し障りが出てきてしまいます。

これを防ぐのにいちばんいい方法は、失敗をしたあと、間髪を入れずに単純作業の仕事をさせることです。それもあえて短納期にします。そうすれば、新人は無理やりにでも気持ちを切り替えざるをえなくなります。

例えば、アイデアを出すような仕事は、時間をかけて考えればいい案が出てくるという類の仕事ではありません。ですので、うまく企画案が浮かばずに、さらに落ち込んでしまう可能性も出てくるわけです。

しかし失敗直後の単純な作業は、しっかりとやっていれば必ず事が前に進んでいきます。例えば、在庫の確認作業やエクセルでの集計作業など、その人にとって絶対に前に進む単純作業を依頼することがポイントです。

「10件チェックしたら報告してください」と伝え、報告がきたら「ありがとうございます。とても助かります」と伝え、小さな達成感をすぐに味わえるようにしてください。

ショックが拭えないほどの失敗をしたあとは、自分が無能に思えて仕方がないものです。しかし、単純作業は、手を動かせば動かした分だけ確実に進むわけです。自分で状況をコントロールできる感覚を味わわせ、「自分にできることもある」ことを思い出し、自信を回復させるまでの時間を短縮できます。

また、指導者もすぐに、「もうできたんですね」「報告ありがとう」「助かるよ」などと言えるので、コミュニケーションをとるきっかけにもなります。

気配り3:「人」から「成果」に目を向けさせる

人間関係の悩みは、新人の仕事の効率を下げます。私たち指導者は、新人の人間関係の悩みにより注意を払い、指導することで彼らの仕事の効率アップにつなげられます。

私の経験談を少しお話しします。以前、あるグループ会社向けのプロジェクトで、思うように自分の役割が果たせない時期があり、先輩から毎日厳しく指摘を受けたことがありました。朝起きると「指摘メール」が届いていて、会社に着くとまた怒られるというサイクルが毎日続き、正直言って滅入ってしまっていました。

当時の私は、細かく管理し厳しく指摘するタイプの人がとても苦手でした。このことを別の先輩に相談したところ、しっかりと私の話を聞いてから、私の目を見てこう言ったのです。

「気持ちはわかるが、もっと成果に目を向けなさい」

私は「たしかにそうだな」と思い、小さくうなずきました。初めてのプロジェクトで、グループ会社のことがよくわからず、知識不足の点を細かく突かれたのは明らかに私の努力不足でした。その点は自分でもわかっていたのですが、プロジェクトリーダーは私の知識不足を知っているのだから、もっと丁寧にいろいろ教えるべきだと思っていたのです。

しかし、腹を割って知識不足の現状を説明して、対策を提案する勇気が持てませんでした。「とにかく注意されたくない」「これ以上傷つきたくない」と、毎日逃げ出したい一心でした。

私の例からもわかるように、人間関係を必要以上に気にしすぎる新人には本来の目的である「成果」に、より目を向けさせることが必要です。

もちろん、新人の悩みをしっかり聞き、共感してあげることも大切です。ですが、やはりそれだけでは根本的な解決になりません。長い会社生活のなかでは「成果を出すためなら、苦手な人とも、共に働いていかねばならない」ということを学ばせ、覚悟を持たせなければなりません。

人間関係なんて言っていられない状況に追い込む

新人に対して、人間関係ではなく成果に意識を向けさせるために、指導者として知っておいて損はない刺激的なアプローチがあります。それは、「人間関係を意識していられないほどハードな仕事に関わらせる」方法です。

例えばソフトバンク在籍時には、社長案件のプロジェクトとなると、いつも以上にチームワークが発揮されるということがありました。超短納期かつ失敗も許されない土壇場で、チームでもめている暇などまったくないからです。

仲がよかろうが、悪かろうが、協力せざるをえず、みんな必死になって1つのことに向かわざるをえないのです。ですので、チーム内に仲が悪い人同士がいたとしても、そんなことも吹っ飛ぶぐらいの勢いですべてが進んでいきます。そして気づけば成果が出たとき、それをみんなで自然と分かち合える関係になっているのです。

要は、人間関係の問題は、表面的なわだかまりにすぎない場合も多いので、そんなことを気にしていられないほどのハードな仕事を与えるのも1つのアプローチとして「あり」ということです。